511話 Gガイムはもらったよ
Gガイムを盗んだのはある中年クズ冒険者達だった。
長年コツコツと依頼をこなしてCランクにまで上がった彼らだが、あるとき力の限界を悟った。
そんな時に彼らはクズスキルと運命的な出会いを果たした。
すぐにその魅力に取り憑かれてマスターし、クズの仲間入りした。
今までのクズ同様、本人達にクズの自覚はないが。
それからはDランク以下の後輩冒険者達に寄生し、威張り散らし報酬をぶんどるという、幸せな生活を送っていた。
寄生される側はたまったものではないが……。
だが、ギルドがクズの取り締まりに力を入れ始め、自由にクズスキル?が使えなくなった。
リサヴィ派なるギルド非公認のクズ抹殺組織も彼らの行動の障害となった。
更に歳による力の衰えも感じ始めており、単独でCランクの依頼を達成する自信もなかった。
なお、彼らは気づいていなかったが、力が落ちたのは歳のせいというよりもクズスキル?に頼り過ぎて鍛錬を怠ったことが大きい。
追い詰められた彼らに残された道は三つ。
冒険者を引退して別の職につく、
退会処分、あるいはリサヴィ派に抹殺されるまでクズスキル?を駆使して冒険者を続ける、
降格を覚悟して自分達にあったランクの低い依頼を受けて冒険者を続ける、
である。
最後の選択は彼らにとってあり得ない選択だった。
クズはランク絶対主義者である。
降格などAランク冒険者並みに高い彼らのプライドが許さなかったのである!
その数日前。
彼らはカシウスのダンジョンに近い街の酒場で飲んだくれていた。
彼らは“ごっつあんです”狙いであるDランクパーティの後をつけていたのだが、そのパーティの動きに違和感を覚えたクズ盗賊は彼らがリサヴィ派であることに気づいた。
そして、自分達が“誘い殺し”を仕掛けられている事に気づき、リーダーに知らせて慌てて引き返して来たのであった。
愚痴を吐き続ける彼らに声をかけてくる者がいた。
「ちょっと仕事をしないか?」
話を持ちかけて来た者は、フードを深く被って顔を隠し、いかにもな怪しい格好をしていた。
実際、彼は闇ギルドのメンバーだと名乗った。
「実はだな、近々マルコの魔術士ギルドがカシウスのダンジョンで鹵獲したゴーレムの実験を行うらしいんだが、そいつを盗んでくれないか」
その者から提示された成功報酬は高く、奪った後の引き渡し場所も予定されている実験場からそう遠くない場所だったので不可能ではないように思えた。
更に成功の暁には闇ギルドに高待遇で迎えるとまで言ってきた。
クズ達の心は大きく揺れた。
彼らは金さえ手に入るなら所属先が冒険者ギルドだろうと闇ギルドだろうと構わなかった。
そこまでズッポリとクズに染まっていたのである。
悩んだ挙句、「やれたらやる」という曖昧な返事をした。
その闇ギルドのメンバーはその回答に文句を言わなかったが、
「早い者勝ちですよ」
との言葉を残して去っていった。
クズ達はその言葉で声をかけたのが自分達だけではない事を察し、彼らのプライドを強く刺激した。
そして当日。
実験場の警備はザルだった。
しかも、クレッジ博士が「操縦者の魔力は必要なく、誰でも操作できる」と自慢げに話しているのを聞き、それなら奪うのも容易だと強奪を決意したのだった。
「はっ、魔術士ギルドの奴らは世間知らず揃いかよ」
クズ盗賊がそう言うのも無理はない。
操縦席は開けっぱなしで、警備も素人同然だった。
クズ盗賊は誰にも気付かれることなく、Gガイムの操縦席に入り込むことに成功した。
そして中を素早く確認する。
「あのバカ博士の言った通りじゃないか」
クレッジ博士は起動実験の際、大きな声で自慢げに操縦方法をペラペラ話していたのだ。
クズ盗賊の顔から思わず笑みが溢れる。
操縦桿を握るとそれに反応して操縦席のあちこちでランプが点灯した。
「こいつ、動くぞ!」
Gガイムが立ち上がった。
そして逃走した。
「ひゃっはー!!」
Gガイムを操るクズ盗賊は興奮していた。
「おい!あんま揺らすな!」
Gガイムの腕にしがみついている他のメンバーが文句を言うのがクズ盗賊の耳に届いたが無視した。
Gガイムは思った程スピードが出ない。
クズが三人しがみついているため想定より重量が重くなっているのは確かであるが、クレッジ博士の話によればその程度なら問題ないはずであった。
「ちっ、あのバカ博士、能力を誇張してやがったな!」
腕にしがみついているクズリーダーが後ろを見ながら叫んだ。
「追っ手だぞ!もっとスピードだぜ!追いつかれちまうだろうが!だが、これ以上揺らすなよ!」
クズリーダーの言う通り、Gガイムの後を魔術士ギルドの護衛が追いかけて来ており、少しずつ距離が狭まっていた。
護衛の一人が馬上から魔法で強化された矢を放つが、まだ距離が離れているため届かない。
だが、それも時間の問題であろう。
「くそっ、おいリーダー!いや、お前ら全員降りろ!」
「ざけんな!俺らが捕まんだろうが!」
「知るか!大体なんでしがみついたんだ!?後で合流すりゃよかっただろうが!」
クズ盗賊の言う通りであった。
彼らに出来ることは何もないのでクズ盗賊と一緒に行動する理由は全くない。
それどころか、一緒に行動したため思いっきり足を引っ張っているのである。
クズ盗賊の正論にクズリーダーがカッとなって怒鳴る。
「ざけんな!そんな事したらお前、報酬を独り占めすんだろうが!」
クズ盗賊はすぐさま叫ぶ。
「ざけんな!」
これは「バカにするな!」という意味ではなく、クズリーダーの言った通りだったので思わず叫んだのだ。
クズ達の中では信頼という言葉は銅貨一枚の価値もない。
隙を見せれば分前を奪われる、それが当然で常識なのだ。
信じる者は間違いなくバカを見る。
それがクズ達なのである!
「くそっ」
クズ盗賊の頭に一瞬、クズリーダー達を振り落とす、という選択肢が思い浮かんだ。
実行に移そうとしたが、直前でなんとか踏み止まる。
「まだだ。まだその判断をするのは早過ぎる」
クズ盗賊は操縦席の内部を改めて見回す。
「武器はないのか!?武器は!?遠距離攻撃が出来ればいうことないんだが……ん?」
クズ盗賊の目に赤く点滅するボタンが目に止まる。
そのボタンの事をクレッジ博士は何も話していなかった。
「一か八かだぜ!」
クズ盗賊は誰も見てない操縦席でキメ顔しながらそう叫ぶと、ぽちっとそのボタンを押した。
直後、操縦席から「ひゃっ!?」とクズ盗賊の奇声がしたかと思ったらGガイムが急停止した。
突然の停止に対応できず腕にしがみついていたクズ達が放り出されて悲鳴を上げる。
「ってえな!てめえ!何しやがる!!」
クズリーダーがクズ盗賊を怒鳴りつけるが、操縦席から返事はなかった。




