516話 お婆さんの依頼 その1
リサヴィがモモとの話を終えて応接室を出た時だった。
「リサヴィってのはいるかい!?」
ギルド中に大声が響き渡った。
そう叫んだのは一目で高級だとわかる服装をしたお婆さんであった。
周囲を護衛に囲まれているところを見ると只者ではないようであった。
「ぐふ。サラ、お前はもう何でもありだな」
「どういう意味ですか?」
サラがヴィヴィを睨む。
「いないのかい!?」
リオが返事をしないので仕方なくサラが対応する。
「リサヴィは私達ですけど」
「あんたらがかい?」
「はい」
お婆さんはサラの顔をじっと見て言った。
「てことは、あんたがあのサラかい?」
「あの、が何かはわかりませんが、リサヴィのサラです」
サラの返事を聞き、そのお婆さんはふん、と鼻を鳴らしてから続ける。
「あんたら、ちょっとあたしの依頼を受けておくれ」
「はい?依頼ですか?」
「そうだよ」
「その依頼、私が詳しく聞きましょう!」
モモが踊るようにやってきた。
「どうぞこちらへ。リサヴィの皆さんも」
リオがモモの後についていくのでサラ達も従った。
こうしてリサヴィは応接室へ逆戻りしたのであった。
皆が席に着くのを確認してからモモが口を開く。
「それで今回はどのような依頼でしょうか?」
お婆さんはモモに横柄な態度で頷いて話し始める。
「実はだね、あたしの別荘の周りを魔物がうろついているみたいなんだよ。だからあんたら、ちゃちゃっ、と倒して来ておくれ。あんたらならどんな魔物がいても失敗しないだろ」
お婆さんは指名するだけあってリサヴィの事を色々調べていたようであるが、サラ達はこの人が誰なのか知らない。
そのことに気づいたモモが説明を始めた。
「この方はマルコのいわゆる有力者です」
「そうなんだ」
リオがどうでもいいように相槌を打つ。
「はい。ギルドはたくさん寄付を頂いておりまして、あの大変な時にも助けて頂いた恩があるのです」
あの、とは言うまでもなく、無能のギルマスことゴンダスがやらかした不正の数々の事だ。
あの時、マルコギルドは閑古鳥が鳴いており、ギルド職員はギルドが閉鎖されてクビになるのではと不安に思って泣いていた。
実際、一時は依頼が数件にまで減っていたのでそう考えるのは当然だった。
今は皆の努力とカシウスのダンジョンの効果もあり、大分回復している。
「そういうことだよ」
そう言ったお婆さんはなんか偉そうだった。
「ですので是非リサヴィの皆さんにもご協力をお願いします」
「私達はマルコとは関係ないですが」
「あん!?」
サラの言葉にお婆さんが豪快に食いついて来た。
「あんた!ジュアス教団の神官がそんな態度でいいのかい!?」
「そう言われましても……」
「因みにこの方はマルコの教会にも多額の寄付をしていますよ」
モモが補足する。
「は、はあ……」
「全く最近の神官はなっとらん!!」
お婆さんの説教が始まった。
「私、ちょっとお茶の用意してきますね」
そう言ってモモが逃走した。
彼女の説教は長いとわかっているからだ。
「あんがきゃ……」
「あんた!聞いてんのかい!?」
「は、はい、聞いてます」
サラがお婆さんの理不尽な?説教を受けている間、同じジュアス教団の神官であるアリスはサラと決して目を合わせようとしなかった。
サラは理不尽さを感じつつも自分からアリスを巻き込むような事はしなかった。
お婆さんにはサラしか見えていないようで、最後までサラにしか説教しなかった。
説教が終わったお婆さんの目がリオに向けられる。
「しかし、リオといったかい。あんた、いい男だねえ」
「そうなんだ」
「その自覚のないところもいいねえ!どっかの神官とは大違いだよ!」
「……」
何かにつけてお婆さんはサラに攻撃的であった。
「あたしがあと十歳若けりゃアタックしてたよ!わはははっ!」
そう言ったお婆さんの目はなんか本気みたいだった。
思わずヴィヴィが突っ込む。
「ぐふ、もう一桁必要ではないか」
「あんだって!?」
「ぐふ!サラ、失礼だぞ!」
「おいこら!」
「あんたさっきから態度が悪いね!」
「今のはヴィヴィ……」
「お黙り!」
「……」
「あんたね、あのナナルの弟子だからってお高くとまってんじゃないよ!」
「私は……」
「口答えすんじゃないよ!」
「……」
ヴィヴィのせいでサラは再びお婆さんの説教を受ける羽目になった。
サラはなんとか話を逸らそうとする。
「と、ところでその別荘には何かあるのですか?」
途端、お婆さんの頬が緩んだ。
「実はね、あたしにはかわいい孫がいてね。その孫と一緒に別荘で過ごすことになったんだよ。この孫がまたあたしに似て素直でいい子なんだよ!」
「「「「……」」」」
「なんだい、今の沈黙は?」
「ぐふ、サラ、失礼だぞ」
「ヴィヴィ!あなたいい加減に……」
「人のせいにすんじゃないよ!」
「……」
またもお婆さんの標的となるサラであった。




