500話 将来Sランクになるらしいクズ
サラはやっとこの下らないやり取りが終わりに来たと思った。
「ではリオ、そろそろ行き……」
「ちょ待てよ!」
またもサラの前に新たなクズがやってきた。
「本当にいい加減にして欲しいのですが」
「そう言うなって。世界の損失の危機なんだぞ!」
「ぐふ、世界とはこれまた大きく出たな」
「黙れ棺桶持ち!」
「ぐふぐふ」
「それで、何が世界の損失なのですか?」
「決まってるだろ」
クズは自分を指差す。
「この俺が冒険者でなくなることがだ」
そう言ったクズはやっぱりなんか誇らしげな顔をしていた。
「「「「……」」」」
クズはサラ達の沈黙を「先を続けろ」という意味だととって話を続ける。
「今はまだCランク冒険者だがな、実力は他の奴らと違ってホンモンだ!近い将来必ずSランクに上がり!お前の勇者になる!俺が保……」
クズの言葉の途中でヴィヴィが割り込んだ。
「ぐふ、自分で保証するなよ」
「証す……」
クズが顔を真っ赤にしてヴィヴィを睨む。
サラはそんな彼に冷めた目を向けて尋ねる。
「あなたはCランクに上がるまでどのくらいかかりましたか?」
そのクズは、サラが自分の力をCランクに上がるまでの時間で測る気だと思った。
「三、いや二年だ!」
そう答えた直後、彼の知り合いらしきクズが割って入る。
「嘘つけ!三年以上かかってんだろう!」
「てめえ余計なこと言うな!サラ!騙されんなよ!俺を信じろ!」
「……」
サラは彼と初対面ではないかもしれないが、基本、クズは馴れ馴れしいのでどちらかわからない。
まあ、サラが覚えていないので初対面と判断していいだろう。
そんな者に「俺を信じろ!」と言われて信じるほどサラはお人好しではない。
それにサラにとっては彼がCランクに上がるのに二年かかろうが三年かかろうが大して違いはなかった。
サラが知りたかったのは彼の成長スピードではなかったのだ。
「それだけの時間がありながら今だに文字の読み書きができないんですか?」
「そ、そんな事はない!」
「ぐふ、では試してみるか」
「ざ、ざけんな!余計な事言うんじゃねえ棺桶持ち!」
「できないのですね?」
「ま、まあ、そう言えなくもないかもしれないかもしれない」
サラが念を押すとクズは渋々認めたが、その言葉から最後の最後まで認める事に葛藤していたことがわかる。
「何故その間に覚えようとしなかったのですか?」
「そんなの大した問題じゃねえだろうが!冒険者に必要なのは力だ!文字なんか読めなくってもこれまでなんとかなってたんだ!パーティに一人読める奴が入れば問題ないだろうが!お前らのパーティに入ったらちゃんと文字を覚えるからよ!な?」
そう言うとクズはバカの一つ覚えのキメ顔をした。
先ほどアリスに無駄だと指摘されたのにやめないのは、その行動もクズスキルのようにしっかりと体に溶け込んでおり、意識しなくても話の流れから自然としてしまうのだ。
当然ながら全く効果はない。
そこへ新たなクズが割り込んで来た。
「そんなクズ相手にすんなよサラ!」
そう言う彼もクズであるはずだが、その口調から自覚はないようだった。
「なんだとてめえ!?」
「お前は二年も三年も覚える時間があったのに覚えなかったんだ!どう見ても自業自得のクズ野郎だろうが!」
「ざけんな!クズはてめえだ!」
「黙れクズが!!」
新たに現れたクズが凄みを利かしてSランクになると豪語したクズを睨みつけるとそのクズは大人しくなった。
新たに現れたクズは満足げな顔をした後、サラに顔を向ける。
その顔は一変して同情を誘うおうとする顔であった。
実際、発した言葉も同情を誘おうとするものだった。
「聞いてくれよサラ!俺なんかな!冒険者になってまだ三ヶ月も経ってないんだぞ!それでこの仕打ちだ!酷くねえか!なあ!?」
「……は?」
サラはここにいるクズ達、不正合格した冒険者達は無能のギルマスことゴンダスがギルマスをしていた頃のマルコで不正合格したものと思っていた。
しかし、マルコでの不正が発覚したのは半年以上も前の話で、この者が不正合格したのはゴンダスが処分された後ということになる。
流石に今のマルコが不正合格を許すとは思えない。
そうなると答えは一つ。
マルコ以外のギルドで不正合格して冒険者になったという事である。
サラがその事を問う前に先ほど彼の恫喝に屈した将来Sランクになるらしいクズが偉そうな態度で前に出てきた。
「てめえFランク冒険者か!さっきは舐めた口利きやがって!俺はCランク冒険者だぞ!」
クズ達にとってランクが全てである。
例え実力が上であろうとランクが上の方が偉いのだ。
逆らってはダメだのだ。
それがクズの暗黙のルールであった。
しかし、Fランククズは突然変異した者だったのか、ランクによる脅しは全く通じなかった。
「それがどうした?俺は元傭兵だ!そんじょそこらのCランク冒険者なんかには負けんぞ!」
Fランククズが将来Sランクになるらしいクズを睨みつける。
将来Sランクになるはずのクズはこそこそと後ろへ下がり、何事もなかったかのように周りを囲むクズに溶け込んだ。




