505話 元神殿長、捨て台詞を吐く
冒険者らしい神官は元神殿長に向かって厳しい言葉を吐いた。
「あれだけの事をしておいてまだのうのうと生きていたとはな」
「ざけんな!」
「しかも過去の肩書で威張っているとはな。正しく“見習い”と名乗れ」
「ざけんな!誰が見習いだ!?二級神官だ!」
元神殿長は冒険者らしい神官の誘導尋問に見事に引っかかり口を滑らした。
「そうだったか。なら俺と同じだ。いや、降格で二級神官になったのだから俺より格下だな」
「ざけんな!」
「まあ、お前のようなクズはどうでもいい」
冒険者らしい神官はそう言うと喚く元神殿長を無視して父親の顔を見た。
「病人がいるそうだな」
「は、はいっ」
「俺が診よう。もちろん、金はとらんし、あのクズにも払う必要はない」
「あ、ありがとうございます!」
「だ、誰がクズだ!?誰が!?」
冒険者らしい神官は面倒臭そうな顔をしながら言った。
「お前だ。というか、まだいたのか。さっさとどこかへ消えろ、クズ」
更に「しっしっ」と手振りも交える。
「て、てめえ!さっきから俺様をクズ呼ばわりしやがってタダで済むと思ってんのか!?ああんっ!?」
凄みを利かす元神殿長を冒険者らしい神官が睨み返す。
その迫力に押され、元神殿長をはじめ、神殿騎士達も固まる。
冒険者らしい神官は元神殿長に見下した目を向けながら言った。
「元神殿長のクズ、お前に言っている」
「な、な……」
元神殿長は怒りで顔を真っ赤にすると神殿騎士に命令する。
「このクズを殺せ!」
「クズはお前だ」
神殿騎士達が剣を構える前に冒険者らしい神官が動いた。
手にしたメイスで片方の騎士の剣を持つ利き腕を打ち砕く。
悲鳴をあげる神殿騎士に構わず、もう一人の騎士が抜いた剣を盾で受け止め、メイスでその顔を殴り飛ばした。
兜がグシャリと歪み、その神殿騎士は悲鳴を上げて顔を押さえる。
その様子を見て元神殿長は唖然とする。
「さて、後はクズ本体だな」
「ひっ!?」
元神殿長は慌てて防御の構えを取るが素人丸出しだった。
魔法が使えない上に武術もダメであることは明らかだった。
冒険者らしい神官はその姿を見てやる気を削がれた。
流石に素人相手に武器で攻撃するのは後めたさを感じたらしく、メイスを収めると素手で元神殿長を殴り飛ばす。
元神殿長は情けない声を上げて無様に転がる。
冒険者らしい神官はその姿を見て呆れた顔で言った。
「……本当に酷いな。コネがあればこんなクズでも神殿長になれるのだから教団の腐敗は深刻だな」
「て、てめえ!俺様を殴りやがったな!?パパにも殴られたことないのに!!」
「何がパパだ。お前はいくつだ」
冒険者らしい神官は立ち上がった元神殿長を再び殴った。
元神殿長はまたも悲鳴を上げて無様に地面を転がる。
今度は泥に突っ込み高価な服も派手に汚れた。
「に、二度も殴りやがったな!ママにも殴られたことないのに!」
「だからお前はいくつだ」
「お、お前ら!いつまで遊んでいる!?パパとママに言いつけるぞ!!」
その声に反応し、二人の神殿騎士が元神殿長を庇うように立った。
一人は利き腕を折られており、もう一人は顎が砕かれ、歯も何本も折れていた。
もはや二人とも戦える状態には見えないが、それでも元神殿長を庇うのは彼への忠誠というよりも彼のパパとママが怖いのだろう。
利き腕を折られた神殿騎士が苦痛に顔を歪めながら叫ぶ。
「貴様!よくも神殿長様に怪我をさせたな!」
「誰のことだ。そのクズは見習いだ」
冒険者らしい神官はわざと役職を間違えて言った。
彼の挑発に乗せられて元神殿長達は激怒する。
「ざけんな!誰が見習いだ!?」
「さっさと神殿長様を治せ!俺らもだぞ!」
「そうだ!今すぐ治せ!そうすれば多少は罪が軽くなるかもしれんぞ!」
「断る」
「「ざけんな!!」」
「ふぉふぉんふぁ!!」
おそらく顎を砕かれた神殿騎士も「ざけんな!」と叫んだのだろうが何言っているかわからない。
「自分で治せ」
「「ざけんな!」」
「ふぉふぉんふぁ!!」
彼らは喚くだけで全く魔法を使う様子がない。
冒険者らしい神官は驚いた顔をする。
その顔はとてもわざとらしかった。
「まさかクズだけでなく、神殿騎士のお前達までその程度の魔法も使えないのか?」
「「ざけんな!!」」
「ふぉふぉんふぁ!!」
「ほう。では使えるのか」
「あ、当たり前だ!」
「だがな!この怪我を負わせたのはお前だ!お前が治すのが当然だろうが!」
「そうか」
「「おう!」」
「ふぉう!」
「だが、断る」
「「ざけんな!」」
「ふぉふぉんふぁ!!」
冒険者らしい神官は見下した目を向けて言った。
「仕方ないな」
「おう!さっさと治せ!」
「急げよ!」
「ふぁお!」
冒険者らしい神官は右腕を元神殿長達に向ける。
そして、「ふむ」と呟いた。
それは先ほどの元神殿長のマネであった。
冒険者らしい神官は元神殿長達に向けて言った。
「よし、終わった」
言うまでもないが、元神殿長達の傷はまったく治っていない。
「ざけんな!全く治っていないぞ!」
「俺らを馬鹿にしてんのか!」
「ふぉふぉふぃふぃ!」
元神殿長達が喚きまくる。
「人のせいにするな。治らないのはお前らの信仰心が足りないからだ」
元神殿長が冒険者らしい神官を怒鳴りつける。
「ざけんな!信仰心など関係あるか!お前の力がないからだろうが!このクズ神官が!!」
「し、神殿長様!」
元神殿長の自白に神殿騎士が慌てる。
それで元神殿長も失言に気づく。
だが、もう遅い。
冒険者らしい神官が冷めた目をして言った。
「お前らが詐欺行為をしていたことがはっきりしたな」
「ざ、ざけんな!」
「このことは教団本部に連絡する。二度とお前らクズが悪さできないように厳罰を与えて貰わないとな」
「ざ、ざけんな!そんなことしてタダで済むと思っているのか!?俺様はエル聖王国の大貴族……」
「黙れ!!」
冒険者らしい神官の迫力に押されて元神殿長の言葉が止まる。
「さっさと去れ!教団の面汚しのクズどもが!!」
元神殿長は何か言い返そうとしたが、冒険者らしい神官がメイスに手を伸ばしたのを見て思い止まる。
その代わりに元神殿長達は足を動かした。
逃げ出したのだ。
「お、覚えてろよ!」
の捨て台詞を残して。
「あ、ありがとうございます!」
「いや、こちらこそ済まない。同じ教団の者として恥ずかしい」
「で、ですが大丈夫ですか?」
「心配は無用だ。あんなクズ。それよりも病人だ。今度は本当に魔法を使うから安心してくれ」




