521話 ハモりクズ、舞う
サラがカウンターに目を向けるとモモと目が合った。
「いつまで放置する気ですか?」
サラの言葉に反応してモモがギルド警備員を連れてやって来た。
「何故もっと早く来ないのですか?」
「そう言われましても、ソロ冒険者の勧誘ですから判断が難しいんですよ」
「みんな迷惑してます。さっさとアレをなんとかしなさい」
サラが顎でクズ(元リーダー)達を示す。
モモがやれやれ、という表情で言った。
「サラさん、貸しですよ」
「何が貸しですか!あなたの仕事でしょうが!さっさとしなさい!」
モモが彼らの間に割って入った。
「静かにしてください!あなた達の行為は他の冒険者達の迷惑になっています!」
「「ざけんな!俺らは悪くねえ!」」
「はいはい。では……そうですね、どうせ二人とも同じことしか話さないのでそちらのク……方はしばらく口を閉じてて下さい」
「ざけんな!」
「いえ、『ざけんな』ではなく、喋らないでください」
「俺はCランク!冒険者だぞ!!」
「そんな事聞いていませんけど、では冒険者カードを見せて下さい」
「……」
「もしもし?」
「……ざけんな」
「はい?」
「ざけんな!俺はC!ラーンク!冒険者だぞ!!」
「ですから、冒険者カードを見せて下さい」
「ざけんな!俺の言うことが信用できないのか!?」
「そうなりますね」
「な……」
「さあ」
モモが手を差し出すが、クズ(元リーダー)は冒険者カードを出す代わりに大声を出す。
「ざけんな!話にならん!」
「それはこちらのセリフですけど」
そのクズ(元リーダー)はモモをひと睨みしてからギルドの出口に向かって歩き出した。
次は自分が冒険者カードの提示を求められると思ったのだろう、もう一人のクズ(元リーダー)も後に続いた。
そして、出口前でぴたりと止まって振り返った。
二人同時にである。
今度もタイミングバッチリであった。
「「おい!行くぞ!!」」
クズ(元リーダー)達が元メンバーに声をかける。
そして、
「「そこの巨乳!お前もだ!!」」
と偉そうな、いや、エロそうな顔をして新米巨乳女戦士に声をかけた。
それに対する返事は以下の通りである。
「あほか」
「さっさと出て行けクズ」
「嫌です!」
その返事を聞き、クズ(元リーダー)達は激怒して殴りかかって来た。
相手は神官と魔術士である。
戦士であるクズ達は接近戦であれば勝てると思ったのだった、
というわけではない。
なんと彼らは新米巨乳女戦士に向かって行ったのである!
二人とも頭に血が上っていても勝てる相手を冷静に見極めることが出来るリーダーに相応しい人物であった!
……なんて思う者は一人もいなかった。
実際は格下のFランク冒険者に素っ気なく断られてAランクに匹敵するプライドが深く傷つき、我を忘れただけである。
「きゃっ!?」
新米巨乳女戦士が目を瞑って身構えている間に片はついた。
彼女が目を開けるとクズ(元リーダー)達の体が宙を舞っていた。
一人は両手を上げて踊るような姿で、もう一人は両手を下ろし人間ロケットのように宙高く飛んだ。
サラとヴィヴィがクズ(元リーダー)達をぶっ飛ばしたのだった。
ギルドの警備員達があほ面晒して気絶するクズ(元リーダー)達の服を探り冒険者カードを取り出す。
それを受け取ったモモがカウンターに向かい、内容を確認する。
「……ああ。二人とも警告が出てますね。次に問題を起こしたら降格させると」
「だからカードを見せるのを嫌がったのですね」
「そのようです」
「ぐふ、さっさとそれを片付けろ」
「はい」
モモが警備員に指示を出す。
「彼らが起きたら聴取しますのでそれまで地下で休ませて下さい」
「地下で、だな?」
「はい、地下で」
「了解」
警備員達は気絶したクズ達を地下へと引きずって行った。
ちなみにどこのギルドも地下にあるのは牢屋である。
「ありがとうございます!サラさん!ヴィヴィさん!」
新米巨乳女戦士が目を輝かせながら二人を見つめる。
「いえ、当然のことをしただけです」
「ぐふ」
サラ達の行動を新米巨乳女戦士は拡大解釈した。
「これはもう私をパーティメンバーと認めてくれたということですね!?」
「は?」
「ぐふ?」
二人が首を傾げる中で新米巨乳女戦士がリオの腕に抱きつく。
その巨乳がリオの腕を直撃した。
巨乳好きにはたまらん一撃であった。
しかし、リオは巨乳好きではないので効果は全くなかった。
「何をしてるんですかっ!」
そう言ったアリスもリオの反対側の腕にしがみつく。
なんか嬉しそうな顔で説得力ゼロであった。
「ダメだこりゃ」
サラが疲れたように呟いた。
新米巨乳女戦士の暴挙に新米女パーティが動いた。
これ以上、リサヴィに迷惑をかけられないと考えたのだ。
「リオさん達に迷惑をかけるのはやめなさい!その代わりにパーティに入れてあげるから」
「ほんと!?」
「まあ、こうなったらね」
「仕方ないわね」
新米巨乳女戦士はたくさんの冒険者から勧誘を受けていたが元パーティが一番安心できるようだ。
というか、皆、彼女の巨乳にロックオンして下心丸わかりなので安心できるはずなかった。
「ほらっ、さっさとリオさんから離れなさい!」
新米巨乳女戦士は新米女冒険者達によってリオから引き離された。
パーティに戻れて嬉しそうな顔をする新米巨乳女戦士だが、三人の彼女を見る目は嫁いびりをする気満々の姑の目をしていた。
「リサヴィの皆さんがいなくなったらイビリ出して……」
新米女盗賊はそこまで言ってリオの視線に気づいた。
口に出していたことに気づき、新米女盗賊の頭が一気に冷める。
「ち、違うんです!リオさん!」
新米女盗賊の叫びで他のメンバーも頭が冷える。
「そ、そうですよ!リオさん!私達はそんな酷いことしません!」
「そうです!」
「そうなんだ」
リオはどうでもよさそうに言った。
嫌な雰囲気になったのでサラが助け舟を出す。
「あなた達のパーティは前衛が不足していたので戦士が加わればバランスはよくなりますね」
新米女盗賊はサラの話に乗ってさっきの失言を有耶無耶にしようとする。
「そ、そうですねサラさん!でも問題は力です!」
「そ、そうね。私達とは天と地ほどの差がついているし」
「そ、そうそう!」
「酷い!」
「「「酷くない!」」」
「ぐふ、流石にそこまでの差はないだろう」
ヴィヴィが新米女パーティの意見を否定したが、新米巨乳女戦士が泣きそうな顔をしている事とは無関係である。
同情ではなく事実を言っただけだ。
「ヴィヴィさん!?」
「ぐふ、確かにお前達は強くなったが、まだまだだ」
「ですねっ」
「とはいえ、あなた達の言う事も一理あります」
「サラさん!」
「そ、そうですよね!」
「ぐふ、実力は今度行う研修でわかるだろうし、そこで多少は底上げ出来るだろう」
ヴィヴィのその言葉に話を聞いていた他の新米冒険者達が反応した。
「研修ってさっきの話ですか!?」
「そうだよ!あれってどうなったのですか!?」
「それは……」
「ストーップです!」
モモが猛ダッシュでやって来た。
「詳細はこれから詰めるところですのでご内密に!」
「そんなモモさん!」
「焦らさないで教えて下さいよ!」
モモに新米冒険者達が詰め寄る。
「じゃ、行こうか」
マイペースなリオはそう言うとさっさと出口に向かって歩き出す。
まだ腕を組んだままだったアリスも引っ張られるように続く。
サラとヴィヴィがその後に続いた。




