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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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492話 ムルトのヴェイグ

 ヴェイグとイーダを乗せた輸送隊が終着地であるムルトに到着した。

 結局、ヴェイグとイーダは護衛を最後までしてしまった。


「ささっ、行こうヴェイグ!」


 イーダに引っ張られてヴェイグは駅を離れる。

 ヴェイグが後ろを振り返ると残念そうな顔をしたジュアス教徒の女性が立っていた。

 それは臭護衛に絡まれていた女性である。

 あの一件以来、イーダは彼女とよく話すようになった。

 と、いうか彼女にジュアス教への入信を熱心に勧められて困っていたのだった。



 その女性の姿が見えなくなってイーダはほっと息をつく。


「せっかく出来た友達に素っ気ないな」


 ヴェイグが笑いながら言った。


「あのねえ」


 イーダが少しムッとした表情でヴェイグを睨む。


「……まあ、悪い人じゃなかったけどね」



 ヴェイグはムルトの街に近づくに連れて聞こえて来ていた聖歌が今もずっと聞こえて来ているのに顔をしかめる。


「噂には聞いてたが、街中ずっと聖歌が流れているっていうのは本当だったんだな」

「そうね。夜中も聞こえるんでしょ?この街の人達よく眠れるわね」

「確かにな。一日二日なら何とかなるが、それ以上だと気が狂うかもな」

「あたいも」

「とはいえ、疲れた。とりあえず今日は宿で休んで明日にでもナナルに会いにいくか」

「そうしよ。あ、宿は聖歌があんま聞こえないってところにしようね。そっちの方が安いらしいし」

「そうだな」



 翌朝、ヴェイグとイーダは朝食を済ました後で第二神殿へ向かった。

 不思議なことに昨日、あれほど気になっていた聖歌が今はなんともなかった。


「昨日の発言撤回。あたい、ここで生活できるかも」

「そうだな……だが、なんか変な感じだ」



 神殿には既に多くの信者が来ていたが、冒険者の姿も多く見かけた。


「やっぱりあの冒険者達は神官を勧誘に来たのかしら?」

「それ以外ないだろ」

「あたいらも神官仲間にする?」

「そうだな。あのクズクサ野郎達と出会って神聖魔法“リフレッシュ”の偉大さを知ったからな」


 その時の悪臭まで思い出してヴェイグが顔をしかめる。

 ちなみに輸送隊の隊長はあのクズ護衛の悪臭事件以来、街を出発する前に教会に寄り、乗客、護衛達に無償でリフレッシュをかけるサービスを行っていた。

 このサービスは乗客に好評で隊長と世間話をしている時に今後サービスに取り入れると話していた。

 もちろん、その時は無償ではなく、予め運賃に上乗せするとの事だ。


 ヴェイグが神官を必要とする理由が回復魔法ではなく、リフレッシュだと聞き、イーダは呆れ顔で言った。


「え?そっち?」

「何言ってんだ。お前は危うく死にそうになっただろうが」

「あははは、まあ、そうだけどさ」

「回復魔法なら神官に頼らなくてもお前も使えるだろ」

「あたいのは詠唱する分時間がかかるし、回復力も神官の魔法の方が上だよ」

「じゃあ、怪我しなけりゃいい」

「なに、そのいい加減な対策」

「まあ、必要になったらユダスから連れてくればいいだろう。気心知れてるしよ」


 ユダスの教会に務めている神官はヴェイグと同じ孤児院出の者がほとんどで子供の頃からの知り合いだ。


「そうね。その時にはウッドに連絡しましょう」

「ああ」


 ウッドとは定期的に連絡をとっており、グルタはまだEランク昇格試験に合格していないとの事だった。


「よし、まずはナナルだ」

「ええ」



 神殿は広く、色々な建物があり、どこにナナルがいるのかわからない。

 ヴェイグは近くを通りかかった神官を呼び止めた。


「なあ、あんた、ナナルに会いたいんだがどこへ行けば会えるんだ?」


 声をかけられた神官はナナルを呼び捨てにするヴェイグをムッとした表情で見ながら答えた。


「ナナル様と面会の予約をしているのですか?」

「いや、してない」

「なら諦めなさい。ナナル様はお忙しいのです」

「そこを何とかならないか?俺達ははるばるユダスからやって来たんだ」

「そう言われましてもね。ナナル様は知り合いからの紹介でもない限りお会いにならないでしょう」

「そこをなんとか頼むぜ」

「どうしてもと言うのでしたらほら、あそこの建物で面会の申し込みができますよ。まあ、無理とは思いますが」


 神官が指差した建物にヴェイグとイーダが目を向ける。


「場所はわかった。だがよ、あんたの力でどうにかすぐに面会できるようにならないか?」

「無茶言わないでください!私は二級神官に上がったばかりでナナル様とは数回言葉を交わした程度ですよ!」


 ヴェイグが二級神官に“絡んで”いるとき、他の神官達とは明らかに異なる服装をした、上級神官と思われる女性が歩いているのにイーダが気づいた。


「……あ!ヴェイグ!あの人じゃない!?」

「なに?」


 ヴェイグはイーダが示した方向に顔を向ける。


「確かにそれっぽいが……」


 二級神官もそちらに顔を向けて驚いた表情で呟いた。


「……本当にナナル様だ。こんなところに出て来られるなんて珍しい」


 その呟きを聞いたヴェイグは今がチャンスだと大声を上げる。


「おーい!ナナルーっ!!」

「あっ、バカ!呼び捨てしない!」


 イーダが慌ててヴェイグを注意する。


「おお、そうだった。ナナルさ……ま?」


 ヴェイグは言葉の途中でナナルと目が合った。

 その様子をそばで見ていた二級神官がヴェイグを怒鳴りつける。


「ナ、ナナル様になんて失礼な事をしているのですか!!」


 その二級神官は顔を真っ青してナナルの元へ走って向かい、綺麗に腰から直角に曲げて謝罪する。

 ヴェイグの叫でナナルに気づいた冒険者達が自分達のパーティへ誘おうとナナルの元へ殺到する。

 ナナルはその神官と何事か話して足早にその場を離れた。

 その後を多数の冒険者達が追いかけるが、あちこちから神官や神官見習いが駆けつけて彼らを遠ざけた。

 その隙にナナルは神殿関係者以外立ち入り禁止の建物の中に消えた。



 イーダが騒ぎを引き起こすキッカケを作った者を睨む。


「ヴェイグ」

「いやあ、悪い悪い。あそこまで人気とはな」

「当たり前でしょ!ナナル様の弟子の鉄拳制裁のサラだって人気なのよ!」

「本当です。言動には気をつけていただかないと」


 そう言って会話に加わって来たのは先ほどの二級神官だった。


「ああ、あんたも悪かったな。でも見事な謝罪だったぜ」


 その言葉からヴェイグは全く反省していないことがわかる。


「ヴェイグ!」


 イーダはヴェイグを怒鳴りつけてその二級神官に謝ろうとしたが、その神官は怒っていなかった。

 それどころかにこやかな顔をしていた。


(まさかマゾ?)


 イーダがそう思っているとは知らずに神官は呟く。


「ナナル様と言葉を交わしてしまった。それにお役目まで頂いて……」

「そ、そう、それはよかったわ。じゃあ、あたいらはこれで。ヴェイグ行くわよ」

「ああ」


 ヴェイグとイーダが面会の申し込みに向かおうとするがそれをその神官が止めた。


「待って下さい」

「いや、あたいらは急いでい……」

「ナナル様があなた達にお会いになるそうです」

「るので……え?」

「マジか!?」

「はい。先ほどナナル様に事情を説明したところ、夕方に少し時間が出来るそうなのでその時であればお会いになるとおっしゃっていました」

「やったね、ヴェイグ!」

「おう!」


 そう言ってヴェイグが二級神官の肩を叩く。


「何だよ謙遜しやがって!お前、結構信頼されてんじゃないか!」

「そ、そんな事はないですよ」

 

 そう言った二級神官だが、その顔は満更でもなかった。



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