493話 ナナルとヴェイグ
名前間違いとか、いろいろ酷かったので修正しました。
その日の夕方。
ヴェイグとイーダが待合室で待っていると今朝会った二級神官が迎えに来た。
「では、会談室へご案内しますがくれぐれも、失礼のないようにお願いしますねヴェイグさん」
「おい、なんで名指し……」
「はいっ、わかってます!あたいがしっかり見張ってるんで!」
「……」
二人は会談室に案内された。
用意された高級そうな茶と菓子をつまんでいるとナナルがやって来た。
「お待たせしました」
イーダが緊張した表情で椅子から立ち上る。
「と、とんでもないですっ……って、ヴェイグ!」
座ったままだったヴェイグをイーダが睨み、強引に立たせる。
「すみません、こいつ、礼儀を知らないんです!」
「おいおい」
「ヴェイグ!自己紹介!」
「おう、そうだな。俺はエルキッズの、じゃなかった。それはもう抜けたんだったな。ユダスの冒険者の戦士ヴェイグだ」
「あたいはイーダ。同じくユダスの冒険者で魔術士です」
「ナナルです。どうぞ座ってください」
ナナルが先に尋ねた。
「ユダスは相変わらず魔物は多いですか?」
「ああ。まあ、だから俺ら冒険者が生活できるとも言えるけどな」
「そうですか。それであなた方の用件は教会の事ですね」
「え?」
二人がナナルの勘違いを指摘する間もなくナナルは話を続ける。
「私も気にはなっていたのです。教会の建て替えを指示したものの、そのまま放置してしまっていたので」
「と、とんでもないです!ナナル様が神官まで手配してくれたお陰で冒険者の死亡もだいぶ減りました!」
「ああ。ほんと助かってるぜ。と言っても信者は増えてないけどな、って痛えなっ!」
肘打ちを喰らわして来たイーダをヴェイグが睨む。
「余計なこと言わなくていいのよ!すみませんナナル様!こいつ、ホント口が悪くて」
「気にしていませんよ。信仰は強要するものでもありませんから」
「そ、そう言ってもらえると助かります。あ、今の神官ですが孤児達が、って私達も孤児なんですけどその孤児院の孤児達が教会の神官になっています」
「そうですか。少しでもあの環境の改善になっているのであればよかったです」
「少しどころじゃないですよ!ホント大助かりです」
「ああ。信者は増えてないけどな……って、痛えな!」
「だから一言余計だって言ってんでしょ!」
ナナルが少し首を傾げる。
「そうするとあなた達が私に会いに来たのは教会のことではないのですね?」
「はいっ、教会は全然問題ないですっ!」
「そうですか。ではなんでしょうか?」
「単刀直入に聞くけどよ、ナナル様、リオンて知らないか?暁の傭兵団ってとこに所属していた傭兵なんだが」
「知っていますよ」
ヴェイグの問いにナナルはあっさりと答えた。
ヴェイグはあまり期待していなかったのでナナルの返事を聞いて身を乗り出した。
「何!?本当か!?今どこにいるんだあいつは!?」
ヴェイグの期待に満ちた表情にナナルの口から非情な言葉が告げられる。
「死んだのではないですか?確か暁の傭兵団はカルハンでの魔物討伐で全滅したと聞きましたが」
ヴェイグの喜びは一気に消え、死という言葉に思いっきり反発する。
「それは知ってる!だが、リオンが死ぬわけねぇ!」
「そうですか」
「え……」
ヴェイグはナナルが自分の言葉を否定しなかったのでちょっと戸惑った。
ナナルの顔をじっと見る。
子供の頃に一度遠くから見た程度で今回が初対面といっていい。
表情を見る限りでは嘘をついているようには見えなかったが何かを隠している、そう思えた。
追求しようとしたところでイーダが口を開いた。
「ナナル様、リオンの知り合いでしたら“耳長お姉さん”って名に心当たりありませんか?」
「耳長お姉さん、ですか?」
「はい」
「聞いた事ありませんがそれがどうかしたのですか?」
「あたいの魔術学校の授業料をリオンが払ってくれてたんだけど、暁の傭兵団が全滅したあとから払ってる人の名前が変わってて、その人が“耳長お姉さん”って名乗っていたんです」
「そうですか。ちなみにリオンはリオンと名乗っていたのですか?」
「いえ。アレな……!!」
イーダは途中まで口にしてからナナルに話すのが恥ずかしくなり、顔を赤くしながらヴェイグを見た。
「ヴェイグ、お願い」
「なんで俺に振るんだ?自分で言えばいいだろ」
イーダは更に顔を赤くしてヴェイグを睨む。
「ったく。ナナル様の前だからって恥ずかしいってか、いつも平気で嬉しそうに口に出して言ってただろ」
「なっ!そんなことないわよ!あと嬉しそうでって誤解を生みそうだからやめてよね!」
「いや、誤解じゃ……」
「うるさい!いいからさっさと言いなさいよ!」
「へいへい。ナナル様、“アレでかお兄さん”だ。リオンはそう名乗っていたらしい」
「そうですか」
ナナルはその名を聞いても笑うことも恥ずかしがることもなく、少し考えてから言った。
「どちらも聞いた事はありませんね」
「そ、そうですか……」
「ただ、その耳長お姉さんがエルフで、私とリオンの共通の知り合いだというのであれば一人しか思い浮かびません」
「それって……」
「Sランク冒険者の魔法戦士ファーフィリアです」
イーダはその名を聞き、ガッカリしながらもナナルに確認する。
「そのファーフィリア、様ってナナル様と同じ六英雄の一人であの戦いで死んでいるんですよね?」
「ああ、彼女も死んでいるんでしたね」
「え?」
「……」
ヴェイグとイーダはナナルがファーフィリアの死を他人事のように言ったのが心に引っかかった。
一緒に魔族と戦った仲間なのにどこか冷めていた。
少なくとも悲しんでいるようには見えない。
ナナルとファーフォリアは仲が悪かったのかもしれないが、もう一つ考えられる可能性があった。
「なあナナル様、本当はリオンのこと何か知ってんじゃないのか?リオンは、いや、ファーフィリアもだが実は生きてるんじゃないのか?理由があって死んだことにしてんじゃないのか?」
「理由とは?」
ナナルが不思議な笑みを浮かべた。
その笑みを見てヴェイグはからかわれているように思えて怒りを覚えたが、イーダは何か得体の知れない恐怖を覚えた。
「おいナナル様よ!俺は真剣に聞いてるんだぞ!」
「ちょ、ちょっとヴェイグ!落ち着きなよ!すみませんナナル様!」
「構いませんよ。それで理由とはどんなものが考えられますか?ヴェイグ」
「!!」
ヴェイグはナナルに名を呼ばれ、一気に怒りが冷めた。
イーダと同じくナナルに何か得体の知れないものを感じた。
「さあ、答えなさいヴェイグ。イーダでもいいですよ」
抵抗しがたいプレッシャーをナナルから感じ、ヴェイグは嫌な汗を流しながら必死に考える。
(リオンとナナルは知り合いだ。そしてファーフィリアも。どうやってリオンはこの二人と出会ったんだ?六英雄の二人と……六英雄?……確か六英雄の一人に流れの傭兵がいたな。確かナナシって……!!)
「おや?ヴェイグ、何かわかりましたか?」
「……ああ」
「では話してください」
「六英雄の一人、流れの傭兵ナナシがリオンじゃないのか?ナナシってのは名前じゃなくて名を知られたくなくて名無しにしたんだ。……違うか?」
ナナルは不思議な笑みを浮かべたままパチパチパチと手を叩いた。
「正解です」
「え!?うそっ!?リオンが六英雄だったの!?……あ」
イーダが思わず大声を出した後で手を口を塞ぐ。
「リオンは自分の名が広まるのを嫌っていましたので公表しなかったのです。あなた方は知り合いだから教えたのです。くれぐれも口外しないように」
「そんな事よりリオンは!?生きてるんだよな!?」
「いえ」
ナナルの口からヴェイグの期待した答えは返ってこなかった。
「ふ、ふざ……」
「ですがファーフィリアは生きています」
「「!!」」
「その耳長お姉さんがファーフォリアかどうかは本人に直接聞いたらいいでしょう。ああ、あとリオンの事も」
「……わかった。それでファーフィリアはどこにいるんだ?」
「わかりません」
「おい!?」
「そんなっ!?」
ナナルは睨みつけるヴェイグを恐れることなく、平然とした表情で続ける。
「当てがないのならリサヴィに会ってみてはどうですか」
「なに?」
「リサヴィって、ナナル様の弟子のサラがいるパーティですよね?」
「ええ。最近来た手紙によるとレリティア王国のマルコにいるみたいですね」
「まさかあんたの弟子が居場所を知ってるとか言わないよな?」
「言いません。ただ……」
「ただなんだ?」
「サラ達はエルフに会った事があるそうです。そして探しているみたいです」
「そのエルフはファーフィリアじゃないんだろ?」
ナナルは頷く。
「しかし、本人ではなくても同じ種族ですから彼女のことを何か知っているかも知れません」
「……そうだな。元々リオには会ってみようと思っていたからな」
「そうですか」
その言葉を聞いてナナルがさっきまでとは異なる優しい笑みを浮かべた。




