495話 クズコレクター能力発動! その2
そのパーティのリーダーらしき男がサラにキメ顔をして言った。
「おう!サラ!いや、リサヴィ!俺らに手を貸せ!」
「……は?」
サラが嫌そうな気持ちを顔にも声にも隠さずに尋ねるが、リーダーは全く気にする様子もなく続ける。
「俺らよ、ギルドの陰謀でな、単独でCランク以上の依頼を受けなきゃならねえんだ」
「は?陰謀?」
リーダーはここがギルド内であることを忘れているのか、あるいは職員に聞かせるためか、ギルドの文句を言い始めた。
長々と文句を言ったが、簡単にまとめるとCランク以上の依頼を単独で達成しないと降格させるぞ、と脅されたらしい。
サラは念の為確認する。
「あの、単独依頼の意味、わかっていますか?仮に、まずありえないですが、仮に私達があなた達と一緒に依頼を受けたら単独依頼じゃないですよ」
リーダーはため息をついた。
「おいおい、サラ。そんな当たり前のことを言うな。バカだと思われるぞ」
「……」
サラはリーダーをど突きたくなったがかろうじてその欲求を抑え込むのに成功した。
リーダーはそんなサラの気持ちに気づく事なく偉そうに説明を始める。
「依頼を受けるのは俺らだけだ。お前らリサヴィは依頼を受けずに俺らの後をついて来て万が一にもだが、俺らがピンチになったら手を貸してくれるだけでいい」
リーダーは言い終えると満足げな顔をした後で再びキメ顔をサラに向けた。
それに合わせてパーティメンバーもキメ顔を向ける。
彼らもリーダーと同意見で今の話になんの疑問も持っていないようであった。
クズ確定の瞬間であった。
「すごいな」
サラの耳にリオの呟きが聞こえた。
「私は無関係です!」
「ぐふ。見事だ」
「さ、流石サラさんですねっ」
ギルドにいた冒険者達も彼らの話に耳を傾けており、このパーティがクズだと確信したようだ。
「やっぱりクズコレクター能力はあったんだな」
なんて呟きが聞こえた。
今までの経緯を知らない彼ら、クズ達は冒険者達からのなんかムカつく視線に気づき怒鳴りつける。
「てめえら何見てんだ!あっ!お前らもリサヴィ狙いか!?だが残念だったな!俺らで決まりだ!」
「ぐふ。クズがか?」
「「「誰がクズだ!?」」」
クズ達がヴィヴィを睨みつける。
サラがため息をついて言った。
「なぜ私達がそんな事をしなくてはいけないのですか?」
「おいおい、お前ら最近新人教育したんだろ?そんなガキどもの面倒見る暇があるんだから俺らCランク!冒険者のピンチを助けろよ」
「「だな!」」
「Cランク冒険者は一人前です。人に頼るのはやめなさい」
「まあ、そう言ってやるなって。困ってる時はお互い様だろ」
クズリーダーは自分達の事なのにまるで他人事のように言ってサラを宥めようとする。
「ぐふ。お前達は私達が死神パーティと呼ばれているのを知らんのか?」
「そんなの当然知ってんぜ棺桶持ち。お前らが陰でクズを殺しまくってるってな!」
「「「「……」」」」
「だが、俺らには関係ない!何故なら俺らはクズじゃねえからだ!!」
「「だな!!」」
「「「「……」」」」
サラ達は悟った。
今までのクズ同様、彼らもまた自分達がクズであることに気づいていないのだと。
「それによ、俺らが依頼を受けんだぞ。真面目に依頼を受けてる俺らを殺すわけねえだろう」
「「だな!!」」
クズリーダーの言葉にメンバーが同意する。
どうやらリサヴィ派に狙われるのが、依頼を受けた冒険者達の後を依頼を受けずについて行く者達であることくらいは調べていたようだ。
サラはまたもため息をついてから言った。
「この話、何度もしているような気がしますが、まあいいでしょう。Cランクの依頼を単独で達成できないならそれがあなた方の実力。Dランク、いえ、Dランク以下ということです」
「「「ざけんな!」」」
「ぐふ、素直に降格して実力にあった依頼を受けろ」
「「「ざけんな!!」」」
ヴィヴィの正論にクズ達は怒りまくるのだった。
クズリーダーが喚きまくるメンバーを宥めた。
その姿だけ見るとクズリーダーは冷静だったように見えるが、もちろんそんな事はない。
ちょっと前まで一緒になって喚いており、彼らの中で最初に冷静になっただけである。
皆が落ち着いたのを確認したクズリーダーはリサヴィの協力を得るために彼らの心に訴える作戦を実行する。
根拠のない自信による上から目線の態度が消え、悲愴な顔をして話し始めた。
「確かにお前達から見れば俺達は弱い。クズと呼ばれても仕方ねえくらいの力しかないかもしれん。だがな!俺ら凡人の努力をそうやって見下すのがジュアスの神官のやり方か!?俺らは俺らなりに精一杯やってんだぞ!!」
クズリーダーの言葉は彼のメンバーの心だけに深く響いたようだ。
中には感動して涙を流している者もいた。
「精一杯の方向が間違っています」
「ぐふ。力ではなく、お前達の行動を見てクズと言っているぞ」
すかさずサラとヴィヴィが突っ込む。
クズリーダーは自分の感動的な言葉が何故かサラどころか誰の心にも響いていない事を疑問に思ったが、深く考える事なく次の作戦に移る。
クズリーダーが遠い目をする。
「実はよ、俺らリサヴィに入るのが子供の頃からの夢だったんだ」
そう言ったクズリーダーはへへっ、と照れくさそうに鼻の頭をかいた。
「「「「……」」」」
サラ達は彼らをマジマジと見た。
彼らの見た目は三十代後半くらいだ。
全員が老け顔とは考えにくいが、仮にそうだとしても二十代後半くらいだろう。
対してリサヴィは全員二十歳前後。
彼らが子供の頃はリサヴィ結成前である事は言うまでもなく、生まれてさえいない可能性もある。
そんな簡単なことにも気づかないようで他のメンバーもクズリーダーの話に乗って憧れた動機を言い始める。
彼らの戯言がひと段落してからヴィヴィが呆れた顔で言った。
と言っても顔は仮面で見えないが。
「ぐふ、お前達はいくつだ?」
「黙れお棺桶持ち!お前なんかに話してねえんだよ!」
クズリーダーはヴィヴィを怒鳴りつけた後、笑顔で、娼婦に絶賛された最高の笑顔でサラに言った。
「何もよ、俺らのパーティに入ってくれとかリサヴィに入れてくれと言ってんじゃねえんだ。ああ、もちろん、そう言ってくれんなら大歓迎だぜ!」
「せめて憧れのパーティと一緒に冒険させてくれよ」
「それくらいならいいだろ?な?」
他のメンバーも娼婦に絶賛された笑顔をサラに向ける。
しかし、何故かサラには全く効果がなかった。
サラは呆れ顔で言った。
「あなた達がいくつかは知りませんが、少なくともあなた方が子供の頃にリサヴィはありません」
「「「あ……」」」
サラの言葉にクズ達は揃ってあほ面を晒して固まった。
が、すぐにクズリーダーが再起動した。
「じゃ、じゃあこっちだ!」
「『じゃあこっちだ』ではありません」
クズリーダーが“こっち”の説明をする前にサラがバッサリと切り捨てるとクズリーダーは逆ギレした。
「ざけんな!俺達はなあ!お前らに会った時のためにこの作戦を考えてやったんだぞ!」
「頼んでません」
「迷惑ですっ」
「ぐふ、考えてこの程度か」
「「「ざけんな!!」」」
「考えてる間の宿代や飯代にどんだけ金かかったと思ってんだ!?ああ!?」
「ぐふ、そんな暇があるなら依頼を受けろクズども」
ヴィヴィの真っ当な意見は当然クズ達には通じない。
「「「ざけんな!!」」」
「どうしても断るってんならなっ、この作戦に要した費用を払ってもらうぞ!!」
「「だな!!」」
どこに出しても恥ずかしくない言い掛かりであった。
「ぐふ、もうそろそろいいか」
ヴィヴィがどこか楽しそうに言った。
「あん!?なんか言ったか棺桶持ちい!」
クズリーダーがヴィヴィに顔を近づけ、腕を振り上げて威嚇する。
クズリーダーはヴィヴィが魔装士なので思いっきり舐めていた。
ヴィヴィの二つ名を知らなかったのか、知ってて気にしなかったのか。
ともかく、その直後、クズリーダーの体が宙を舞った。
言うまでもなくヴィヴィがクズリーダーをリムーバルバインダーでぶっ飛ばしたのだ。
クズリーダーは器用にも威嚇したポーズを維持したままあほ面晒して気絶した。
クズリーダーがヴィヴィに一発KOされるのを見て残りのメンバーが怯える。
「調整出来た?あと“二つ”あるけど」
クズ達はリオの言った“二つ”が自分達の事だと察した。
モノ扱いされても激怒することなく、怯えた表情をリオに向ける。
冷笑する狂気、の二つ名のあるリオであるが、その時のリオは冷笑するどころか無表情であった。
それはそれで冷酷さを感じさせた。
「ぐふ。そうだな。“一つ”ではまだ足りないな」
ヴィヴィの言葉を聞いてクズ達は「ひっ」と小さな悲鳴をあげると、あほ面晒して気絶したクズリーダーを見捨ててギルドから逃げ出そうとしたが、それよりヴィヴィのリムーバルバインダーの方が早かった。
立て続けにクズが宙を舞う。
ばたんばたん、とクズ二人が床に落ちてあほ面晒して気絶した。
「ぐふ。まあまあだな」
ヴィヴィが満足そうに呟いた。
ヴィヴィの暴力はクズ達に絡まれた、精神攻撃に対する正当防衛と認められた。
クズリーダーはともかく、残り二人への攻撃は過剰な気もしたが、ギルド職員は特に何も言わなかった。
気絶したクズ達だが、ギルド地下の牢屋が空いていたのでそこで休ませることになり、ギルドの警備員に引きずられていった。




