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50話 ストーカーカリス

第2部の主役と言っても過言じゃない?カリスが本格始動します。


「見たか!」


 カリスがCランクに分類される熊に似た魔物、マクーの首を大剣で斬り落として仕留めると笑顔でガッツポーズをサラに見せつける。

 サラは内心ため息をつきながら、引き攣った笑顔で頷いた。

 カリスは何かにつけてサラにオレオレアピールをしてくる。

 最近では魔物を一体倒す度にサラの姿を探してはアピールするようになった。

 いい加減鬱陶しいのだが、流石にそう言うのは躊躇われる。

 少なくともリオが親の仇である金色のガルザヘッサを討つか、他の誰かに討たれるなりしない限りはウィンドと行動を共にしなければならないと思っている。

 それがいつになるかわからない今、ウィンドと問題を起こしたくなかった。

 サラはカリスに何度か控えめに注意したが全く効果がないどころか悪化しているように思われる。


 サラが当初警戒していたのはナックだけだった。

 リオからナックが女好きだと聞いていたからだが、会ってみればパーティ内恋愛否定派であり、自分からは口説かないと公言している。

 実際、誘ってくる事はあっても冗談だとすぐわかる。

 実のところ、リオから得たウィンドの情報の中で一番少なかったのがカリスだった。

 リオはカリスの事を大剣を使う男戦士としか言わなかったのだ。



 サラはカリスの背後からウォルーが忍び寄って来ているのに気づいた。


「カリス!」

「おうっ!」


 サラの警告をカリスは何故か声援と勘違いして腕を振り上げる。

 

「違うっ!後ろ!」

「後ろ?……!!」


 振り返った瞬間、カリスは喉元に食らいつこうと飛びかかって来たウォルーに気づき、咄嗟にその牙を腕で防ぐ。

 ウォルーの牙が革鎧を貫通して腕に深く食い込んだ。


「ぐあっ!?て、てめえ!」


 カリスのなかに屈辱、怒りなど様々な負の感情が流れ込む。

 顔を真っ赤にしながら大剣から手を離し、その空いた手でウォルーの首を掴んで締め上げる。

 カリスの握力は尋常ではなく、ボキッ、と嫌な音がしてウォルーの体が力なくだらん、と下がる。

 カリスが息絶えたウォルーの口を強引にこじ開けて腕から外すと地面に叩きつけ、踏みつける。


「このっ!サラの前で俺に恥をかかせやがって!」

 

 カリスはすでに死んで動かないウォルーを何度も踏みつけた。


「……ぐふ。お粗末だな。あれでBランクか。相手がウォルーでなければ死んでいたな」


 ヴィヴィの呟きはサラには聞こえたが、幸いにもカリスには聞こえていなかったようだ。



 ウォルーの気配は複数あったが、カリスに一体が倒されると気配が消えた。

 敵わないと見て森の奥へ逃げ出したようだ。


「すまんサラ、怪我した」

「カリス、そのくらいなら俺が……」


 ナックの言葉を遮り、再度カリスはサラの名を呼ぶ。


「頼むサラ」

「……はい」


 ナックが呆れ顔をしながら離れる。

 サラはカリスの要請に応えて回復魔法を発動する。

 カリスの怪我は一瞬で治った。

 

「助かったぜサラ!」

「いえ」


 カリスはまだ何か言おうとしていたが、サラは気づかぬ振りをしてベルフィを見る。


「ベルフィは怪我ありませんか?」

「ああ、大丈夫だ」

「流石ですね」


 サラの“流石”という言葉に過敏に反応するカリス。


「サラ!ちょっと油断しただけだ!俺の力はこんなもんじゃない!」

「そうですか」


 サラはワザと素気なく答える。

「あなたに興味はありませんよ」と、さり気なく態度で示したのだ。

 カリスがむっとした顔をする。


「カリス、お前油断しすぎだぞ」


 ベルフィの言葉にカリスはかっとなる。


「だからちょっと油断しただけだ。もうこんなミスはしない!」

「というより、何故指示を無視して突っ走った?」

「そ、それは……」


 そう、マクーが現れた時、ベルフィが迎え撃つと指示したにも拘らず、

 

「あんな雑魚楽勝だ!見てろサラっ!」


 と一人飛び出して行ったのだ。


「お前、最近自分勝手に動く事が多いぞ。ちゃんと指示通りに動けば怪我だってしなかった筈だ」

「……そうだな」


 カリスは振り返りサラに言い訳を始める。


「済まない。いつもはこうじゃないんだ。本当だぜっ!」

「そうでしょうね」

「おうっ」


 サラが自分の力を認めたと思い、カリスは笑顔を見せる。

 が、


「しかし、謝る相手は私ではありません」


 とサラに指摘され、顔を赤くする。


「そ、そうだな」


 カリスは嫌そうな顔をしながらもウィンドの面々に謝罪した。



 街に着くと宿屋に直行した。

 いつものようにパーティ毎に一室予約し、サラは部屋に入るなりベッドに倒れ込む。

 流石のカリスも部屋の中まで押しかけてくる事は“ほとんど”ない。

 サラが気を休められるのは宿の部屋の中だけだった。

 とはいえ、カリスの行動はどんどんエスカレートしていく。

 部屋の中にまでカリスが押しかけて来る事を想像するとゾッとする。

 部屋の中ではリオもヴィヴィも基本無言で、たまにヴィヴィがちょっかいをかけてくるが、気を使わなくていい分、カリスを相手にするよりはるかにマシであった。



「まだ夕食には時間があるわね」


 気分が落ち着いたサラはウィンドが借りている部屋に向かった。

 

「すみません、サラです」


 ドアをノックし、そう言うとすぐにドアが開き、カリスが笑顔で出迎えた。

 サラは内心、うっ、と思いながらも何とか表情を隠す。

 そんなサラにカリスは全く気づいていなかった。

 

「どうした。俺に何か用か?」


「なんでそう思う!」と思わず突っ込みたいのをサラは必死に我慢する。


「いえ。ベルフィはいますか?」


 途端にカリスは不機嫌な顔になる。

 

「ベルフィに何の用だ?」

「ちょっと相談したい事があるのです」

「水臭いな。相談なら俺が聞くぜっ」


「あなたの事で相談したいのよ!」と言いたいのを必死に我慢し、頬を引き攣らせながらもどうにか表情を変えずに続ける。

 

「いえ、リーダーのベルフィに相談したいのです」

「俺は副リーダーだ。安心しろ」


(あーっ!しつこいっ!!)


 サラが困っているとベルフィがやって来た。

 

「サラ、俺に用があるのか?」


 サラがホッとした表情を見せる。

 それがカリスには面白くない。


「はい。少し二人だけで話したいことがあるのですが」

「わかった。ちょっと待て」


 そう言うとベルフィは奥に戻り、軽く装備を整える。

 そしてドアの前から退こうとしないカリスをやや強引に退けて部屋の外に出た。


「宿屋を出た先にあった喫茶店で話をしよう。いいか?」

「はい」



 で、喫茶店。

 

「サラは何を注文する?」 

「「……」」


 そこにはサラとベルフィだけでなく、カリスもいた。

 カリス曰く、「パーティメンバーの悩みは副リーダーも知っとくべきだ」と言い張って追って来たのだ。


 サラが「私はウィンドのメンバーではありません!」と言いたいのを必死に我慢したのは言うまでもない。


「俺が奢るから好きなもの頼め」

「いえ、大丈夫です」

「気にするな。こっちが誘ったんだ」


 と、呼ばれてもいないのについて来たカリスが言う。

 結局、カリスが奢ると言い張るのでサラが折れた。


 サラはカリスの行動について相談したかったのだが、流石に本人の前ではできない。

 出来るならさっき部屋に行ったときに話している。

 サラは仕方なく、無理やり別の話題を考えてその場を凌いだ。

 サラは精神力を結構消耗したが、カリスは一人満足そうだった。

 ただ、カリスが追いついて来る前にベルフィにカリスについて相談したいと言っており、サラが実際に相談した内容がカリスの事ではなかった事で、ベルフィはサラが本当は何を相談したかったのか察していた。


 正直、ベルフィもカリスの暴走には困っていた。

 今までこんな事は一度もなかったのでどう対処すればいいのかわからないのだ。

 ただ一つ言える事は、カリスはプライドが高く、馬鹿正直に「サラが迷惑しているから付き纏うのはやめろ」と言えば機嫌を損ねる事だけは確かだった。



 

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