494話 クズコレクター能力発動! その1
リサヴィはリッキー退治を行う村のそばにある街へやってきた。
もう日が暮れているので今夜はこの街で一泊して明日の朝に依頼先の村へ行くことにしていた。
「ギルドに寄ろう」
リオが突然そんな事を言い出した。
「更にリッキー退治を受ける気ですか?」
サラの嫌味は当然リオには効かぬ通じぬであった。
「そうだね」
「……」
ギルドに入ると冒険者達の視線を感じたが、声をかけてくる者はいなかった。
ヴィヴィはギルド内を見渡してからつぶやいた。
「ぐふ。クズがいないようだな。ついにクズ切れを起こしたか」
ヴィヴィの言う通りいつもなら根拠のない自信を身に纏ったクズがリサヴィの元に集まって来るのだがその気配すらなかった。
「残念ですかっ?」
「ぐふ、右側のリムーバルバインダーの調子が悪くてな。調整に使おうと思っていたのだ」
アリスの問いかけにヴィヴィが残念そうに呟く。
すかさずサラが突っ込む。
「クズを殴って調整するのはやめなさい」
「ぐふ。そうだな。ではサラ、ちょっとクズコレクター能力を発動してくれ」
「あなたは何がわかったのですか?そもそもそんな能力はありません」
「わ、わたしはっありませんよっ!わたしはっ」
「アリス、私にはあるような言い方はやめなさい」
「えへへっ」
依頼掲示板にはリッキー退治の依頼はなかった。
マルコで受けた依頼が本来この街にあるべき依頼なのだ。
仕事熱心?なモモがわざわざマルコに持って来たのである。
「では宿を探しましょう」
「……」
「リオ?」
リオがじっとして動かないのでどうしたのかと思っていると何の前触れもなく、突然右腕を上げて天井を指差した。
その行動にサラ達だけでなく、辺りにいた冒険者達が注目する。
リオはいつものように感情を込めず呟いた。
「クズコレクター能力発動」
「「「……」」」
辺りがしん、となる。
しばらく待ったが何も起きない。
サラが冷めた目をリオに向ける。
「……何やってるんです?」
「ん?」
「何不思議そうに首を傾げてるんですか。こっちが首を傾げたい気分です」
「そうなんだ」
「それで今のはなんですか?」
「前にやってたでしょ」
「私がやってたみたいに言うのはやめてください。私はそんなことをした事など一度もありません」
「ああ、劇だったね」
「あれは私ではありません」
「そうなんだ」
「それはもういいです。それでなんでそんなことしたんですか?」
サラの詰問口調にリオは怯える様子もなく平然と答えた。
「ヴィヴィがクズがいなくてリムーバルバインダーの調整が出来なくて困ってるみたいだったから」
「ぐふ?」
「ヴィヴィのためですか?」
「あと僕もこの能力が使えないかなと思って試してみたんだ。やっぱりダメだった。残念だ」
そう言ったリオの顔は全く残念そうに見えなかった。
リオは上げた腕をゆっくりと下ろした。
「ぐふ。『ヴィヴィはリオの優しい気持ちに心を打たれて感動の涙を流すのだった』」
「ほう。それは興味深いですね。あなたが涙を流すなんて。とても珍しいですから是非その仮面をとって見せてください」
「ぐふ。相変わらず無神経な奴だな」
「あなたにだけは言われたくありません!」
ヴィヴィがリオに顔を向ける。
「ぐふ。手間をかけさせたな。だが、お前にそこまでさせたのだ。私も応えよう」
「は?あなたはいったい……」
サラが話している最中にヴィヴィがリオと同じように右腕を上げて天井を指差してつぶやいた。
「クズコレクター能力発動」
「……あなたまで何バカなことやってるのですか」
今度もクズはやって来なかった。
「……ぐふ。やはり私もダメだったか」
サラはすごく嫌な予感がした。
そしてその予感は当たる。
リオとヴィヴィが「次はお前達の番だ」と言わんばかりにじっとサラとアリスを見た。
「私はそんなバカなことしませんよ」
サラの言葉はヴィヴィに届かなかった。
「ぐふ。やはり本人に頼むしかないようだ。頼んだぞ」
「そんな能力はありません」
「わ、わたしはありませんからねっ。サラさんはともかくっわたしはっ」
「おいこら!」
「ぐふ。それは今からはっきりすることだ」
「あなた、完全に面白がってるでしょう。リムーバルバインダーの調整は他の方法でしなさい、ていうか、人を殴って調整するっておかしいでしょうが!普通の方法でしなさい」
「ぐふ。そんなものはない」
「嘘つけ!」
「ぐふ。さっさとやれ」
「さっきからやらないと言ってるでしょう」
「じゃ、じゃあ先にわたしがやりますからっ。わたしの後っ、サラさんすぐに続いてくださいねっ。絶対ですよっ」
「私はやりません、て言ってるでしょ」
サラの言葉はアリスにも届かなかった。
アリスが小さな声でつぶやく。
「クズコレクター能力発動……、さっ、サラさんっ早く早くっ!」
「やらないと言ってるでしょう」
「ぐふ。仕方ないな。リオ、リーダーとして命令しろ」
「ちょ、何を……」
「サラ、やって」
「……」
「ぐふ。そこまで拒否すると言う事はクズコレクター能力がお前にあると証明することになるぞ」
「なんでそうなるのよ!?」
「「「……」」」
サラは三人の催促の視線を受け、一つため息をつくと面倒臭そうに、本当に面倒臭そうにつぶやいた。
「クズコレクター能力発……」
サラの言葉の途中でドアが開いた。
そしてゾロゾロと冒険者達が入ってきた。
「な……」
その冒険者達はサラ達の姿を見つけて「お、いたいた!」などと言いながらまっすぐに向かってきた。
(ま、まだ彼らがクズと決まったわけではないわ!)
しかし、サラは本当はわかっていた。
大して強そうに見えないのに彼らの顔に浮かぶ圧倒的な自信!
偉そうな態度!
あとなんか臭うクズ臭!
間違いなく彼らがクズ冒険者であると!




