表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
490/870

490話 クズVSメイデスの使徒

 彼らメイデス神の使徒の目的は寄生生物スクウェイト・ベータを使って自分達の意のままに動く殺人兵器を作り出すことであった。

 スクウェイト・ベータにはマスターと思わせる匂いを覚え込ませており、その匂いを放つ者の命令に従う。

 間違ってもマスターを攻撃したりしない。

 彼らはスクウェイト・ベータを無理矢理にでも飲ませて殺人兵器を作り出そうとしたが、上手くいかなかった。

 マスターと思わせる匂いを放っていても命令を聞かずに攻撃してくることがあったのだ。

 それはスクウェイト・ベータが寄生した相手に成り切るという特性が大きく関係している。

 スクウェイト・ベータは本人に寄生したことを気づかれないようにゆっくりと心身を侵食していき、やがて完全に融合してすべてを奪う。

 その際、その者の記憶や感情を引き継ぐ事で自身が寄生生物だという自覚がなくなる。

 これが問題であった。

 無理矢理寄生させた時の感情、憎しみの強さが先の匂いによるコントロールを上回ると敵と認識して攻撃してくるのだ。

 そのため、無理矢理寄生生物入りポーションを飲ますという手段は安易にとれなくなった。

 自分の意思で飲むことが必要なのである。

 とはいえ、こんなものを喜んで飲むものなどいないので騙して飲ませることになる。

 相手に騙したことが気づかれなければいいのだ。

 しかし、騙して飲ますにしても解決すべき問題があった。

 ポーションの色である。

 「勇者になるポーションだ」と言ってもどす黒い、見るからに怪しいそれを飲もうとするものはいなかった。

 大して疑いもせず飲んだカリスが稀有な存在だったのだ。

 そこで改良を加えたのが今、彼が持つものである。

 見た目は透き通った緑色で味は色に合わせてマスカット味である。

 正直言って彼らが本気を出せばこのクズパーティを全滅させるのは容易い。

 しかし、雑魚とはいえ、せっかく向こうからモルモットになりたいとやって来たのだ。

 彼らは寄生相手を探すのに疲れていたこともあり、見るからに頭の弱そうなクズに寄生させることにしたのだ。

 あくまでも一時凌ぎで、後でもっと強い冒険者と戦わせてその冒険者に寄生させるつもりであった。



「……なんだと?勇者になる薬、だと?」

「そうだ」

「はっ、嘘臭え!」

「俺もそう思う」

「じゃあ、お前、飲んでみろよ」

「断る」

「はっ、やっぱ嘘かよ!」


 使徒の一人が首を横に振る。


「さっき俺は『勇者になる』と言ったが誰でも勇者になれるわけじゃない。選ばれた者だけだ。俺は自分が勇者になれるなんて思っていない」


 もう一人の使徒も同意する。


「俺もだ。それにこれは一本しかないんだぞ。お前達なら俺らより強そうだし勇者になれる可能性も高いだろう。でなければ降参する前に飲んでるぜ」

「まあ、確かにな」


 自分達の方が強いと言われ満更でもない顔をするクズリーダー、そしてメンバー。

 しかし、クズリーダーは自ら試す気はなく、しばし考えてあの臭クズ戦士を見た。


「お前、飲んでみろ」

「ええ!?俺!?」

「俺らはお前のせいで冒険者をクビになったんだぞ」

「そんなリーダー!」


 臭クズ戦士に同情する者はおらず、他のメンバーもリーダーに賛成する。


「お前は俺らを路頭に迷わせた責任を取る必要があるんだ!」

「本当に勇者になったらモテモテだぜ!」


 臭クズ戦士はモテモテという言葉に反応した。

 嫌々前に出るとその勇者になるという薬をマジマジと見た。

 見た目だけでいえば美味そうに見える。


「どんな味がすんだ?」

「マスカット、という話だ」


 使徒は臭クズ戦士の臭いのキツさに顔を歪めながら答えた。


「それ、ただのジュースじゃないのか?」

「俺にはなんとも。これ一本しか持っていないしな」


 臭クズ戦士は貴重品だと暗に言われて無性に欲しくなりその瓶を受けとった。

 しかし、なかなか飲もうとしない。

 クズリーダーは勇者になる薬、という話を信じていなかった。

 万が一、毒だったとしても死ぬのは臭クズ戦士なのでどうでもよかった。

 いや、毒の方が自分の気が晴れるだろうと考えていた。


「ほれ、さっさと飲め!」


 クズリーダーを始め、メンバーの催促(脅し)に臭クズ戦士は覚悟を決める。


「わ、わかったぜ」


 臭クズ戦士は一気に飲み干した。

 その後、満足げな笑みを浮かべる。


「おお!確かにマスカットだ!なかなか美味いじゃないか!」

「味なんかどうてもいいんだ!どうだ?力は湧いてくるか?」


 臭クズ戦士は体を確かめながらニヤリ、と笑った。


「ああ、なんか力が湧いてくるぞリーダー!俺は勇者になれるぞ!俺は選ばれしものだったんだ!」


 だが、その顔はすぐに苦痛に歪んだ顔に変わる。


「ぐ、ぐああああ!!」


 臭クズ戦士が絶叫し、喉を掻きむしる。


「おい!lてめえ!やっぱ毒だったんじゃねえのか!?」

「そんなバカな……」

「こんだけ苦しがってんだぞ!解毒剤はねえのか!?」

「こんな反応は初めて……って、くさっ!」


 臭クズ戦士は臭気を撒き散らしていた。

 それも尋常ではない、いや、今までも尋常ではなかったがそれを更に上回る臭さであった。

 メイデスの使徒達は身の危険を感じた。

 

(なんだこいつは!?この臭さは尋常じゃないぞ!生きてる人間が発する臭さか!?ともかく!この場にいてはまずい!)


 使徒達はその場を離れようとしたが、足がふらつき思うように進む事ができない。

 それは使徒達だけではなかった。

 臭クズ戦士の仲間がパタパタと倒れていく。

 そして使徒達も安全圏へ逃げる事ができず、ぱたん、とその場に倒れた。

 たった一人残った臭クズ戦士の体が変態していく。

 スクウェイト・ベータが第二形態へと進化し始めたのだ。

 が、進化は途中で止まり、臭クズ戦士もぱたん、とその場に倒れた。

 スクウェイト・ベータは自らが発する臭さに耐えきれず自ら命を絶ったのだ。

 もし、このまま第二形態に進化していれば殺人臭気を撒き散らす恐ろしい超生物が誕生していた事であろう。



 メイデスの使徒達は自らの失策により、誰にも知られることなくこの世を去った。

 とても情けない最期であった。

 こうして臭クズ戦士の活躍?でメイデス神の使徒の野望がひとつ潰えたのだ。

 だが、その事を知るものは本人も含めて誰もいない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ