481話 演劇「世直し冒険者達」 その1
リサヴィと新米女パーティはマルコに戻ってきた。
ギルドに入ると冒険者達の視線に気づいたがかまわずモモのいるカウンターへと向かう。
「お帰りなさい!」
モモは新米女冒険者達の表情を見て笑顔で言った。
「どうやらいい経験になったようですね」
「「「はい!」」」
新米女冒険者達は元気よく答えた。
リッキー退治の依頼完了処理を終え、新米女冒険者達と別れた。
そこで改めてサラはモモを見て詰問口調で尋ねる。
「モモ、またあなたやりましたね」
「え!?ど、どれの……いえ、何のことでしょう?」
「……今『どれ』って言ったわね。そんなに何かしているのですか?」
「聞き違いですよ、サラさん」
「……まあいいでしょう。演劇の事です」
それを聞いてモモはほっとした表情をする。
「ああ、あれですか。あの演劇は私達マルコとは無関係ですよ」
そう言ってモモも不満げな顔をする。
「アレには私達も怒り心頭なんですよ!マルコギルドのパーティの話を勝手に演劇にされて!」
「私達はマルコ所属ではありません」
「サラさん、そんな些細なこと気にしたらダメですよ」
モモの笑顔を見てヴィヴィが呆れた表情で(と言っても仮面で顔は見えないが)サラに言った。
「ぐふ、もう手に負えんぞ。どう責任とるつもりだ?」
「どういう意味ですか?」
サラがヴィヴィを睨んでいる間もモモは話を続ける。
「サラさん達はその演劇“世直し冒険者達”を観たことはありますか?」
「いえ、少し話を聞いた程度です」
「……そうですか」
モモは少し考えた後で「少々お待ちくだい」と言って事務所に入るとすぐににっこり笑顔で戻って来た。
「実はその演劇は近くの街で上演していましてここにその演劇のチケットが四枚あります。これを差し上げますので一度ご自分の目で確かめられては如何でしょうか?」
そう言ったモモの顔はなんか誇らしげだったが、そのチケットはくしゃっ、となっており、事務所から啜り泣くような声が聞こえたのがとても気になった。
「あのっ、それっ、職員さんから奪ったのではっ?」
「嫌ですよ、アリスさん。私がそんな事をするように見えますか?」
「あっ、はいっ」
「……」
モモはしばし沈黙後、再び笑みを浮かべて話しかけてきた。
「そんなことするわけないじゃないですか」
「では、今の沈黙はなんですか?」
「それはともかく、如何ですか?」
「「「……」」」
「結構評判がよくてチケット入手しづらいんですよ」
「「「……」」」
サラ達は事務所から悲しそうな顔して見つめてくる受付嬢四人組が非常に気になった。
それに気づいたモモが事務所に向かって笑顔を向ける。
その目は笑っていない。
彼女達は「ひっ」と声を上げて事務所に消えた。
そこへ彼女らの上司らしき者が慌てて事務所に入って行くのが見えた。
中から騒ぎが聞こえたが、少しして歓声が聞こえた後、静かになった。
おそらくチケットの交換内容がよかったのであろう。
モモは尻拭いした上司への感謝を言うどころか、何事もなかったかのような顔でリサヴィのメンバーに尋ねる。
「どうしますか?」
「あなた、本当にいい性格しているわね」
「何のことですか?」
サラはため息をついてからリオを見る。
「リオ、演劇を観に行きませんか?」
「ん?いいよ」
「ありがとうございます!ではまずこちらにサインを!」
サラはモモがリオに差し出した紙を引ったくって内容を確認する。
演劇を行なっている街のそばにある村からのリッキー退治の依頼であった。
Fランクの依頼で言うまでもなく報酬は安い。
「これを受けないとチケットは渡さない、というわけね?」
「そんな酷いですよサラさん、私が……」
「見えます」
「……」
モモはこほん、と咳払いしてから言った。
「チケットがなくてもリオさんは受けてくれますよね?」
「そうだね」
「ほらっ」
そう言ったモモの顔はとても生意気であった。
むっとしているサラからモモが依頼書を奪い取るとリオの前に差し出した。
「ささっ、サインを!」
「わかった」
「こんがきゃ……」
「サラさんっ、本音ダダ漏れですよっ」
こうしてリサヴィは演劇の後でリッキー退治をする事になったのである。
サラ達が出口へ向かう途中で吟遊詩人のイスティが近づいて来た。
「皆さん、まだカシウス……」
「どけ!」
「うわっ!?」
イスティを押し退けてやって来たのはマルコに居座りリサヴィに寄生しようとするあのクズ達であった。
「お前らいい加減にしろよ!なんで俺らがいんのにFランクの依頼なんか受けんだよ!?」
「俺達も暇じゃねえんだぞ!」
クズらしく自分達の都合で文句を言う。
ヴィヴィが呆れた顔で(と言って仮面で顔は見えないが)言った。
「ぐふ、暇だろ」
「「「ざけんな!」」」
彼らは自分達の事を棚に上げて説教を始めた。
「お前らにはCランク冒険者としての誇りはないのか!?」
「あなた達は有り余ってそうですね」
サラの嫌味をクズはスルー。
「サラ!真面目にちゃんとランクにあったら依頼を受けろよ!」
「Cランクのな!」
「そしたら俺らも一緒に付き合ってやるからよ。なっ?」
「共同依頼を受けてな!」
「だな!」
クズ達は言いたい事を言い終えるとキメ顔をサラに向けた。
もちろん、そんなものがサラ達に通じるわけはない。
その後、いちゃもんをつけるクズを注意しにギルド職員がやって来た。
彼らが言い争っているうちにサラ達はギルドを後にした。




