510話 発明自慢
アパラパはGガイムを片膝を立ててしゃがむポーズで停止させると、操縦席から降りて来た。
途中で縄梯子から足を踏み外して落下し、動かなくなった。
慌てて駆け寄るといびきをかいて寝ていた。
実験が終わり、気が抜けて徹夜の疲れが一気に来たのだろう。
ちなみに怪我は大した事はなかった。
担架で運ばれるアパラパにクレッジ博士が満足げな笑みで声をかける。
「ご苦労だったなアパラパ」
クレッジ博士がサラ達に顔を向けた。
「お前達もしばらく休んでくれ」
「はい、……え?しばらく?」
「おう!まだやりたいことがあるからな。少し休憩したら再開するぞ」
「えっとっ、それもアパラパさんがっ?」
「うむ。奴がGガイムを一番上手く扱えるからな!」
「そっ、そうですかっ」
サラ達はクレッジ博士のテントに招待された。
一際大きなテントで中に十人は楽に入れそうな大きさだった。
そこでサラ達はクレッジ博士の自慢話を聞かされていた。
と、言っても誰も真面目に聞いていなかった。
リサヴィの中で一番魔道具に興味があるヴィヴィですら聞き流していたほどだ。
クレッジ博士の自慢話に飽きたヴィヴィが強引に話に割り込む。
「ぐふ、そういえば周囲の警戒をしていた魔装士の魔装具はフェラン製か?見たことないタイプだったが?」
「だろうな。オレが改良した試作品だからな」
クレッジ博士はその魔装具の自慢をする気はないらしく素っ気なく答えた。
しかし、ヴィヴィは博士が発明したものの中で一番興味を持った。
「ぐふ、魔装具は今までの自慢話に出て来なかったぞ」
「ん?そうだったか?まあ、オレは色々やってるからな、抜けの一つや二つはあって当然だろう」
「ぐふ、当然か?」
「ああ。お前だってパンを買いに行って肉を買っくる事くらいよくあるだろう。そう言う事だ」
「そんな……」
「ああっ確かにっ」
「……」
「だろ?」
「はいっ」
「……」
サラは「そんな事ありません」と否定しようとしたが、アリスがクレッジ博士に賛同したため、言葉を取り下げる。
自分がおかしいのかと周りを見回すが、リオは無反応、ヴィヴィは仮面で表情が読めない、そしてメアリーは困惑した顔でどちらの意見か判断できなかった。
サラが悩んでる間もクレッジ博士の話は続く。
「何故、オレが魔装具の改良をすることになったか、それはな、カルハンの魔装士がフェランの新型にケチをつけたのが始まりだ」
サラはフルモロ大迷宮での出来事を思い出し、ヴィヴィに視線を向ける。
ヴィヴィはその視線に気づいたが無視した。
そんな事などお構いなしにクレッジ博士の話は続く。
「それでだ、オレ、サイファ・ヘイダインの再来と呼ばれるオレに意見を求めて来たと言うわけだ。わはは!」
そう言ったクレッジ博士はなんか偉そうだった。
「そのケチをつけた魔装士は本当にカルハンの魔装士だったのですか?」
「ん?どう言う意味だ?」
「本人がカルハン人だと名乗ったのですか?」
「そこ大事か?」
「はい」
サラはヴィヴィを見ながら断言した。
もちろん、ヴィヴィはその視線をシカトする。
「ふむ……」
クレッジ博士は少し考える素振りをしてから答えた。
「覚えていないな。もしかしたらカルハン製の魔装具を装備した魔装士と言ったのかもしれんが、オレにはどうでもいいことだからな」
「ぐふ、済まないな。サラはつまらん事にこだわって話の腰を折るのが趣味なのだ」
「誰が趣味よ!!」
「ぐふ、博士、先を続けてくれ」
「うむ。オレはその依頼を受けてやった。他にもやる事がいっぱいあるのだが、サイファ・ヘイダインの再来と言われるオレがそんな簡単なことを出来ないと思われるのも癪だしな。でだ、実際にその魔装具を動作させて確認したのだが、ああ、動かしたのはアパラパだぞ。奴はああ見えて何でも卒なくこなせるのだ」
そう言ったクレッジ博士はここにいないアパラパの代わりに誇らしげな顔をする。
「ぐふ、それで?」
「うむ、酷かったな。ケチではなく事実だった。だから俺も『酷い出来だ』と太鼓判を押してやったら、何故か激怒されてな」
「普通怒ります」
「何?事実だぞ。本当に酷い出来だったぞ」
「いえ、もういいです。続けて下さい」
「うむ、そうか。それでな、何度かやり取りしているうちな、『じゃあ、お前が作ってみろ』などと言い出す始末でな。ったく、フェランの魔術士ギルドの奴らは自分達が無能なのを棚に上げおって全くもってけしからん!」
「はあ」
「で、そのゴミ魔装具をまともに使えるようにしたのがアレだ。いや、待てよ。あれだけの改良を加えたのだ。最早、オレが魔装具を開発した、と言っても過言ではないな」
「いえ、過言です。カルハンが怒りますよ」
サラのツッコミはクレッジ博士には聞こえなかったようだ。
「ぐふ、それで具体的にどんな改良を加えたのだ?」
「それはだな……いや、やめておこう」
クレッジ博士は言いかけて意味深な笑みを浮かべる。
「ぐふ?」
「この後の実験でGガイムとの模擬戦をやるつもりなのだ。そこで見て驚くがいい!オレが開発した魔装士の力を!」
「ぐふ……」
「あれっ?って事はもしかしてっゴー、Gガイムに勝っちゃうんですかっ?」
「そんなわけないだろう」
「そっ、そうですかっ」
「言っておくが開発費の違いだからな」
「はいっ?」
「潤沢な開発費があれば単体でGガイムと渡り合える魔装具を作り上げる自信はあるぞ!アレはあくまでもフェランの魔装士ギルドが出した開発費で出来る範囲で改良しただけだからな!なんと言ってもオレはサイファ・ヘイダインの再来と言われる男だからな!わははは!」
そう言ったクレッジ博士はとても自信満々であった。
彼はこれまでのクズ達と違い、実績に裏打ちされた自信なので本当に作り上げる事が出来るかもしれないが、その開発費が出るとは思えないので真偽を確かめる事はできないだろう。
クレッジ博士の自慢話を一通り聞き終えた頃だった。
白衣を着た魔術士ギルド職員が血相を変えてクレッジ博士のテントにやって来た。
「は、博士!大変です!ゴーレムが盗まれました!」
その者の声を聞き、クレッジ博士が開口一番に叫んだ。
「ゴーレムではない!Gガイムと呼べ!!」
「え?怒るとこそこ?」
サラは思わず呟いていた。
魔術士ギルドの職員がクレッジ博士に謝罪する。
「す、すみません!」
「もう一度だ!!」
「は?……あ、ああ、ゴ、Gガイムが盗まれました!」
「そう、それでいい」
そう言った後、クレッジ博士が叫んだ。
「なんてこった!!」
クレッジ博士が頭を抱えるが、その顔は満面の笑みを浮かべていた。
それを見てサラ達は悟った。
警備がザルすぎると思っていたが、それはGガイムを盗ませるためだったのだと。
何故、そんな事をさせるのか?
その盗んだ者達と博士はグルで魔術士ギルドの資産であるGガイムを自分のものにしようとでもしているのだろうか?
今のサラにクレッジ博士の考えがわかるはずはなかった。
ただ、ひとつはっきりしている事は予想通りこの博士が普通ではないと言う事だ。




