487話 クズコレクター能力の真実?
「しかし、凄まじい能力ですね。クズコレクター能力と言うのは!」
「は?」
イスティはサラの冷めた目を受けてもそれに気づかず興奮しながら喋り続ける。
「あのマルコにいたクズといい、先ほどのクズといい、あれほどのクズを私は今まで見たことがありませんでした」
「そんな能力ありません」
「またまた。あれは神聖魔法ですか?特にそれらしい行動をしているようには見えませんでしたが?」
「ですからそんな能力はありません」
「でも皆さんと出会ってから次々と現れましたよね?すごいクズ」
「偶然です」
「謙遜しなくていいですよ」
「そんなものしてません」
「さ、流石サラさんですねっ」
アリスは自分は無関係ですよ、とばかりにサラを褒め讃える。
「おいこら」
サラがアリスを睨むとアリスはすすす、とリオの後ろに隠れる。
そんな二人のやり取りを見ながらイスティは続ける。
「先日だってクズがやらかしたカシウスのダンジョンの後始末に向かった時にもすごいクズを呼び寄せたんですよね?」
「呼び寄せていません。あそこにもとからいたのです」
サラは必死に否定するが、イスティの考えを変えることはできなかった。
「そして呼び寄せられた彼らは自滅する。先程のクズパーティのように!」
「ぐふ。一人取り逃したがな。な、サラ」
「人聞きの悪い事言うな!」
「リサヴィの皆さんが呼び寄せたクズを陰で殺している、っていう噂がありましたが今回ご一緒して確信しました。皆さんは殺していません。皆さんが以前から主張していたように彼らが勝手に死んでいくのだと確信しました!かっこつけようと!大した事ない力を誇示しようと!無駄に出しゃばって死んでいく!」
「それをわかってくれたことは嬉しいですが、そもそもクズコレクター能力などというものは存在しな……」
サラの言葉にイスティが割り込む。
「正直に言います。実は私は噂を半分信じていました。もちろん、直接手をかけたと考えていませんでした。言い訳出来るようにクズスキルでいうところの“三途の川渡し”をしていると考えていたのです。リオさんがそのクズスキルを使える、という噂を耳にしていましたので。でも、今回でその疑いは消えました。その事を謝罪します」
そう言ってイスティが頭を下げる。
「謝罪するならクズコレクター能力の事もです」
サラの言葉にイスティが首を傾げる。
「サラさん、それはできません」
「何故ですか?」
「何故も何もこれだけ状況証拠が揃っているのですよ。さっきも言いましたがあれほどのクズを私は今まで見た事がありませんでした。それが皆さんのそばにいると続々と集まってくる。これをクズコレクター能力と言わずなんと言うのですか?」
「皆さんではなくっ、サラさんですっ」とアリスがリオの後ろに隠れながら自分は無関係だと主張する。
「ぐ、偶然です!」
サラの言葉はイスティに届かない。。
イスティがダンジョンの中である事を忘れて叫ぶ。
「皆さんのお陰で創作意欲が沸きました!がんがんアイデアが湧き上がって来ます!次回作はこのクズコレクター能力を前面に押し立てて鉄拳制裁を超える名作を作ってみますよ!」
「やめてください!」
「その力はサラさんだけですからねっ!サラさんだけですからっ!サラさんをよろしくっ!」
「おいこら!」
「いやあ、しかし、クズコレクター能力の真の力は呼び寄せた先にあったんですね!呼び寄せられたクズ達は自ら自滅への道を進んでいく!これで合ってますかサラさ……ぐへ!?」
サラの鉄拳を顎に受け、イスティの体が宙を舞う。
くるくるくる、と三回転してからぼてっ、と落ちてあほ面晒して気絶した。
気絶したイスティにサラが吐き捨てる。
「そんな能力はない、と言ってるでしょう」
「ぐふ、自ら鉄拳制裁を食らうか。その演劇に対する一途さにサラは深く感動し、今までの事を水に流すのだった」
「流すか!」
イスティが目を覚ますとサラが笑顔を向けて来た。
「いきなり寝るからびっくりしましたよ」
イスティの記憶は途中で飛んでおり、何故寝ていたのかわからないが、身の危険を感じた。
「さて、先程の続きをしましょうか」
「つ、続き、ですか?」
「あなたの次回作について、です」
「は、ははは。そうですか。し、しかし、ここは危険なダンジョンですので続きはダンジョンを出てからにしませんか?」
「それもそうですね」
「で、ではマルコに戻りましょう!宝箱を配置している犯人もわかった事ですし!」
サラが笑顔で小さく首を横に振った。
「サ、サラさん?」
「もう少し調べましょう。まだあの小型ゴーレムが置いていった宝物が残ってるかもしれません。即死トラップが多いですからそのままにして置くのは危険です」
イスティはサラの言う事が最もだと思う一方で別に目的があるのでは?と邪推してしまう。
「あの、もしかして……私がトラップ解除に失敗して死ぬのを期待してませんか?」
「そんなことあるわけないでしょう。生きていれば治療します」
「生きていれば、ですか」
「死者を蘇らせることは出来ません」
「即死トラップが多いので一度失敗したら終わりの可能性が高いですが」
「望むところです」
「……あの、その言葉が私が言うべき言葉では?」
「気のせいです」
「……」
イスティは今まで一番必死に盗賊としての役割を果たした。
せっかく浮かんだアイデアを、名作を作り上げる前に死ぬわけにはいかないからだ。
ダンジョンを出てほっと、安堵の息を漏らしたイスティの背後で「ちっ」とどこかの女神官の舌打ちが聞こえたような気がしたが気のせいにした。




