518話 更生した者達との再会
応接室を出るとサラに男神官が声をかけて来た。
「よお、サラ、久しぶりだな!」
「あなたは……」
サラはその男神官に見覚えがあった。
彼は以前、神官交換を提案して来たクズパーティにいた神官だった。
彼はサラの言葉で正気を取り戻してクズパーティを脱退して別のパーティに入ったはずであった。
「お元気そうですね」
「ああ。だが、まだ俺の勇者には出会ってないぜ」
「そうですか。まあ、焦らず慎重に探して下さい」
「ああ、そのつもりだ」
「俺の事も覚えているか?」
そう声をかけて来たのは男神官の隣にいた魔術士だ。
「前に会った事がある」
そう答えたのはリオだ。
その魔術士は以前、リサヴィを追いかけてきたストーカーパーティにいた魔術士だった。
彼もまた神官と同じくサラ達と話すうちに正気を取り戻してストーカーパーティを脱退した。
魔術士はリオの言葉を聞いて頬を綻ばす。
一応補足すると彼はホモではない。
「嬉しいな。リオに覚えていてもらえるとはな」
「そうなんだ」
「お二人は今同じパーティなのですか?」
「いや、違う」
彼らはここマルコで偶然出会い、世間話をしている中でリサヴィに出会ったことで正気を取り戻した者同士であるとわかり、意気投合したのだった。
かつての男神官はサラに強い対抗心を燃やしていたが、今はそのようなものは全く見えない。
「しかし、相変わらず人気者だなお前達は。こうやって声をかけるのも一苦労だぜ」
「ぐふ、そのほとんどが歓迎すべきものではないがな」
「そ、そうか」
二人は自分達もその中に含まれているのではと不安になる。
サラはすぐにその事に気づいてフォローする。
「あなた達は別ですよ。私達はクズ以外は大歓迎です」
「そうか!」
「そう聞いて安心したぜ!」
サラ達はテーブルに移動して彼らのこれまでの事を聞いた。
男神官は自分の勇者を求めて旅をしていたが、先程話に出たようにまだ見つかっておらず、最近パーティを脱退してフリーになったところだった。
魔術士はあれから特定のパーティに入らず、他のパーティの助っ人のような事をしていたとのことだ。
ギルドにはリサヴィと話したいと思う者達は他にもいたが、親しそうに話す彼らの邪魔をしては悪いと遠慮していた。
そういう配慮ができる冒険者達ばかりであった。
そこへ新たな冒険者が二人ギルドに入ってきた。
何やら言い合いをしていたが、すぐにサラ達の姿に気づく。
その彼らの視線がリサヴィと話す男神官と魔術士に向けられた。
直後、二人はダッシュしてサラ達のいるテーブルへやって来た。
「「久しぶりだな!」」
その二人の言葉は見事にハモった。
彼らが挨拶したのはリサヴィではない。
それぞれ、男神官と魔術士に向けられたものだった。
声をかけられた男神官と魔術士は彼らの満面の笑顔とは対照的にとても嫌そうな顔をしていた。
「お前……」
「……こんなところで再会するとはな」
「「こりゃ運命だな!!」」
またも二人は見事にハモった。
先ほどもそうだが、別に合わせているわけではない。
行動パターンが同じなだけである。
彼らも流石に二度もハモったのは恥ずかしかったらしい。
顔を赤くして互いに文句を言い始める。
アリスは彼らにクズ臭を感じつつ、男神官と魔術士に尋ねる。
「お知り合いですかっ?」
アリスの問いに男神官と魔術士は少し驚いた表情をし、リサヴィの他のメンバーを見て、アリスと同様に彼らが誰かわからないのだと察する。
それで彼らの沈んだ心は少し回復した。
「覚えてないか。こいつは俺がいた元パーティのリーダーだ」
「こいつもそうだ。お前達を追っていた時のパーティのリーダーだ」
「そうなんだ」
リオがどうでもいいように相槌を打った。
「ぐふ、なるほどな。どちらもクズリーダーだったか。息ぴったりだが、クズリーダー養成学校の同期か何か?」
「「ざけんな!」」
ヴィヴィの言葉に言い争いをしていたクズ(元リーダー)二人がヴィヴィを怒鳴りつける。
そして魔術士に向かってクズ(元リーダー)がなんか偉そうな顔をして言った。
「またパーティ組もうぜ!安心しろ、俺がまたリーダーになってやるからよ!」
魔術士は呆れた顔をして言った。
「何が安心なのかは知らんが断る」
「ざけんな!俺が誘ってやってんだぞ!素直に俺のパーティに入れ!」
「断る」
「ざけんな!!」
クズ(元リーダー)の絶叫がギルドに響き渡った。
喚きまくるクズ(元リーダー)をもう一人のクズ(元リーダー)が大笑いする。
「ははっ、フラれてやがんの!」
「うるせえ!」
もう一人のクズ(元リーダー)は笑いを収めると男神官になんか偉そうに言った。
「お前はまた俺のパーティに入るよな!?よしっ決まったな!!」
「入るわけないだろう」
彼もまた言うまでもなく、男神官にフラれた。
「ざけんな!!」
クズ(元リーダー)の絶叫がギルドに響き渡った。
ヴィヴィが辺りを見回す。
このクズをリーダーとしたパーティが近くにいないか確かめるためだったが、すぐに無駄な行為だったと悟る。
ヴィヴィはクズパーティのメンバーを覚えていないのだ。
なので直接聞く事にした。
「ぐふ、お前達、他のメンバー、クズはどうした?」
ヴィヴィの問いに二人のクズ(元リーダー)は鼻で笑った。
「はっ、あんな使いもんにならねえクズ!捨ててやったぜ!」
「おう!あんなクズな!」
「「「「「「……」」」」」」
彼らは今までのクズ同様に自分を客観的に見る事が出来ないようだった。
なのでヴィヴィが親切心全開で教えた。
「ぐふ、お前らはそのクズをまとめるクズの中のクズだろ」
「「ざけんな!!」」
クズ(元リーダー)二人はまたも見事にハモった。




