483話 ダンジョンの宝箱
リサヴィはリッキー退治を終えてマルコに帰ってきた。
その足でギルドに向うとカウンターにいたモモがすぐに気づき声をかけてきた。
「お帰りなさい。リサヴィの皆さん!」
リオはモモがいるカウンターに向かうと依頼完了書を渡した。
「処理よろしく」
「はい、お預かりします」
モモはリッキー退治の完了処理をしながら話しかけてきた。
「サラさんは今回、劇団の方達にイチャモ……抗議に行かなかったようですね?」
「モモ、今イチャモンと言いましたね?」
「言ってませんよ」
モモはにっこり笑顔で否定する。
「……」
「言ってませんよ」
サラはため息をついてから言った。
「まぁ抗議しても無駄でしょうから」
「ぐふ、何故そのことを知っている?」
「ランさんから聞きました」
「ランから?あなたランと親しかったのですか?」
「ええ、契約のこともあって何度も会っているうちに仲良くなりました。あ、別にランさんだけじゃありませんよ。団長さんや他の方々もです」
「そうですか」
「それでですね、ランさんは感動していましたよ」
「はい?」
「なんでっ感動するんですっ?」
「ぐふ、そんな要素は一つもなかったと思うが」
モモは笑顔で言った。
「自分達のときには楽屋まで“応援に”来てくれたのに彼らの時は行かなかったので自分達のほうが演技が上だと判断したんだと思ったみたいです」
「「「「……」」」」
ランの大きな勘違いにサラ達が複雑な表情をするがそれを気にすることなくモモは話を続ける。
「あ、そうそう。近々“鉄拳制裁”の上演を再開するようです」
「え?クレームはどう対処したんですか?」
「何を言ってるんですかあ。モデルである皆さんは上演の継続を反対しなかったのでしょう?」
「それが……って、まさか」
「はい。本人達のOKを得たと判断したのです」
「「「「……」」」」
「安心してください。皆さんの代わりに私が“リサヴィ絶賛”の言葉を贈っておきました。本人公認なのですから文句を言う人はいないでしょう」
「「「「……」」」」
「いやあ、やっぱりランさんと“会わせて”よかったです。これで私達のギルドにもまだまだお金が入ってきますよ」
「……今、なんと言いました?」
「まだまだマルコは余裕がないんですよ」
「そっちではありません」
「ぐふ。ランと会ったのは偶然ではなかった、ということか」
「あ……」
モモは嬉しすぎてうっかり口を滑らせた事に気づいたが、面の皮の厚さは尋常ではないので笑顔が消えることはなかった。
「こんがきゃ……」
「サラさんっ、本音ダダ漏れですよっ」
「ところで、帰ってきたばかりで申し訳ありませんが皆さんにお願い、いえ、依頼を受けて頂きたいのですが」
モモのにっこり笑顔を見てサラは嫌な予感がした。
「……また私達に何か面倒事を押し付ける気ですね?」
「酷いですよサラさん!私が今までそんな事をしたことがありましたか?」
サラが指折り数え始めるとモモはすすす、と顔をリオに向けて内容を話し始める。
「実はダンジョンに宝箱があるのです」
「ぐふ。それは普通だろう」
「はい」
答えたヴィヴィにモモはあっさり頷いて続ける。
「ただ、場所が問題なのです。今回、新たに宝箱が見つかったのは四階層と五階層なんです」
そこでやっとモモの言っていることが理解できた。
「ぐふ。既に探索済みの場所で見つかった、ということか」
「はい、そうなのです。明らかに何者かが後から配置したとしか思えないのです」
「誰かのイタズラですかねっ。中身が空とかっ」
「そうでもないのです。高級な品物が入っているものや中にはダンジョンで戦死した者達の装備が入っていたものもあったらしいのです。それに一掃したはずの魔物も再び出現しているそうです」
「それは少し気になりますね」
「ぐふ。それで私達にその宝箱を配置している者を探せと?」
「はい。あ、もちろんそんな上から目線で言いませんよ。依頼です。気楽にダンジョン探索しながら何か気がついた事があれば教えて頂ければと」
「前に話しましたが私達には盗賊が……」
「やろう」
「リオ?」
「なんかおもしろそう」
「え?おもしろそう?」
「あなたにそんな感情あったのですか」と出かかったが大勢の目があることからその言葉をどうにか飲み込む。
「わたしはリオさんに従いますっ」
「ぐふ。特に異論はない」
サラはモモの勝ち誇った笑顔を見て歯軋りしながら言った。
「……まあ、皆がやる気なら反対しませんが」
こうしてリサヴィはカシウスのダンジョン内で発生している宝箱の調査依頼(ただし、原因を突き止められなくても失敗はない)を受けた。
サラ達がギルドを出ようとするところで声をかけられた。
「リサヴィの皆さ……」
「どけ!!」
「うわっ!?」
話しかけて来た吟遊詩人のイスティを突き飛ばして前に出て来たのは言うまでもなくクズである。
あのクズである。
リサヴィにちょっかいをかけてくるクズがいつも彼らだけなのは今のマルコには彼ら以上のクズが存在しないからである。
他のクズはカシウスのダンジョンでクズが起こしたセーフティゾーン破壊事件の影響でこの辺りで活動するのは危険だと察して去っていたのだ。
クズリーダーが相変わらずデカい態度で話しかけてくる。
「話は聞かせてもらったぜ!カシウスのダンジョンに行くんだってな!」
「それが何か?」
「何かじゃねえだろ。盗賊が必要だろうが。俺らがついて行ってやるぜ!」
そう言ったクズリーダーの顔は相変わらず根拠不明な自信に満ち溢れていた。
「ぐふ。お前達は私達の後を勝手について来たクズが全滅したのを知らないのか」
「知ってるぜ!馬鹿なクズどもだぜ!」
そう言ったクズリーダーとそのメンバーの顔を見て、彼らもまた今までのクズ同様にクズの自覚がないのだとリサヴィの面々は悟った。
サラがため息をついてから確認する。
「一緒に行く行かない以前にあなた達はカシウスのダンジョンの入場許可をもらっているのですか?」
「はははっ!何言ってやがる。お前らと一緒に行動するんだぞ。許可するに決まってんだろ!」
クズリーダーはそう言うと丁度通りかかったギルド職員に命令口調で言った。
「おい!今すぐ俺らにダンジョンの入場許可証を発行しろ!」
「急げよ!」
しかし、ギルド職員はちらりとクズに目を向けただけで通り過ぎていく。
クズリーダーが慌ててそのギルド職員の肩を乱暴に掴んだ。
「おい!聞こえなかったのか!?」
「お断りします」
「ざけんな!困んのは俺らだけじゃねえ!リサヴィもだぞ!な!」
「別に困りません」
「へ……」
何故かリサヴィも同意すると思っていたクズの面々がサラの冷めた言葉を聞いて驚きのあまりアホ面を晒す。
その顔を見てヴィヴィが感心する。
「ぐふ。見事なアホ面だ」
我に返ったクズリーダーがサラに詰め寄る。
「なんで俺らじゃダメなんだ!?」
「私達はあなた達の事を何も知りません」
「ぐふ。一目でクズだとわかるしな」
ヴィヴィが止めを刺した。
ハズだったが効果はなかった。
「ざけんな!」
「俺らを見た目で判断すんじゃねえ!」
「安心しろ。俺達の実力は本物だ!俺達が保証する!」
そう言ったクズリーダーの顔はとても誇らしげだった。
同じくパーティメンバーも誇らしげだった。
「ぐふ。クズの保証など銅貨一枚の価値もない」
「「「ざけんな!」」」
「ぐふ。ならまずギルドに認めてもらって来い。話はそれからだ」
「ざけんな!」
「ダメだったから言ってんだろうが!」
「ぐふ。なら尚更私達も認めるわけないだろう」
「ですねっ。なんでっわたし達の判断の方が甘くなってるんですかっ」
「まあそう言ってやるなってアリエッタ」
クズリーダーは自分達のことを言われているのにまるで他人事のように言ってアリスを宥める。
「おう!俺達はほんとに役に立つぜ!俺らが保証する!」
そう言ったクズ戦士をはじめ、メンバーの顔はなんか誇らしげだった。
「ぐふ。何度も言わせるな。クズの保証など銅貨一枚の価値もない」
「「「ざけんな!!」」」
クズパーティが怒り出すが誰も相手にしなかった。




