514話 新米巨乳女冒険者のお願い
リサヴィがマルコギルドに入ると一組のパーティが言い争いをしていた。
それは以前、新米冒険者研修を行った新米女パーティであった。
いや、彼女らの中にサラ達の知らない女冒険者が一人混じっていた。
新米女リーダーがギルドに入って来たサラ達に気づいた。
「あっ、リサヴィの皆さん!」
その言葉に他の新米女冒険者も気づき、サラ達の元へやって来た。
「お久しぶりです!」
「元気そうですね。順調ですか?」
「はい!皆さんのお陰でレベルアップしたので余裕で依頼をこなしてます!」
「ぐふ。そうやって調子に乗っている時が一番危ないぞ」
「は、はい!」
「ところで何か揉めているようでしたが……その方は新しいメンバーですか?」
「そ、そう……」
「「「違います!」」」
サラ達の見知らぬ女冒険者の言葉を他の者がハモって否定した。
「ひどい!」
その見知らぬ女冒険者が悲しそうな顔をして同情を誘おうとするが彼女達に効果はなかった。
ちなみに彼女は容姿は普通であるが巨乳である。
新米女リーダーが彼女の説明をする。
「以前、一人パーティを抜けたってお話ししたと思いますが、彼女がその尻軽です」
「し、尻軽はひどい!」
「「「酷くない」」」
三人は見事にハモって彼女の発言を切り捨てる。
新米巨乳女戦士はサラ達に悲しそうな顔を向けて言った。
「私、今のパーティから捨てられたんです!『お前は胸以外使えない』なんて言ってですよ!酷いと思いませんか!?」
「「「「「「……」」」」」
皆の視線が彼女の巨乳に向けられる。
「そうなんだ」とリオのどうでも良さそうな相槌がしたが誰も気にしない。
新米女盗賊が冷めた目で彼女の巨乳を見ながら言った。
「まったく思わないわ」
「そうね」
「そんなの最初からわかってたじゃない。あの男の目は常にあなた胸にロックオンしっぱなしだったでしょ」
「そ、そんなことないわよ!彼は私の腕を認めてくれたのよ!」
「腕じゃなくて胸、よ」
「違うわよ!」
「何言ってんのよ。捨てられた時『胸以外使えない』ってはっきり言われたんでしょ」
「そ、そうだけど、それは私の成長が彼の期待に応えられなかっただけで……」
「そんなのはどうでもいいわ。勝手に出て行っておいて今更戻ろうなんて虫が良すぎない?」
「そ、それは私も自分勝手だってわかってるけど他に行くとこがないの!」
「まあ、あなたが私達を裏切って出て行ったという事を考慮しなくても加入は認めないわ」
「そうね。個人的な感情を抜きにしても私達のパーティにあなたの居場所はないわ。何故だかわかる?」
「な、何故よ?」
「それはね、」
新米女魔術士はそう言ってためた後、言葉を続けた。
「私達はね、もうあなたがいた頃の私達ではないからよ。リサヴィの皆さんに鍛えられてあなたとは天と地ほどの力の差がついてしまったのよ!」
そう言った新米女魔術士だけでなく、新米女リーダー、そして新米女盗賊の顔も誇らしげであった。
サラ達は「流石に天と地ほどの差はないでしょ」と思ったが、よそのパーティの事なので口出しはしない。
「そ、そんな……」
「もうわかったでしょ。あなたは足手纏いなのよ」
彼女らは容赦なかった。
サラ達は彼女達が口ではああ言ったものの、しっかり私情を挟んで言っていると思ったがやはり余計な事は言わない。
「……わかったわよ!」
新米巨乳女戦士がリオの前に立った。
「ん?」
彼女は最大の武器?である巨乳を腕を組んでグッと持ち上げておねだりするような視線をリオに向けて言った。
「リオさん!私を鍛えてくれませんか?」
巨乳好きにはたまらん一撃であった。
彼女の胸の大きさはリサヴィの女性陣の誰よりも勝る。
リオが巨乳好きであれば耐えられない一撃であっただろう。
しかし、リオには全く効果がなかった。
「嫌だけど」
リオにあっさりと断られた新米巨乳女戦士はしばし呆然とした後、周りの女性陣の胸の辺りを一通り見てから一度通り過ぎた新米女盗賊に視線を戻して尋ねる。
「リオさんて貧乳好き?」
「……ぶっころ!」
新米(貧乳)女盗賊が新米巨乳女戦士に殴りかかる。
冒険者達は基本ケンカ好きである。
この様子を傍観していた冒険者達がいきなり始まったキャットファイトに盛り上がった。
そんな中でリオがぼそりと呟いた。
「尻軽というより胸重じゃないかな」
サラ達は聞かなかった事にした。
「皆さん落ち着いて下さい!」
そう言ってギルド職員のモモがやって来た。
サラが冷めた目をモモに向ける。
「今回は遅かったわね」
「色々作戦……いえ、そんな事ないですよ」
「……」
「ともかく皆さん、ここで騒がれると他の方に迷惑ですのでどうぞこちらへ」
「いえ、私達は関係ないので……」
「そう遠慮なさらずに!」
「迷惑だと言っているのです」
「またまたぁ」
モモがリオに顔を向ける。
「リオさん、生きのいいのが入ってますよ」
「そうなんだ」
「なんですか、その新鮮な魚みたいな……ってリオ!」
モモの後についていくリオ。
それにヴィヴィとアリスが続き、新米女パーティもついていく。
サラもため息をついて後に続いた。
小躍りしながら進むモモの前に立ち塞がる者達がいた。
「ちょっと待って下さいよモモさん!!」
「どうしました?」
「また彼女達にリサヴィの研修受けさせる気じゃないでしょうね!?」
集まって来たのは新米冒険者達であった。
「俺達もリサヴィの研修を受けさせて下さい!」
「リッキー退治でも文句は言いません!」
「俺達も強くなりたいんだ!」
彼らの中には前回の研修がリッキー退治と知って早々に諦めた者達もいた。
その研修を受けた新米女冒険者達が格段に強くなった事を知り、とても後悔していたのだ。
モモはじっと彼らを見た後で大きく頷いた。
「皆さんのお気持ちはわかりました。リサヴィの皆さんと相談しますので時間を下さい」
「モモ、何勝手な事を……」
サラの抗議の声は新米冒険者達の歓声にかき消された。
「まあ、モモさんがそう言うなら」
「そうだな」
「じゃあ、頼むよ」
「はい、私に任せて下さい」
モモはリサヴィ以外の冒険者には信用があるようだった。




