49話 コスモシオンの魔導書 その2
「それでヴィヴィ、どうだ?」
「ぐふ。興味深いな」
「と言うと?」
「ぐふ。この魔導書は暗号で書かれているようだな」
「お前もそう思うか?」
「ぐふ。暗号を解けば何か出てくるとは思うが、暗号の解き方がわからない」
「そうですね。序文が怪しいとは思うんですが私の知識ではさっぱりです」
「ぐふ。そうだな。私もこの序文が怪しいと思う、特にこれだ」
「どれどれっ」
三人の議論は白熱した。
その様子をカリスが面白くなさそうな顔でじっと見ていた。
いや、我慢できなくなり、立ち上がったり座ったりを繰り返す。
「鬱陶しいねっ」
我慢できず、ローズが吐き捨てる。
ちなみにリオは一人素振りをしていた。
一通り議論を終えて、
「いやあ、二人に見せてよかったぜ。少し進展した気がする」
「私はあまりお役に立てませんでしたが」
「いやいや、俺とは違う方向からの考えは刺激になったぜ」
「ぐふ。確かにな」
「だが、ヴィヴィ、お前魔術の知識すごいな!やっぱ魔法使えるんじゃないか?」
「ぐふ。私は魔装士だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ま、そういうことにしとくぜ」
ナックは深く追求せず、話を変える。
「ところでコスモシオンの魔導書の著者誰か知ってるか?」
「え?それは不明なのでは?」
「まあ、そうなんだが、あのサイファ・ヘイダインだという説があるの知ってるか?」
「サイファ・ヘイダイン……」
「サラちゃん、顔顔!せっかくの美人がそんな顔しちゃダメだ。まあ、俺はそんな顔もOKだがな」
ナックの指摘でサラは無意識に表情が厳しくなっていたと気づく。
サイファ・ヘイダインは暗黒時代に勇者ディオンと共に魔王と戦った英雄の一人である。
彼が生み出した数々の魔道具は非常に強力で魔王を始め魔族を撃退するのに大きく貢献した。
その魔道具は今でも抜きん出た性能を持っており、未だその魔道具を超える物を作ることが出来ないでいる。
その理由のひとつとして、サイファ・ヘイダインは秘密主義で自分が作った魔道具の製法を記録に残さなかったことが挙げられる。
なお、彼が作った魔道具には番号が振られており、ナンバーズとも呼ばれる。
ナンバーズはコレクションとしても人気が高く、コレクター達の中で非常に高額で取引されている。
一つでも手に入れることができれば一生遊んで暮らせるほどの大金を手にすると言われるほどだ。
サイファ・ヘイダインは魔道具開発者達の憧れであったが、冒険者からの評判は非常に悪い。
魔王討伐後、つまり解放暦へと時代が移ると彼は自ら作り出したナンバーズを各地の迷宮に隠したとされる。
当然、そこには魔物や数々のトラップが仕掛けられており、ナンバーズを探し求めてやって来た冒険者達の命を数多く奪った。
そのため、冒険者達にサイファ・ヘイダインは嫌われているのだった。
「確かに彼は魔術士としても優秀だったらしいですが、魔道具の製法を残さなかったくらいです。魔導書を残すとはとても思えませんが」
「まあ、そういう説があるって事だ。俺はサイファが作ったって説を信じてる。理由はない。カンだ」
「そうですか」
魔導書の議論は終わり、また何か進展があれば話し合うことにした。
「話は終わったんだな!」
カリスが満面の笑みでサラのもとへやって来る。
サラは内心深いため息をついた。
次の日。
休憩時にサラはナックが読書しているのを見かけた。
「また読んでるんですか?」
サラが上から覗き込む。
「あ、」
エロ本だった。
即、サラの鉄拳がナックを吹き飛ばす。
「ちょ、ちょっと問答無用かよ!サラちゃん!」
「大丈夫です」
「どこがだよ!?痛えよ!全然大丈夫じゃないぞ!」
「峰打ちです」
「拳に峰打ちないだろ!」
「……気のせいです」
「そんなわけないだろ!もうこれは体で……」
「なんです?」
サラが拳をナックの前に出す。
「なんでもないです」
ナックはゆっくり立ち上がる。
「おー、痛えー。サラちゃんさあ、やっぱり“鉄拳制裁のサラ“だよね?」
「違います」
「なんで隠そうとするかなぁ」
サラはナックの問いには答えず彼に念を押す。
「その本、間違ってもリオに見せないでくださいね?」
「検討する」
サラがスッと拳を上げる。
「はいっ絶対見せませんっ!」
「お願いしますね」
サラはにっこり笑って去っていった。
「先輩を脅すって酷くないか?」
ナックはぼそりと呟いた。




