525話 モモの推薦
アリスはモモの対応がゆっくり過ぎるのを心配する。
「でもモモさんっ、そんな呑気に募集なんかしてていいんですかっ?」
「ぐふ、確かにな。あまり時間がかかるようだとあのババアだって黙っていまい。怒鳴り込んで来るのではないか?」
「それは大丈夫です。今回、別荘に一緒に向かうという話はあの場で決まった事で、向こうも予定外なのです。それで色々準備することがあるそうなんです。私達も募集から研修する時間まで出来てほっとしています」
「もちろん、研修にクズは絶対に入れませんので安心して下さい!」とモモは続けた。
「ぐふ、だとしてもだ。私達は研修をすると約束したが、期限なしではない。いつまでも私達がマルコにいると思うなよ」
「何言ってるんですかヴィヴィさん。ここマルコはもうリサヴィのホームと言っても過言じゃないですか!」
「ぐふ、過言だ」
「過言ですね」
「ですねっ」
リサヴィの反論を食らってもモモは表情ひとつ変えることはなかった。
「安心して下さい。皆さんが時間を持て余したりしないようにリッキー退治の依頼をかき集めて来ましたから!」
そう言ったモモはなんかしてやったりの顔をしていた。
「そうなんだ」
「「「……」」」
モモの言葉に納得したのはリオだけであった。
モモの逞しさにサラは内心ため息をつきながら確認する。
「その依頼するパーティはあなたの口振りからすると、もう見当をつけているのではないですか?」
モモはにっこり笑って頷いた。
「はい、皆さんもよくご存知のニューズです」
それは以前、一緒に依頼を受けた事があるパーティで、依頼の間、研修のようなものを行なって彼らを鍛えた。
その時はまだEランク冒険者だったが、Dランクに昇格していたようだ。
「彼らは皆さんを尊敬していますのでランク以外でも揉めることはないでしょう」
「ぐふ、了承はとっているのか?」
「まだですが、恐らく大丈夫です!」
「まあ、彼らなら確かに揉めることはなさそうですが、彼らはCランクに匹敵するほど強くなっているのですか?」
サラ達の知るニューズはCランク冒険者の力を持っていなかった。
モモはサラに力強く頷く。
「はい、彼らの成長は驚くべきものがありますよ!流石、皆さんが鍛えただけの事はありますね!つい先日のことですが、Cランクの依頼を彼らだけでクリアしました!」
そう言ったモモは自分の事のように誇らしげな顔をしていた。
しかし、サラはまだ不安があった。
「私達が知っている彼らのパーティには魔術士や神官はいませんでしたが、今はどうなっていますか?」
サラの質問にモモの表情がやっと?曇る。
「今も同じです」
「それでは今回の依頼は厳しいと思いますよ。相手は猛毒を持つデスヴァイパーですから」
サラの意見ににヴィヴィも同意する。
「ぐふ、確かにな。万が一、赤いデスヴァイパーが魔族だった場合、ニューズをサポートする余裕はないだろう」
「ですねっ」
「で、でも、サラさんとアリスさんという素晴らしい神官がいるのですからなんとかなりませんか?」
「正直に言ってなんとも言えません。赤いのがどのくらいの強さかわかりませんので」
「ですねっ。他のデスヴァイパーだってっ、実際の強さもっ毒の強さもわかりませんからっ」
「そ、そうですか……で、でも、それでも皆さんなら……」
「不安要素を抱えるよりは私達だけで向かった方がいいと思います」
「そんなっ!彼らはマルコのエースになるかもしれない逸材なんです!皆さんと行動すればもう一段階成長すると思うんです!」
モモは相当ニューズを買っているようであった。
「しかし、やはり相手が悪すぎます。他のCランクの魔物ならともかく……」
モモがリオを見る。
「リオさん!なんとかなりませんか!?」
モモの問いかけにいつもは我関せずのリオが珍しく答えた。
「じゃあ、彼らについて来てもらえば?」
サラは誰の事かわからず首を傾げる。
「彼らとは誰のことです?」
「ぐふ、もしかしてハモリクズの元パーティメンバーか?」
「そう」
「ああっ。魔術士と神官でちょうどいいですねっ」
「……そうですね。彼らは今フリーだと言っていましたし、今の彼らなら以前のようなバカな事は言わないでしょう」
「問題はっ、まだマルコにいるかですねっ?」
「ちょっと確認して来ます!」
モモが立ち上がり応接室を出ようとするのをヴィヴィが止めた。
「どうしました?」
「ぐふ、あいつらを誘うのは構わないが、ハモリクズ達はどうなったのだ?」
「確かにそうですね。彼らがまた邪魔をしてくるかもしれません」
「その時は死ぬだけでしょ」
「「「「!!」」」」
そう呟いたリオに皆が注目する。
「ん?」
リオは皆の視線を受けて首を傾げる。
「……いえ、なんでもないです。それでモモ、彼らはどうなりました?」
「まだ牢屋ですかっ?」
「いえ、マルコギルドを出禁にして解放しました。今どこにいるかは不明です」
「あのっ、ハモりクズ達は不正合格ではなかったんですかっ?」
アリスが皆の疑問をモモに投げかける。
「はい、違うようです。彼らに筆記試験を行ったのですが二人ともパスしました」
「ぐふ、冒険者になった後で覚えたのではないのか?」
「それもないと思います。彼らの過去の実績を見る限り、Cランクに上がってからしばらくはまともに依頼を受けていたようです。彼らは不正合格したクズではなく、後天的クズのようです」
「後天的クズ、ですか」
「はい。Bランクの壁は厚いのです。自分の力ではどう頑張ってもCランク止まりであると悟り、夢が叶わないなら楽して儲けようと努力をやめて堕落したのでしょう」
「そうなんだ」
「リサヴィの皆さんはBランク以上に上がれる選ばれた人達なのですよ」
モモは自信を持って断言した。
「ぐふ、ともかく、ハモリクズの行方も確認する必要があるな」
「ですねっ」
モモが応接室を出て行ったあと、サラがため息をついて言った。
「まさかクズの行方を気にする時が来るとは……」




