485話 宝箱を再配置するモノ
「「リーダー!!」」
突然の事で呆気に取られていたクズ二人はヴィヴィの呟きで我に返り慌ててクズリーダーに駆け寄る。
クズ盗賊が振り返って叫んだ。
「おい!サラ!アリエッタ!どっちでもいい!さっさとリーダーを助けろ!!」
「「……」」
矢はクズリーダーの脳に突き刺さっているはずだ。
しかも鏃に猛毒が塗られていたのだろう、そのあほ面はどす黒く変色していた。
どう見ても死んでいるとしか思えないのだがサラは念の為にクズリーダーの容体を確認する。
やはり死んでいた。
サラとアリスがいくら優れた神官でも流石に死んだ者を生き返らせる事はできない。
ちなみにクズリーダーが死を賭して開けた宝箱の中身だが紙切れが一枚入っているだけでこう書かれていた。
ハズレ、
と。
クズ盗賊が怒りを露わにリサヴィにくってかかる。
「どうしてくれんだ!?お前らが見つけた宝箱のせいでリーダーが死んだんだぞ!」
「「「「……」」」」
どこに出しても恥ずかしくないほど見事な責任転嫁であった。
クズ戦士も負けてはいない。
クズ盗賊に遅れをとるものかとリサヴィに言い掛かりをつける。
「リーダーを失った俺らのパーティは終わりだ!責任をとってもらうぞ!」
「だな!」
クズ戦士がニヤリと笑った。
今、リーダーを失ったばかりとは思えない見事な、曇り一つない笑みだ。
「よしっ、俺らをリサヴィに入れろ!文句は言わせ……」
「ぐふ「「寝言は寝て言え!」」」
サラ、ヴィヴィ、アリスの叫びにクズ二人は驚いて言葉を失ったものの、すぐさま言い返した。
「「ざけんな!」」
ヴィヴィは呆れた顔で(と言っても顔は仮面で見えないが)言った。
「ぐふ。勝手に跡をついて来て、私達が見つけた宝箱を勝手に開けて死んだクズの事など知るか」
「「ざけんな!!」」
「そもそもトラップ解除に失敗したのはあなた達です」
「俺は関係ねえ!」
すぐさまクズ戦士はそう叫ぶとクズ盗賊に目を向ける。
同じパーティとはいえクズの仲間意識は薄い。
いつでも裏切る準備はできているのである!
皆の視線(クズ戦士含む)を受けてクズ盗賊が必死に言い訳を始める。
「ざ、ざけんな!俺はトラップをちゃんと解除した!」
「何を言ってるのですか。実際、あなた達のリーダーはトラップに引っかかって死んだではないですか」
「もう一つ仕掛けられてたんだ!」
「ダブルトラップですね」
今まで沈黙を保っていた、と言うか手帳に何かを記入するのに夢中で参加しなかったと言う方が適切だろう、イスティが口を開いた。
「ダブルトラップ?」
「はい。簡単な罠を解除させて安心したところで本命のトラップが襲うのです」
「そうなんだ」
「このトラップには初心者や冒険に慣れて調子に乗ったうっかり者がよく引っかかって命を落としますね」
「ぐふ。なるほど。納得だ」
「ざ、ざけんな!」
クズ盗賊は初心者やうっかり者扱いされて激怒し、顔を真っ赤にして叫んだが誰も聞いていなかった。
「では先を進みましょう」
サラの言葉でリオを先頭にその場を後にする。
それを見てクズ二人が慌て出す。
「ちょ、ちょ待てよ!俺らをリサヴィに入れるよな!?」
「当然入れるよな!?」
しかし、誰もその問いには答えなかった。
焦った彼らはお互いの顔を見合わせて頷くとリサヴィの後を追った。
クズは信頼関係が薄い分、裏切られた相手ともすぐに協力関係を結べるのだ。
あ、もちろん、クズリーダーから金目のものを回収済みである事は言うまでもない。
リサヴィが部屋にいた魔物を一掃した。
部屋の奥に宝箱があった。
地図に記載されていた部屋なのでこの宝箱も何者かによって再配置されたものであろう。
「では私……」
宝箱に近づくイスティをクズ盗賊が後ろから突き飛ばした。
「ててっ。またですか……」
イスティの文句を無視して宝箱に一番に近づいたクズ盗賊がサラに宣言する。
「今度こそ俺の腕がホンモンだって証明してやる!見てろよサラ!あとついでにアリエッタ!」
クズ盗賊がそう言ってキメ顔をした後で宝箱のトラップの有無を調べ始める。
その時だった。
突然、宝箱の蓋が開いた。
「へ?……」
それがクズ盗賊最期の言葉となった。
そのまま宝箱がクズ盗賊に覆被り、嫌な音と共にクズ盗賊の上半身を食いちぎった。
「な……」
クズ戦士が呆然としているところに体に異常がないか確かめていたイスティが興味深げな表情をしながら言った。
「ミミックですね」
「ミミック?」
「はい、宝箱の姿をした魔物です。私も見るのは初めてです」
「そうなんだ」
ミミックはクズ盗賊の下半身には興味を示さず、リオ達に襲いかかって来た。
「う、うわーっ!!」
クズ戦士が部屋から逃げ出すが誰も気にしない。
その後、リサヴィは彼の姿を見ることはなかった。
……単に顔も名前も覚えていないだけかもしれないが。
それはともかく、リオが剣を抜いて前に出る。
「リオさんっ!」
アリスがリオの武器に強化魔法をかける。
リオが振り向かずに言った。
「僕一人で戦うから」
「ぐふ」
「危なくなったら手を出しますよ」
「頑張ってくださいっ!」
イスティは戦闘中にも拘らず、手帳を取り出すとリオの戦いを真剣な目で見つめながら何事か記入する。
サラとヴィヴィはそれに気づいていたが指摘しなかった。
イスティへの疑惑が更に深まるのだった。
Cランクの魔物であるミミックはリオの敵ではなく、アッサリと勝負はついた。
「ぐふ。ミミックまで配置するということは宝箱を再配置しているのはこのダンジョンの関係者だな」
「そうですね。死んだ冒険者の装備ならともかく、ミミックはそう簡単に用意はできないでしょう」
「そうなんだ」
「ミミックはダンジョンにやってくる冒険者を殺すために擬態する魔物を品種改良して生み出されたと言われています」
「それって……」
「はい。サイファ・ヘイダインです」
サラは嫌そうな顔をしながら言った。
その後、五階層に上がり、遂に宝物を配置している人物を見つけた。
正確には人ではなかった。
小型ゴーレムである。
あの小型ゴーレムと少なくとも見た目は同じだった。
小型ゴーレムはリサヴィの姿に気づくと手にした宝箱をその場にそっと置いた後で、しゅたっ、と右手を上げて挨拶してきた。
まるで親しい友人に会ったかように。
それも一瞬のことで、たたたたっ、と駆け出してまたも壁の隠し穴に消えた。
イスティが不思議そうな顔をリサヴィに向ける。
「あの、もしかしてお友達、ですか?」
「そんなわけないでしょう」
サラがムッとした顔で答えた。




