484話 宝箱のトラップ
クズが喚き散らす中、ヴィヴィのリムーバルバインダーの目が不審な動きをしている者を捉えた。
先ほどクズに突き飛ばされたイスティだ。
彼が手帳か何かに何事か記入していた。
それも今までに見た事もない真剣な表情でだ。
(……こいつ、まさか……)
ヴィヴィの中でイスティへの疑惑が持ち上がる。
かつてストーカーカリスに勇者になる薬と騙して寄生生物を飲ませた吟遊詩人がいた。
今まで吟遊詩人の中でリサヴィに接触してきたのは彼だけである。
「ぐふ。リオ、確かに盗賊がいた方がいいだろう」
その言葉にクズがいち早く反応してガッツポーズを決める。
「いいこと言うじゃねえか棺桶持ち!」
「そうやって最初から素直に言えばいいんだ」
クズリーダーがギルド職員に勝ち誇った顔で言った。
「聞いただろ!怠慢職員!」
「ほれ!俺らの許可証を発行しろ!」
「急げよ!」
クズリーダーがヴィヴィの前にやって来ると、へへっ、と笑顔を浮かべながらヴィヴィに握手を求めて手を差し出した。
その手をヴィヴィがガッチリと握った、
なんてことは当然なく、ヴィヴィはその握手に応じずリオに言った。
「ぐふ。リオ、イスティを連れて行こう」
その言葉を聞いてクズが再びアホ面を晒す。
「わかった」
リオは何の疑問も持たずにヴィヴィの提案を受け入れた。
その言葉を聞きイスティが満面の笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます!」
ヴィヴィの意見に猛反対する者達がいた。
クズである。
「ざけんな!」
クズがイスティに詰め寄る。
「てめえ!何横入りしてんだ!?」
「いえ、横入りはあなた方でしょう」
「ざけんな!」
「大体よ、てめえは許可証持ってんのかよ!?ああっ!?」
「ありませんがリサヴィの皆さんと行動するなら許可されるのではないでしょうか」
その言葉を聞いてクズは「がははっ」と笑い出す。
そんなクズを放っておいてヴィヴィがモモに「イスティを連れて行きたい」と言うとあっさり許可証が発行された。
それを見たクズはがはは笑いをやめてモモに食ってかかる。
リサヴィとイスティはモモがクズの相手をしているうちにギルドを後にした。
今回は特別依頼ではないためギルドから馬車は出ない。
そのためカシウスのダンジョンまでは徒歩の旅だ。
その日の夕方にカシウスのダンジョンに到着した。
探索は明日の朝開始である。
ダンジョンの周りには冒険者や傭兵があちこちでキャンプを張っていた。
探索を終了した者やリオ達のように明日から探索をする者達であろう。
リオ達も空いてる場所を確保してキャンプを始める。
人が多いからと言って安心は出来ない。
敵は魔物だけではないからだ。
スリや置き引きには十分注意する必要がある。
その日の晩飯もいつも通りリオが作った。
「これが噂に聞くリオさんの手料理ですか!……うん!噂通り本当に美味しいですね!」
「そうなんだ」
「そうなんですよっ」
リオは無表情であったが、その代わりというべきかアリスは自分が褒められたかのように誇らしげな顔をしていた。
翌朝。
リサヴィとイスティはカシウスのダンジョン探索を開始した。
今までに冒険者達が探索して作成したマップをモモから入手しており、それをもとにとりあえず四階層へ最短距離で向かう。
戦闘を数回行ったが特に苦戦する事なく進み、四階層へやって来た。
地図を見ながら四階層を探索していると通路の突き当たりに宝箱が置いてあるのを発見した。
「ぐふ。本当にあったな」
「ええ。しかし、おかしなところに置いてありますね」
「そうなんだ」
「はい。普通は部屋の中に置いてあるものです」
「ぐふ。確かに通路に置いてあるのは珍しいな」
「わたしっ、ダンジョンで宝箱発見って初めてですっ。ちょっと興奮しますねっ」
アリスが嬉しそうに言った。
「アリス、気を引き締めて。遊びではありませんよ」
「あっ、はいっ。すみませんっ」
「では私が」
イスティが周囲にトラップがないか注意深く観察しながら宝箱のそばまで近づいていく。
周囲にトラップが仕掛けられていないことを確認して宝箱自体を調べようとした時だった。
「待て待てっー!!」
叫びと共に颯爽とクズが現れた。
補足するとこのクズはギルドでリサヴィに付き纏っていたクズではない。
近隣のギルドでカシウスのダンジョンへの入場許可をもらったクズである。
ギルドはブラックリストを作成してクズに許可証を発行しないようにしていたが、それでも完全に排除する事は出来ずにすり抜ける者もいたのだ。
とはいえ、ダンジョン内でのクズ活動はセーフティゾーンを破壊したクズのせいで厳しくなっていたので、珍しく真面目に探索をしていた。
そんな時にリサヴィを見かけたのだ。
リサヴィに盗賊クラスがいないのは周知の事実であり、これを上手く利用すれば楽して美味しい思いができると考え、跡をつけてチャンスを窺っていたのだ。
もちろん、リサヴィに関わって何人ものクズが死に、“死神パーティ”の二つ名がついていることも彼らは知っていたが、他のクズ同様に自分達のことをクズだと思っていなかったので跡を追うことを躊躇しなかったのである!
彼らは自信満々の顔をしながらイスティを押し退けて宝箱の前を陣取った。
「なんですかあなた達は」
サラの言葉にクズリーダーが満面の笑みを浮かべる。
「驚かせて悪かったな!いきなり現れたからビックリするのもわかるぜ!だが安心しろ!俺達は敵じゃねえ!」
そう言ったクズリーダーをはじめクズ達は皆誇らしげな顔をしていた。
ちなみにサラを始めリサヴィは彼らの登場に全く驚いていなかった。
跡をつけている者達がいるのに最初から気づいていたからだ。
だが、そんなこととも知らずにクズリーダーが自慢げに話を続ける。
「こいつは俺らに任せな!」
そう言ってキメ顔をするクズリーダーだが、それに同じパーティのクズ盗賊が文句を言う。
「おいリーダー!それは俺の言葉だろ!」
「いいじゃねえか。ちゃんと『俺ら』って言ってやっただろ」
クズリーダーがサラにキメ顔をしながら言った。
「盗賊クラスのいないお前らにトラップの調査や解除は荷が重いだろう」
「何を言ってるんですか。そのために私が……」
クズリーダーがイスティの言葉を途中で遮る。
「だから俺らがトラップの有無確認と解除をしてやる!その代わり分け前は七対三だ!当然、七が俺達だぞ!いいな!?いや、文句は言わせねえぜ!」
クズリーダーは罠を調べるのが自分ではないにも拘らずそれを思わせない、見事な威張りっぷりであった。
そしてリサヴィの返事を聞かずに事を進める。
「よし、出番だぞ!」
「……ああ」
クズ盗賊は威張るクズリーダーに不機嫌な顔を見せながらも宝箱のトラップの有無を調べ始める。
しばらくしてクズ盗賊が笑みを浮かべた。
「ははっ、トラップが仕掛けてあったぜ。まあ俺様にかかれば子供のオモチャだがな!」
そう言って振り返りサラにキメ顔をした後でトラップの解除を始めた。
そして、
「……よし、解除したぜ!」
クズ盗賊は振り返ると再びサラに向かってキメ顔をした。
「テメエ!さっきから何一人でカッコつけてんだ!」
仲間から非難を浴びてもクズ盗賊は平然としていた。
(へへっ、これで俺はリサヴィの仲間入りだぜ!こんなチンケなパーティとは今日でオサラバだ!)
クズ盗賊が宝箱を開けようとするのを邪魔する者がいた。
クズリーダーである。
「よしっ、どけっ!俺が開けるぜ!」
「なっ……ずるいぞリーダー!俺が解除したんだぞ!」
「わかってる!そんなお前を信頼してるぜ!」
クズリーダーは強引にクズ盗賊を退かせるとキメ顔をサラに向けた後、宝箱を開けた。
途端、中から矢が飛び出し、真正面にいたクズリーダーの額に突き刺さる。
「はへ?」とよくわからない言葉を発した後でばたん、と倒れた。
それを見てヴィヴィが呟いた。
「……ぐふ。命をかけたギャクか」




