501話 クズ、同情を誘う
サラがFランククズを問いただそうとしたが、またしてもクズの方が早かった。
「てめえがどんなに力があろうとな!サラ達はCランク冒険者だぞ!Fランクのてめえをパーティに入れるわけねえだろうが!」
そのクズの言葉に他のクズも声を大にして同意する。
しかし、Fランククズはその言葉を鼻で笑った。
「リサヴィはリッキー退治してんだぞ。全然問題ないだろ。それどころかお前らこそ依頼を受けられねえだろうがよ!」
確かにその通りではあったが、それが全てでもなかった。
「ざけんな!お前はCランクどころかDランクの依頼も受けられねえだろうが!そんな足手纏いをパーティに入れるかよ!」
冒険者が受けられる依頼は一ランク上から二ランク下まで。
つまりFランククズはEランクまでしか受けられないのだ。
クズ達が珍しくまともな議論をしているが、あくまでも結果である。
たまたまである。
「問題ねえぜ!何故なら俺はお前らクズと違って実力はホンモンだ。あっという間にサラ達に追いついてやるぜ!俺が保……いや、俺がいた傭兵団が保証するぜ!」
そういったFランククズの顔はなんか誇らしげだった。
しかし、彼の力を保証するというその傭兵団はここにいないので自分で保証すると言うのと大差ない。
粗探しには定評のあるクズ達がその事に気づかないはずがない。
「ざけんな!ここにいないんじゃ自分で保証すんのと同じだボケ!」
「ざけんな!」
クズ達口論が激しくなった。
クズ達の議論はキリがなさそうなのでサラはクズ達の会話に強引に割り込んだ。
「あなたはFランク冒険者なのですね?」
「おう!だが実力はホンモンだ!俺が保……俺がいた傭兵団が保証する!」
「そんな事はどうでもいいです」
「おいおい……いや、見ただけで俺の実力を見抜いたってことだな!?流石サラだぜ!」
Fランククズはおめでたかった。
そんな彼に構わずサラは続ける。
「それであなたはどこのギルド所属、いえ、どこのギルドで試験を受けたのですか?」
「はあ?なんでそんなこと聞くんだ?」
「あなたは最近不正合格したと言う事です。そのギルドがどこか知りたいのです」
「!!」
Fランククズはそのギルドと密約を交わしていたのだろう。
さっきのまでの余裕が吹っ飛び、顔を真っ青にして「あうあう」と意味不明な言葉を発したかと思うと、だっ、とその場から逃げ出した。
しかし、ギルド警備員に回り込まれてしまった!
「どけ!俺の力は……」
「うるさい!」
「ぐへっ!?」
Fランククズは力を自慢していたが警備員にあっさりと倒された。
その警備員が元高ランク冒険者だったのか、Fランククズが口だけだったのかはあっさりと片がついたので不明である。
ともかく、Fランククズも先程のクズと同じく地下牢へと連行されて行った。
「次は俺の番だ」とでもいうようにクズの輪から新たなるクズが前に出てきた。
「聞いてくれよサラ!」
「……」
サラが無言でそのクズを見た。
クズは同情を誘う気満々の表情をしていた。
「俺はよ、前のパーティを突然追い出されたんだ。可哀想だと思わねえか?いや、思うはずだ!」
クズはサラが答える前に自分で答えた。
「念の為に聞きますが、なぜ追い出されたのですか?」
サラの問いはクズの耳に届かなかったようで自分の言いたいことを続ける。
「俺はよ、俺を理不尽に追い出したあのクズどもを見返してやりたいんだ!」
「……」
「俺が奴らより格上のお前らのパーティに入ってみろよ。奴ら思いっきり悔しがるぞ!その姿をお前らも見てみたいだろ!?なっ!?よしっ決まったな!すぐパーティ登録するぞ!!」
満面の笑みを浮かべてサラの手を取ろうとしたクズだが、その手をサラがはたき落とす。
「ってえな!何しやがる!?」
サラを睨むクズにヴィヴィが言った。
「ぐふ、これはまたすごいバカが現れたな」
「誰がバカだ!?棺桶持ちぃ!!」
「ぐふ。クズだったな」
「ざけんな!」
サラがため息をついて言った。
「私達は全く興味ありません」
「そう言ってやるなって」
クズは自分のことなのに他人事のように言う。
「実はよ、俺には四つになるガキがいるんだがよ……あ、いや、待てよ。あれから何年経ったか?」
「知りません」
クズは子供を使ったお涙頂戴作戦でサラの同情を誘おうとしたものの、子供が今いくつかわからず考え込む。
このクズがろくに家に帰っていないことが露呈した。
「まあ、そんなことはどうでもいい。ともかくよ、俺に憧れててよ、『父ちゃんのような立派な冒険者になる』なんて言ってくれるんだ」
クズは照れて「へへっ」と鼻をかく。
「ぐふ、冒険者はともかく、お前のようなクズになってはダメだな」
すかさずヴィヴィが冷静なツッコミを入れた。
「ざけんな!」
「子供がいるなら尚のこと真面目になりなさい」
「だからこうやってお前らのパーティに入って頑張ろうとしてんだろうが!」
「何度も言いますが、私達にギルドのコネなどありません。あなた、いえ、あなた達の不正を有耶無耶にすることなど出来ません」
「そんなこと言うなよ!俺の稼ぎがなくてよ、ガキがひもじい思いをしてんだぞ!かわいそうだと思わねえのか!?思うだろうが!」
またもクズはサラが答える前に自分で答えた。
クズは同情話で必死にサラ達の心を動かそうとするが、そこへ粗探しには定評のあるクズ達が「待ってました!」とばかりにそのクズに襲いかかった。
「何アホなこと言ってんだ!てめえはよ!」
「なんだと!?」
「お前んとこのガキはお前に愛想を尽かした嫁と一緒にとっくの昔に出て行っちまってんだろうが!」
その指摘は正しかったようでクズは顔を真っ赤にして喚いた。
「ざ、ざけんな!せっかく途中までうまくいっていたのに邪魔しやがって!!」
怒りまくるクズをアリスが落ち着かせようとする。
「安心してくださいっ。全くうまくいってませんでしたよっ」
「な……」
アリスにサラも続く。
「ええ、全く同情していません」
「ちょ、ちょ待てよ!」
クズは必死にない頭を使って知恵を絞り出す。
そして最悪な一手を打つ。
「な、なあ、サラ!俺のガキはよ、俺に似て男前なんだぜ!」
彼は自分が男前だと思っているようだが大多数は異を唱える、そんな顔だ。
「……そうですか」
目の前でキメ顔をするクズにサラは冷めた返事をした。
「嫁からガキを取り返してくるからよ!頼むよ!」
「は?」
「だからよ!俺のガキをお前にやるって言ってんだ!これでどうだ!?」
「……どうだとは?」
サラから表情が消えているのに気づかずクズは続けた。
「説明するまでもないだろ!前まで連れてたリッキーキラーを捨ててそいつに乗り換えたんだろ!?」
そう言ってクズがリオを指差す。
彼はサラが以前連れていたショタ?からリオに乗り換えたと思っていたようだ。
「……」
「でもよ、そう簡単に趣味は、ショタコンは治らねえだろ……ぐへっ!?」
クズが宙を舞った。
サラの鉄拳が発動したのだ。
クズはバンザイしながらくるくる回りクズ達の輪を越える。
そしてぼてっ、と落ちてあほ面晒して気絶した。
サラが吐き捨てる。
「私はショタコンではありません」
ギルド警備員はそのクズの襟を乱暴に掴むと地下牢へとズルズルと引き摺って行った。




