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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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507話 疑惑

 ギルドを出たリサヴィは今夜泊まる宿屋を探していた。

 リサヴィがやって来た宿屋は大騒ぎになっていた。

 泊まっていたクズが突然、ギルドの地下牢に宿泊先を変えたからだ。

 その地下牢宿?もこのギルド始まって以来の盛況ぶり?で大変なことになっているようだ。

 ギルドは識字試験を受けさえすれば釈放すると言っているのだが、クズ達は不正合格した事が確定してしまうので徹底抗戦を図る気らしい。

 中には図々しくも飯や毛布などを要求している者もいるという。



「他を探しましょう」


 バタついている様子を見てサラがそう言ってリオの表情を窺う。

 リオはいつもの無表情を保ったままだった。

 リオはクズを半殺し(いや、八、九割かも)にしてから全く返事をしていない。

 まだラグナを使えると嘘ついたクズの事を怒っているようだ。

 アリスもあれ以来、沈黙したままでその表情はリオを真似ているかのように表情が消えていた。

 ヴィヴィについては仮面で顔が見えないのでそもそも変化があったのかどうかもわからない。

 ただ、口数は少ない。

 重い空気にサラがため息をつき、もう一度声をかけようとしたところで宿屋の者がサラ達に気づいて声をかけてきた。


「あの、お泊まりですか?」

「え?あ、はい。空いていますか?出来れば四人部屋を貸切でお願いしたいのですが」

「あ、はい少々……」


 宿屋の者はリサヴィが美形揃いであることに気づき、見惚れて言葉を失うが、すぐに我に返った。


「しょ、少々お待ちくださいっ」


 その者は慌てて店の中に消えると宿屋の主人を連れて戻って来た。

 宿屋の主人はサラ達を見て満面の笑みを浮かべる。

 サラ達が美人だからではなく、リサヴィだと気づいたようだった。


「ようこそいらっしゃいました!」

「はあ」

「お部屋ですが、すぐご用意しますので。ああ、お食事はお済みですか?よしよければその間お食事をしてはいかがでしょう?うちの料理は結構評判なんですよ!」

「そうですか。リオ、どうしますか?」


 空をぼーと眺めていたリオがチラリとサラを見た。

 それだけだ。


「リオ、ここに決めますよ」


 リオから返事はない。

 その様子を見て宿屋の主人が不安そうな表情を見せるが、リオは空を見るのをやめて宿屋へ入って行った。

 それを見て宿屋の主人が安堵の表情をする。

 サラも内心ほっとしながらリオに続いた。



 リサヴィは宿屋一階の酒場で食事をとっていた。

 ヴィヴィは座っているだけだ。

 ヴィヴィを除いて黙々と食事を続ける。

 酒場には他にも冒険者がおり、リサヴィだと気づいて声をかけたそうにしている者もいたが、まるでお通夜のように静かに食事をしている彼らに声をかける者はいなかった。

 もし、ここにクズがいればリオ並に空気の読めない者達なのでそんな事気にせずちょっかいをかけて来た事だろう。

 そしてボコられたことだろう。



 サラは料理を機械的に口に運びながら先ほどのことを考えていた。

 サラのヒールの魔法がキャンセルされたことは今のリオに聞いても答えないだろう、いや、いつものリオに戻っても「さあ?」で終わりそうな気がした。

 そこで次に気になるアリスの変化について考えた。


(あの冷酷そうな表情をするようになったのは最近よね。出会って間もない頃はおどおどしていて力も弱く、私の遥か後方にいたのに……)


 アリスがメイスを構えた姿はとても様になっている。

 クズ達のように格好だけではない。

 リサヴィでなければ前衛を任せられる程の強さに成長していた。


(成長、という言葉だけで済ませていいものかしら?確かにアリスは旅の合間も訓練を続けているけど練習量は全然大した事はないし、特別な事をしているわけでもない。にも拘わらず……)


 訓練がもたらす成果が異常なのだ。

 それは急激に強くなったリオに似ていると思った。


(総合力ならまだ私の方が上だけどいずれ……)


 サラはかつてナナルが語った言葉を思い出していた。

 それはサラがナナルの特訓を受けていた時のことだった。


「サラ、あなたは強くなりました」

「ありがとうございます!」

「しかし、天才ではありません」

「は、はあ」

「やがてあなたの前に天才が現れるかもしれません」

「天才、ですか?」


 ナナルが頷く。


「“彼女”はあなたに追いつき、そして追い越していくでしょう。でも問題はそこではありません。そこであなたがどうするかが問題なのです。それでも尚、前を向き進み続けるか、嫉妬に狂い道を外すか。それはあなた次第です」

「ナナル様、私は嫉妬なんてしません!自分が天才ではない事はわかっていますから!」


 サラは笑ってナナルにそう答えた。

 その時のサラは本気でそう思っていた。

 だが、現実に目の前に天才が現れた今のサラは笑えない。

 そして気づいた。


(ナナル様はあの時、確かに“彼女”と言った。そして出会った時は私の方が力が上だと……ナナル様はアリスのこと、私がアリスと出会うことを知っていた!?)


 サラの中で初めてナナルに対する絶対的な信頼が揺らぐ。


(ナナル様は自分がかつて勇者を誕生させたことを黙っていた。それは容易に口にしていいことではないから仕方がないかもしれない。でもアリスの事は何故黙っていたの?)

(ナナル様は私の未来予知を聞いたとき「知らない」と言っていたけど実は知っていた!?……私に嘘をついていた?)


 サラの中でナナルへの不信感が芽生えつつあった。



「サラさんっ?悩み事ですかっ?」


 サラの思考をアリスの言葉が中断させる。


「え?」

「一人で悩んでないでわたし達に相談して下さいよっ」


 それはいつものアリスであった。

 のほほん、として何も悩みがないようないつものアリスだった。


「え、ええ、心配させたのならごめんなさい。何でもないです。ちょっと昔の事を思い出していて」

「ぐふ。あれだな」

「えっ?ヴィヴィさんっ、わかるんですかっ?」

「ぐふ」


 そう呟いたヴィヴィはなんか誇らしげにくいっ、と顎を上げた。


「教えてくださいっ」

「ぐふ。本物の鬼嫁を見た時の事を思い出していたのだ。そして鬼嫁気取りしていた自分がどれほど拙い真似ごとだったのかと気づき、反省していたのだろう」

「そうなんだ」

「おいこら!」

「サラさんっ、わたしはっ、あんな酷い扱いをリオさんにさせま……痛いですっ」

「そんなわけないでしょう!」


 サラはそう叫びながら(ついでアリスをどつきながら)リオもいつものリオに戻っているのを見て安堵する。



 その後、サラはリッキー退治をしているときにリオにさり気なくヒールがキャンセルされた時の事を聞いたのだが、予想通り「さあ?」と返ってくるだけだった。

 そしてムルトに行きを提案したが、あっさり断られた。


「あそこには用事がない」


 と。

 仕方がないのでナナルにリオとアリスの変化を相談する手紙を送る事にした。



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