53話 深夜の訪問者
リオ、サラ、ヴィヴィで来客用の一部屋を与えられた。
これにはカリスが反対した。
男のリオとサラが一緒の部屋はどうかというのだ。
旅の間、ずっと同じの部屋に泊まっていたのに今更何を言ってるんだ?と皆が呆れる。
「その、なんだサラ、リオと一緒が嫌なら俺の部屋に泊まってもいいぞ」
とカリスは前言を覆す提案をキメ顔でサラにする。
皆がまたもぽかん、とする中でサラが冷めた目で言った。
「結構です」
「な……」
何故か断られるとは思わなかったようで呆然とするカリス。
これ以上、このくだらないやりとりはごめんとばかりにナックがリオを自分の部屋に泊めることで一応決着した。
そう、一応。
そして深夜。
サラは軽装で壁を背にして座り、剣を手が届く位置の壁に立てかけていた。
まるで治安の悪い街の宿屋に泊まったときやキャンプで見張り立っているときに匹敵する警戒振りで、とても知人宅に泊まっていると思えない。
言うまでもなくストーカー対策である。
そして予想通りストーカー、カリスはやってきた。
(……サラ、おい、サラ、俺だ)
ドアの向こうから囁くようにサラを呼ぶ声が聞こえた。
サラはその声を無視する。
サラはヴィヴィの様子を見た。
寝ているかはわからないが声に反応する様子はない。
カリスはいくら呼んでも返事がない事に業を煮やしたのか実力行使にでる。
ガチャガチャガチャ。
ドアノブを回す音がするが、内側からカギをかけているためドアは開かない。
サラはカリスの行動に呆れた。
(信じられない。自分の家とはいえ夜中に無断で客室に侵入しようとするなんて)
サラの中でカリスに対するヘイト値が増加する。
サラはこの部屋の鍵を使う可能性に今更気づいた。
許可なく部屋に入ってこようとするのだ。鍵を使って入ってくる可能性も十分考えられる。
(大声でみんなを起こそうかしら……いえ、入ってきたら泥棒と間違えたと言って半殺しね)
鍵のことにカリスも気づいたようで微かに(カギだ)という呟きがしたかと思うとドアの外から気配が消えた。
サラはため息をつきながら立ち上がると剣を装備する。
しばらくしてまたドアの外に気配を感じた。
(……サラ、おい、サラ、俺だ。寝てるのかサラ)
再びカリスのサラを呼ぶ声がし、ガチャガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえるが、カギを使う気配はない。
どうやらカギの在り方がわからなかったようだと察し、内心ほっとしながらサラは音を立てないように注意しながら腰を下ろす。
しばらくして、カリスの気配がドアの外から消えた。
しかし、それで終わりではなかった。
その後も何度もやって来てはサラの名を呼び、ドアノブをガチャガチャガチャ回すのだった。
そのまま朝まで続くかと思われたカリスの愚行はローズの怒鳴り声によって終わりを告げることになる。
『カリスっ!あんたさっきから何やってんだいっ!』
『ち、違うっ!これはっ……』
ローズの詰問にカリスが慌てているのが声でわかる。
ローズの怒鳴り声に気づいてベルフィとナックもやって来た。
『カリス!お前何しようとしてた!?』
『おいおい、まさか夜這いしようとしてたんじゃないだろうな?』
『そ、そんなわけあるか!』
『じゃあ何やってんだいっ!?』
『そ、それは、そのっ、声をかけても返事がないから何かあったんじゃないかと思ってよ、確かめようとしてたんだ』
『『『……』』』
カリスのバカな答えから最初に立ち直ったのはナックだった。
『そりゃ、寝てるから返事ないだろ』
ナックの至極当然の答えにカリスは納得しない。
『冒険者がそれでいいわけないだろう!熟睡なんかしてたら命がいくつあっても足りないぞ!』
などと屁理屈を言い出す始末だ。三人は呆れた。
『知人宅でまで緊張して寝ろと?』
『そ、それは……』
ナックの冷めた目を受けてカリスが口籠る。
ベルフィがカリスにサラ達の部屋に入ろうとした理由を尋ねる。
『それで深夜に、寝てるであろうサラに何の用があったんだ?まさか本当に夜這いしようとしてたんじゃないだろう?』
『そ、そんなわけないだろっ!俺はただ、そのっ、困ったことがないか心配になってだな……』
『それは寝ている相手を起こしてまで聞くべきことか。違うだろう』
ベルフィは反論を許さぬ口調で言った。
『う……』
『あんた、下心丸出しなんだよっ!』
『なっ……、そんな事はないっ!』
『あるんだよっ!みっともないっ!』
『なんだとっ!?』
カリスはローズに反発するものの勢いはない。
『ともかく戻れカリス』
『し、しかしサラが……』
『何か問題があれば向こうから言ってくる』
『いや、こんな深夜じゃ気を使うだろう』
『『『お前が言うな!!』』』
ベルフィ、ナック、ローズの声が見事にハモった。
その会話を聞いていたサラも思わず一緒になって叫ぶところだった。慌てて自分の手を口を塞ぐ。
結局、カリスは三人に代わる代わる文句を言われ、仕方ないという顔をしながらも去って行ったのだった。
ちなみに、この騒ぎの中、リオとヴィヴィは我関せずを貫いていたのだった。




