527話 ハモリクズ、再び
翌朝。
リサヴィはニューズの実力を確認した。
リオが戦士でもあるリーダーのヤックと戦士のソウオンを同時に相手にし、ヴィヴィが盗賊であるリイの投剣の成長を確認する。
ヤックとソウオンのコンビネーションはパーティを組んでいるだけあってなかなかのものだった。
それでもリオに太刀打ちできるはずもなく、二人とも数分ももたずに剣を弾き飛ばされていた。
ただ、モモのいう通りCランクに匹敵する力は持っていた。
少なくとも「Cラーンク!」と叫ぶだけのCランククズ冒険者より上である事は確かであった。
リイの投剣も以前より格段に成長しており、ずっと鍛錬を続けていたのは明らかだった。
盗賊としての力は不明であるが少なくとも今回はあまり重要ではない。
サラ達は彼らが最低限の力は持っていると判断し、デスヴァイパー退治に連れていくことにした。
リサヴィの四名、ニューズの三名、そして魔術士と神官からなる九名がマルコの有力者であるお婆さんの別荘に向けて出発した。
隊列はリサヴィが前衛、後衛がニューズと魔術士、神官の混成パーティだ。
別荘へは今から徒歩なら夜には到着する。
しかし、夜は視界が悪い上に魔物も強くなる。
そこで今日は別荘近くにある村に泊まり、明日の朝にデスヴァイパー退治を行うことにした。
朝早いということもあり、冒険者達の注目を浴びることなくマルコを後にした。
幸いにもハモリクズと再会することもなかった。
もうどこかの街へ移動したのかもしれない、
なんて訳はなかった。
何故なら相手はクズである!
ハモリクズなのである!
……ハモるのは関係ないか。
「「待て待てっー!!」」
街を出てすぐ背後から喚き声と共に強烈なクズ臭を放つハモリクズが追いかけて来た。
サラはギルドを出てからねちっこいイヤらしい視線を感じていたのでクズが追って来るだろうことは予想していたが、それがハモリクズだとわかりウンザリする。
もちろん、そう思ったのはサラだけではない。
「マジかよ」
「ほんと懲りない奴らだな」
そう吐き捨てる魔術士と神官だったが、初対面のニューズは物珍しそうな表情でハモリクズを見ていた。
もちろん、すぐに彼らも他の者達と同様の感情を持つことになる。
サラ達はハモリクズの言葉を無視して先を進む。
ハモリクズは喚きながらも全力疾走してサラ達に追いつき、追い越すと両手を広げて通せんぼする。
サラ達が面倒臭そうな顔で歩みを止めると、彼らは仁王立ちして腕を組み、偉そうな口調で話しかけて来る。
「「お前らギルドの依頼を受けたんだろ!」」
「「隠しても無駄だ!俺らにはちゃんとわかってんだからな!」」
相変わらず彼らのシンクロ率は高かった。
誰もが「こいつら人の姿をした一心二体の別の生物なんじゃないのか?」と疑うほどに。
しかし、当の本人達はハモっていることを気にする様子はなく、話を続ける。
「「俺らもその依頼に参加してやるぜ!安心しろ!俺らはCラーンク!冒険者だ!しかもリーダー経験も豊富だからな!わははは!!」」
見事に一言一句違わずハモリ続ける彼らはとても不気味だった。
サラは彼らの相手をしたくなかったが、誰もが「頼むぞ」という視線をサラに送るので仕方なく相手をする。
「必要ありません」
冷めた口調で彼らの提案を拒否するが、サラの言葉は彼らの脳に伝わる前に迷子になったようだ。
「「よしっ、決まったな!」」
ハモリクズはそういうと、隊列の、リサヴィとニューズの間に強引に割り込んで来た。
いうまでもなく、そこが一番安全そうだからだ。
この行動に魔術士が激怒する。
「お前らいい加減にしろよ!」
更に神官も続く。
「お前らはお呼びじゃないんだよ!さっさとどっか行け!」
「「ざけんな!」」
「ふざけてんのはお前らだ!いつまでもハモリやがって気持ち悪い!」
「「ざけんな!」」
「マルコは事後依頼禁止ですからついて来ても無駄ですよ」
サラが正論を口にするがもちろん、彼らに通じるわけがない。
「「安心しろ!お前らが言えばギルドはOKする!」」
「そんなことはしません」
しかし、やはりサラの言葉は彼らに通じない。
「「わははっ!安心しろ!俺達はCラーンク!冒険者だ!俺らの腕は俺らが保証する!」」
「そんなこと聞いていません」
クズ達の力を元パーティの神官と魔術士が自信を持って否定する。
「お前らの腕が大したことないのを俺らが保証するぜ!」
「そうだな。お前らの力はDランク程度だ」
「「ざけんな!!」」
その後もハモリクズは皆の正論を屁理屈で言い返して居座り続ける。
このように強引な行動でなし崩しに合同依頼に持ち込むのが彼らクズの十八番であった。
当然のことながらそんなやり方がリサヴィに通じるはずもない。
ヴィヴィがハモリクズに冷めた目を向ける。
と言っても仮面で顔は見えないが。
「ぐふ、さっさと出て行け。出て行かないなら強制排除する」
「「ざけんな!」」
「「リーダーになんて口を叩くんだ!?あん!?」」
「ぐふ?」
ハモリクズは“妄想を現実として語る能力”が発動してリーダーになったと思い込んでいた。
リーダー気取りで偉そうに話し続ける。
「「お前の報酬は下げるからな!覚悟しておけよ!棺桶……がはっ!?」」
我慢の限界に達したヴィヴィがハモリクズの一人をリムーバルバインダーでぶっ飛ばした。
するとどうだろうか、
何故か殴られていない方も一緒にぶっ飛んだ。
クズ二人は両手を上げて踊るように宙をくるくるくると三回転し、ぼてっ、と落ちてあほ面晒して気絶した。
その様子を彼(ら?)をぶっ飛ばしたヴィヴィだけでなく、皆が呆然とした表情で見つめる。
最初に我に返ったヴィヴィがぼそりと呟いた。
「……ぐふ?なんだこいつら?」
アリスが念のためヴィヴィに尋ねる。
「ヴィヴィさんっ、今のは魔法ですかっ?」
「ぐふ、そんなものはない。片方は勝手にマネして飛んだのだ」
「マネ、ですか……」
ヴィヴィなら二人を同時にぶっ飛ばすこともできた。
そうしなかったのは二人とも気絶させて街道に放置するのは流石にマズイと思ったからである。
これが明らかな悪党ならそんなこと考えず、生死すら気にせずぶっ飛ばしたことであろう。
こういう中途半端なクズが一番扱いにくいのだ。
しかし、ヴィヴィの配慮はクズの予期せぬ奇行により無駄に終わった。
皆があほ面晒して気絶しているハモリクズを眺めながら「こいつらどうしようか?」と悩んでいるとリオの声が聞こえた。
「じゃあ、行こう」
リオはそれだけ言うとハモリクズには目もくれず先を歩き出した。
ヴィヴィは「ぐふ、まあ、いいか」とあっさりハモリクズに見切りをつけてリオに続く。
皆も続いた。
その場にはあほ面晒して気絶したハモリクズだけが残された。
だが、これで終わらない。
終わるはずがない。
それがクズである!
ハモリクズなのである!
……ハモるのは関係ないか。




