499話 クズ、秘密を明かす
うっかり1話飛ばして500話を掲載してしまいました。
それを読んでしまった方は忘れてください……。
クズ達が他に手はないかと互いの顔を見渡すが誰からも声が上がらない。
流石に万策尽きたようね、とサラが思ったのも束の間、新たなクズがサラの前に現れた。
「もういい加減にしてほしいのですが」
サラが迷惑であることを隠さず、ウンザリした顔で言ったが、そのクズには通じなかった。
クズが真剣な目をして言った。
「そんな事言うなよ。もうなり振り構っていられねえ。サラ、俺の秘密を話すぜ。そんで可哀想だと思ってパーティに入れてくれ!」
「ぐふ、自分で可哀想と言うな」
「ざけんな!黙ってろ棺桶持ち!」
クズはヴィヴィを怒鳴りつけるが目を合わせようとはしなかった。
クズがじっとサラを見る。
「誰にも言うなよ」
クズはそう前置きしたが、今までの暴露話はギルド中に知れ渡っている。
(今まで以上の暴露話かしら?「誰にも言うな」と言う割に声が大きいし、隠す気があるようには見えないわ。……となると妄想自慢か、今の状況を理解できていないバカか、のどちらかね)
サラがそんな事を考えているとクズが秘密を口にした。
「実はな、俺は……字がまともに書けねえんだ」
そう言うとそのクズは「へへっ」と照れたように鼻をかいた。
後者のバカだった。
「知ってましたが」
「な、なに!?」
クズが驚いた顔をしたのでサラ達も驚いた。
「なんで知ってるんだ!?」
「……先ほどから大声で読み書きできない、と自慢していたでしょう。みんな聞いてますよ」
「な……」
サラの指摘でそのクズだけでなく、他のクズ達もやっとここがギルドであり、自分達が致命的な失態を犯していたことに気づいたようだった。
「ぐふ、それで今の話のどこがかわいそうなんだ?」
「ざけんな!文字が書けねえくらいで冒険者を辞めさせられるかもしれねえんだぞ!たったそれだけで!可哀想だと思うだろうが!」
クズの心からの叫びはクズ達だけに伝わった。
「ぐふ、冒険者は読み書き出来て当たり前だ」
「ざけんな!!」と目の前のクズだけでなく周りのクズも一緒になって叫んだ。
サラが冷めた目で言った。
「あなたが、いえ、あなた達が冒険者に不正合格した事がバレそう、いえ、もうバレていますね、ともかく、それで退会させられるかもしれないと困っていることはわかりましたが、それで何故私達のパーティに入りたがるのかがわかりません。あなた達が真っ先にすべきことは不正合格した事をギルドに正直に話し、今後のことを相談する事ではないですか?」
サラの正論は当然、クズには通じなかった。
いや、もう助かる道はリサヴィにすがるしかないと思ったのだ。
「そんな事言うなよ!同じ冒険者が困ってんだぞ!」
「自業自得でしょう」
「そこをなんとか頼むぜ!な?知らない仲じゃないんだしよ!」
「……どこかで会いましたか?」
サラは目の前のクズと話した事も会ったことも記憶になかった。
それは当然であった。
「何言ってんだ。今こうして会って仲良く話してんじゃねえか。もう親友と呼んでもおかしくないぜ!」
そう言ってクズがサラにキメ顔をする。
しかし、効果は全くなかった。
「何を期待しているのか知りませんが私達にできる事はありません」
「そう言ってやるなよ。お前らはギルドにコネがあんだろ?それで頼むぜ!」
「そんなものありません」
サラは正直に言うがクズは信じなかった。
「別によ、俺だって全員助けてくれなんて言わねえぜ。流石にそれが無理なのはわかってるぜ。パーティの空きは一枠だろ?だからよ、俺だけ助けてくれ。そんくらいならいいだろ?」
そう言うとそのクズはキメ顔をした。
そのクズの言葉に他のクズが激怒する。
彼らがまたも暴露合戦を始めた。
サラがウンザリしてその様子を眺めているとアリスが口を開いた。
「あのっ……」
その声にさっきのクズが素早く反応した。
「おっ、なんだアリエッタ!協力してくれんのか!ありがとよ!!」
「そんな事しませんよっ」
クズの言葉をアリスはバッサリ切り捨てた。
しかし、クズも負けてはおらず、すぐさま拾い上げる。
「ははっ。照れんなって。なっ?」
クズがアリスに向かってキメ顔をした。
「それですっ」
そう言ってアリスがクズの顔を指差す。
「おうっ!俺に惚れたか?まあ、俺もお前のこと嫌いじゃないぜ」
クズが照れながら言うとアリスが冷めた目をして言った。
「そんなこと死んでもないですよっ」
「ざけんな!」
クズがキレた。
「じゃあ、お前は何が言いてえんだ!?ああ!?」
クズが本性を現してアリスを睨みつける。
クズはアリスには戦闘力がないと思い込んで舐めていたが、実際のところ力はアリスの方が上である。
アリスは怯える事なく言った。
「あなただけでなくっ、さっきの人達もですけどっ、どんなにカッコつけようとリオさんには全然敵わないですよっ。てかっ、よくリオさんのいる前でカッコつけようと思いますねっ」
「な……」
アリスの言う通りであった。
どんなに必死にカッコつけようが、何もしない自然体でいてもリオの方が断然カッコいいのだ。
ただし、これはあくまでも客観的に見た場合であり、好みは人それぞれなのでクズ達がタイプという者がいる事は否定しない。
とはいえ、ここにいるクズ達は万人受けする容姿ではないし、サラやアリスの好みとも全く違う。
先ほどからやって来るクズ達全員何故かその事に気づいていなかった。
いや、もしかしたら皆娼婦のお世辞を信じて自分はカッコいい、と信じてしまっていたのかもしれない。
それでもまだ実力があれば話は違ったかもしれないが、ここに集まったクズ達にそんなものはない。
そのクズは顔を真っ赤にして言い返そうとしたが、リオの姿を見てその口が半開きで止まり、あほ面で固まる。
それは彼だけではなかった。
他にも容姿に自信があった者達がいたが、アリスの指摘で今更ながらにリオの方がカッコいいと気づいたのだった。




