519話 新米巨乳女戦士、再び
彼らの話し合いは平行線を辿った。
というか、クズ(元リーダー)達の諦めが悪かった。
クズ(元リーダー)達はクズである事は認めないものの、自分の力だけではこの先どうやっても冒険者を続けられない、あるいは降格する事だけは理解出来ていたので力ある冒険者をなんとしてでも仲間に引きずり込むのに必死だった。
しかし、元パーティメンバーの意思は固い。
まあ、相手がクズとわかっていて喜んで組む者など同類のクズくらいしかいないだろう。
男神官と魔術士は元リーダーの意味不明な説得を聞き、
「何故俺はこんなクズと一緒にパーティを組んでいたのだろうか?」
とかつての自分の行動が信じられないと共に、
「こいつと別れてよかった」
としみじみ思うのだった。
崖っぷちに追い込まれた者同士クズ(元リーダー)達は一致団結して挑む事にする。
意思疎通を視線のやり取りのみでやってのけた。
そのスキルだけは称賛に値するだろう。
「わかったぜ。そこまで言うなら仕方ない」
「だな」
クズ(元リーダー)達の言葉に男神官と魔術士は疑いの目を向けながら確認する。
「やっと理解出来たか」
「発狂して魔法をぶち込む前に理解してもらえてよかったぜ」
クズ(元リーダー)達は頷いてから同時に口を開く。
別にタイミングを測ったわけではない。
たまたまである。
ともかく、彼らは同時に言った。
「「俺らでパーティを組む事にする!!」」
「……は?」
「……何?」
男神官と魔術士は呆然とし、クズ(元リーダー)達が今、何を言ったのか頭の中で反芻する。
魔術士が疲れた顔をしながら確認する。
「“俺ら”とはここにいる四人の事か?」
「「そう聞こえなかったか?」」
またも見事にハモった。
もはやフュージョンしていると言っても過言ではないかもしれない。
この二人が合体しても戦闘力は倍にもならず、その代わりクズさが何倍にもなりそうだが。
それはともかく、
パーティ構成だけで考えればそれほど悪くはない。
戦士二人に魔術士と神官。
戦士のどちらかが盗賊としての役割を果たせれば理想的なメンバー構成と言えるだろう。
が、
言うまでもないが、男神官と魔術士は賛成しなかった。
当然であろう。
前衛の戦士二人がクズなのである。
とても前衛の役目を果たすとは思えない。
命令だけ下して何もしない姿が容易に想像できるのである。
「断る」
「俺もだ」
クズ(元リーダー)達は彼らが断る理由をすぐに理解した。
この新パーティを誰がまとめるかで不安になったのだと。
もちろん、大間違いもいいところだ。
クズ(元リーダー)達は自分達のクズ行為を危惧しているとは微塵も思わなかったのである!
「「安心しろ。俺がリーダーとしてきちんとパーティをまとめてやる!」」
そう言ったクズ(元リーダー)達の顔は根拠のない自信に溢れていた。
男神官と魔術士が間違いを正す前に彼らが言い合いを始めた。
「「おいこらっ!リーダーは俺だ!」」
またもハモリ、互いに顔を見合わせてしばし、沈黙。
そして口を開く。
「「真似すんじゃねえ!!」」
またも同時だった。
シンジくんもびっくりのシンクロ率であった。
傍から見ると喜劇を演じているとしかみえないのだが、本人達は至って真面目だ。
そのことに気づかず、何度もハモりながら互いを口撃しあうのだった。
男神官と魔術士はリサヴィにこれ以上迷惑をかけてはまずいと思い、「俺達に構わず行け」とジェスチャーで示す。
リサヴィはその意図に気づき、そっとその場を離れた。
それを「待っていました!」というように一人の冒険者が近づいて来た。
「リオさん!」
「ん?」
リオが声をかけて来た女冒険者をじっと見る。
それはあの新米巨乳女冒険者であった。
最初に話をしてから随分と時間は経っていたが、ギルドでずっと待っていたようだ。
サラ達が「まだいたのね」と思っているとリオが「ああ」と言ってその子の名前?を言った。
「胸重だっけ?」
「リオ、そんな事誰も言ってません」
サラが冷めた目をして否定する。
「そうなんだ」
「私は……」
「尻軽です!」
新米巨乳女冒険者の言葉に割って入って来たのは新米女盗賊だった。
彼女の後に新米女リーダーと新米女戦士もいた。
「ああ、そうだった」
「酷い!」
「「「酷くない!」」」
三人の新米女冒険者達の言葉は見事にハモった。
「リオさん達に迷惑かけるのはやめなさいよ!」
「め、迷惑なんかかけてないわよ!」
「その行為が迷惑だってわかりなさいよ!」
「わからない!」
「あなたね!」
「私一人じゃ冒険者続けられないもん!」
「自業自得だって言ってんでしょ!」
三人に責められ新米巨乳女冒険者はキレた。
「うるさいうるさいうるさーい!!もうこうなったらリサヴィに入れてもらうんだから!!」
「「「なっ!?」」」
その叫びはギルド中に響き渡った。
皆の注目を浴びる中、新米巨乳女冒険者がその巨乳を両腕で更に押し上げて強調しながらおねだりするような視線をリオに向ける。
「リオさん、お願いします!なんでもしますからリサヴィに入れて下さい!」
リオが返事する前にアリスがサラに声をかける。
「サラさんっ、ウォーミングアップは済んでますよねっ?」
「は?何を言っているのか分かりませんが?」
首を傾げるサラをアリスが責める。
「何呑気なこと言ってるんですかっ!リオさんに色仕掛けしてるけしからん胸の子をっ、いつものようにどついて追い払ってくださいっ。ほらっ早くっ!って、痛いですっ」
サラにどつかれ頭を押さえるアリス。
その声は新米巨乳女冒険者の耳にも届いており、恐怖の表情を浮かべながら慌ててリオから離れた。
「流石サラさんですねっ」
「……」
サラはもう一度アリスをどついた。
「痛いですっ」




