513話 さらば、クズゴーレム
ヴィヴィが魔装士の背に装備された槍を見ながら尋ねる。
「ぐふ、それであの槍で破壊できるのか?」
クレッジ博士は横柄に頷いた。
「あのクズゴーレムの強度は調査済みだ。オレが開発したスローランスなら十分破壊可能だ。だからお前達の出番はないかもな!わははは!」
「「「「……」」」」
クズゴーレムが背中の操縦席を引き抜いた。
そして叫ぶ。
「ザケンナー!!」
その叫び声を聞いてアリスが驚いた声を上げる。
「ええっ!?今のってっ、ゴーレムの声ですかっ!?」
「うむ。やはり喋れたか」
「ぐふ?知っていたのか?」
「ああ。それらしい構造をしていたのでな。だが、頭の中のほとんどがブラックボックスでな。サイファ・ヘイダインの再来と呼ばれるオレでもこの短期間では調べきれなかった」
「「「「……」」」」
「つまり、他の誰にも無理だということだ。わはははっ!」
何がおかしいのか、クレッジ博士はしばらく笑っていた。
そうしているうちにクズゴーレムがクズの一人を掴んだ。
その様子をヴィヴィはリムーバルバインダーの目で、クレッジ博士は魔道具の“望遠くん”で見ていた。
「ぐふ、魔力を搾り取られたようだな」
ポイ捨てされたクズを見てヴィヴィが呟く。
「……なるほど。あれが報告にあったやつだな」
クレッジ博士が満足げに頷く。
クズゴーレムが再び吠え、残りのクズを襲い始める。
「このまま放っておくのですか?」
「うむ、そうだな。そろそろこちらも動くか」
クレッジ博士が並ぶ魔装士に向かって声をかける。
『クズゴーレムに攻撃を仕掛けるぞ!一番!スローランスの発射準備!付加魔法はファイアだ!頭には当てるなよ!』
魔装具に“一”と書かれた魔装士が一歩前に出る。
片膝立ちをすると左手を伸ばし、背後のバックパックに装備されていたランスを一本掴んだ。
そして、右腕に装備された盾をクズゴーレムに向けると盾にある半円状の溝にランスをセットした。
盾はランスの発射台を兼ねていたのだ。
ランスをセットし終えると空いた左腕で右腕を支えた状態で発射命令が下るのを待つ。
クズゴーレムが逃げ回るクズを掴み損ねてコケた。
その瞬間をクレッジ博士は見逃さなかった。
『てえっ!』
クレッジ博士の号令に従い、スローランスがクズゴーレムに向かって発射された。
発射の際に穂先が赤く光った。
炎系魔法が発射と同時に付加されたのだ。
魔装具に優秀な照準機能が備えられている事もあり、スローランスは狙い違わず、クズゴーレムに命中した。
直後、爆発が起きた。
「やったか!?」
クレッジ博士からお決まりの言葉が飛び出す。
煙が晴れてクズゴーレムの姿が露わになる。
お約束通り、クズゴーレムは破壊されていなかった。
無傷のようだった。
ただ、スローランスが命中したと思われるところが薄らと光っていた。
「ぐふ、リアクティブバリアで防いだようだな」
ヴィヴィがクレッジ博士を見る。
悔しがっているかと思ったが笑みを浮かべていた。
マッドサイエンティストに相応しい笑みだった。
「ふ、ふふふふふふっ」
ヴィヴィ達は「ついに狂ったか?」と思ったものの、すぐに「あ、もとからだった」と思い直す。
「やはりあの頭のブラックボックスにはリアクティブバリアを発動させる機能があるって事だな!!それさえわかれば十分だ!手に入れるぞ!オレがリアクティブバリアの謎を解明してみせるぞ!!このサイファ・ヘイダインの再来と呼ばれるこのオレがな!」
クレッジ博士は一人大興奮であった。
『全魔装士!スローランス発射準備!頭は狙うなよ!!頭以外なら、どこを壊してもかまわん!』
ちょっと前まで“Gガイム”と名前までつけて大事にしていた者と同一人物とは思えない発言であった。
そこへ一人の魔装士が不安げな声(顔は仮面で見えない)で確認してくる。
「博士、Gガイムの……」
「クズゴーレムだ!」
「し、失礼しました。本当にクズゴーレムを破壊してよろしいのですか?あれは魔術士ギルドの資産……」
「構わん!」
クレッジ博士は躊躇することなく言い切った。
「そ、そうですか。それとですね、クズゴーレムの周りに強奪犯の姿が見えます。先ほどの攻撃で怪我をしたのか動けないようです。今、攻撃すれば巻き添いになる可能性がありますが……」
「構わん!」
クレッジ博士はまたも躊躇なくキッパリ言い切った。
だが、魔装士のほうは躊躇しているようだった。
それも当然だろう。
魔装士の姿をしているが、彼らは魔術士ギルドの研究員である。
日頃、争いとは無縁で、人を殺した事がある者はいなかったのだ。
それにクレッジ博士は気づいた。
「安心しろ。こういうときのためにとっておきの言葉をお前達に送ろう」
「は?言葉ですか?それはなんですか?」
クレッジ博士は偉そうな顔をしてとんでもないことを言い放つ。
「全責任はサラが取る!」
「おいこらっ!なんでそこで私の名前が出るんですか!!」
しかし、その言葉は魔装士の心に強く響いたようだった。
「……わかりました。博士がそこまでの覚悟をお持ちでしたらもう何も言いません」
「うむ」
「ちょっと待ちなさい!今の言葉のどこに覚悟がありましたか!?人に責任を押し付けただけでしょう!」
サラの正論は通じなかった。
魔装士達は命令通りスローランスをクズゴーレムに向かって放ち始めたのだ。
ヴィヴィがぼそりと呟いた。
「……ぐふ、おかしいのは博士だけではなかったようだな」
撃たれゆくクズゴーレム。
辺りに「ザケンナー!!」の叫び声が何度も響く。
全てスローランスを撃ち尽くすとそこにはクズゴーレムの倒れた姿があった。
その右腕と両足が壊れ、他の部分にもいくつもの亀裂が入っていた。
流石のリアクティブバリアもあれだけの攻撃を受けては魔力が持たなかったようだった。
肝心の頭だが、大きな傷は見えなかった。
ちなみにその辺にいたはずのクズ達の姿はどこにもなかった。
「大満足だ!」
そう笑顔で言ったクレッジ博士にサラが声をかける。
「クレッジ博士」
「ん?なんだ?」
「今回の本当の目的は、あのゴーレムにリアクティブバリアを発生する機能があるか確かめるためだったのではないですか?」
「……」
「ぐふ。付け加えるならお前が改良した魔装具の力の確認もな」
「……何を言ってるんだ?これはみんな偶然だ。あのクズ達がゴーレムを盗まなければこうはならなかった」
「ぐふ、お前があのクズ達をそそのかして盗ませたのではないか?」
「うむ、面白いな。では、証拠を出せ」
「ぐふ、ない」
「強盗犯は全員死んだようですしね」
「そうか。なら話は以上だな」
「「……」」
大破したクズゴーレムのもとへクレッジ博士は嬉々として歩き出した。




