476話 クズ、研修に参加する?
「話が済んだなら、さっさと出て行ってください」
サラはクズ達の三文芝居に辟易しながら言った。
「そう言うなって。まだ話は終わりじゃねえよ」
「あなた達の誰一人として指導員にすることはありません」
「ああ。そいつはわかった。納得はできないが諦めてやる」
クズリーダーがなんか偉そうに言って一旦言葉を切り、続ける。
「実はなあ、俺達よ、お前達に嘘をついてたんだ」
そう言ってクズリーダーが照れくさそうに頭をかくとフケが飛んだ。
いや、匍匐前進したときについた砂だったかもしれない。
サラ達はそれを見て顔を顰めながらも彼の言う嘘について考えるが、心当たりがあり過ぎてどれのことを言っているのかわからない。
クズリーダーが正解?を告げる。
「実はな、俺達、本当はよ……Dランク冒険者なんだ!」
そう言って誇らしげな表情をするクズリーダーをメンバーが驚いた表情で見つめる。
クズにとってランクが全てだ。
自ら進んで相手よりランクが下である事を明かしてしまったことにメンバーは最初こそ驚いたものの、クズリーダーの勇気ある行動に痺れて憧れた。
そして、クズリーダーに倣って誇らしげな顔をする。
クズリーダーは驚いた顔をしたサラ達を見て満足げな顔をして言った。
「びっくりするのも当然だな」
「「「だな!」」」
サラ達はあれだけ口を滑らせかけ、しかも冒険者カードを見せるのを拒みながら隠し通せていると思っていたことに驚いていたのだが、彼らは当然気づかない。
ともかく、彼らはサラ達の驚いた顔を自分達の都合のいい方へ考えて話を続ける。
「騙して悪かったな!」
「許してやってくれよな!」
「「だな!」」
ヴィヴィが呆れた顔をしながら(と言っても仮面で顔は見えないが)言った。
「ぐふ。確かに驚いたな。あの程度の数のウォルーから逃げ出すくらいだからせいぜいEだと思っていた」
「「「「ざけんな!」」」
「そんなくだらない事どうでもいいです。気が済んだなら出て行ってください」
「な……く、くだらないだと!?」
クズ戦士がサラの言葉に怒りを露わにする。
「まあ、落ち着けって」
「でもリーダー!」
「俺に任せておけ」
「わかったぜ、リーダー!」
「流石だな!」
サラ達は今の会話の中のどこに「流石」と言わせるものがあったのかわからないが、クズリーダーは満更でもなさそうな顔で割り込む隙を与えず一気に最後まで話し切る。
「というわけでよ、俺らもお前らよりランクが下なんだ。だからよ、お前らの指導を受ける権利があるだろ。だから受けてやるよ。これなら文句ないだろう?いや、言わせねえぜ!よしっ決まったな!」
「「「……」」」
サラ達が呆れて言葉が出ないでいるとクズ達だけで盛り上がり始める。
「そりゃいい!」
「その考えはなかったぜ!」
「流石だなリーダー!」
「ったりめえよ!リーダーともなればな、幾つもの手を考えておくもんだぜ!」
そう言ったクズリーダーはなんか誇らしげな顔をしていた。
クズリーダーの発言を皮切りにクズ達は次々と好き勝手な事を言い始める。
「研修中に狩った獲物はきちんと分けろよ!」
「言うまでもないが、そいつらよりも多めにもらうからな!なんてったって俺達は“Dランク!”冒険者なんだからな!」
「当然だな!」
「だな!」
これらの発言から自分達で魔物を倒す気がない事がわかる。
自分達で倒せるならわざわざ口に出す必要はないのだ。
彼らが言いたい事を言い終えた後でヴィヴィが吐き捨てるように言った。
「ぐふ、寝言は寝て言え!」
「んだと!?」
クズ達がヴィヴィを睨みつける。
しかし、当のヴィヴィは平然とした顔で(仮面で顔は見えないが)言った。
「ぐふ。それが人にものを頼む態度か。生まれる前からやり直してこい」
「「「「ざけんな!」」」」
サラが面倒くさそうな顔で言った。
「それはもういいです。あなた達の提案はヴィヴィの言った通り拒否します」
「「「「ざけんな!」」」」
「もうっ、邪魔ですからっさっさとここから出て行って下さいっ!」
「「「「ざけんな!」」」」
彼らは諦めが悪かった。
「大体だな!このキャンプスペースは誰のもんでもねえ!」
「そうだ!お前らにとやかく言われる筋合いはねえ!」
「だな!」
正確には領主のものであるが、誰でも自由に使っていいのは事実である。
それはサラも認めた。
「そうですね。では……」
サラが剣を抜いた。
彼らは今まで怒鳴っていたのが嘘のように恐怖を顔に浮かべて慌てて後ろに下がる。
サラは無言で前に進むとそれに合わせてクズ達が後退する。
「て、てめえ!まさか本当に俺らをヤル気か!?」
「神官が!英雄ナナルの弟子がそんな事していいと思ってんのか!?」
「……」
サラは彼らが喚くのを無視してしばらく進むと歩みを止めて地面に剣で線を引いていく。
「お、お前、何やってやがる!?」
「ここからが私達のスペースです。あなた達はそちらです」
「な、なんだと?」
そう、サラはキャンプスペースを区切ったのだ。
「こちらに入ってきたら敵対行為と見做して問答無用で攻撃します」
「な……」
「ざ、ざけんな!」
「ここは公共の……」
「キャンプスペースを複数のパーティが使用する場合、無用な争いを避けるためにこのようにスペースを分けることは普通に行われています」
「お、俺達の方がちいせいじゃねーか!」
「当然です。私達の方が人数が多いのですから」
「ざ、ざけ……」
「話は終わりです。文句があるなら後でギルドにでも訴えれば良いでしょう」
だが、クズ達は納得せず喚き散らす。
サラが呆れていると後ろから声がかかった。
「サラさんっ、もういいんじゃないですかっ。わたし達っ十分耐えましたよっ!このクズ達の精神攻撃にっ!」
「何が精神攻撃だ!?」
アリスはクズリーダーの言葉を無視して続ける。
「もうヤっちゃいましょうよっ。今度はこっちの攻撃の番ですよっ」
「ふざ……!?」
アリスがメイスを手に持ってサラのそばにやって来たのでクズ達の顔が真っ青になる。
アリスの強さはさっき見て知っているし、手にしたメイスで容赦なくクズ魔装士とクズリーダーを殴り飛ばしているので脅しではない事もわかっていた。
「わ、わかった!このスペースで我慢してやる!」
「我慢してやるっ?わたし達はっ、出て行け、と言ってるんですっ」
「ざけん……ちょ、ちょ待てよ!もう深夜なんだぞ!キャンプスペースじゃないと危険だろうがよ!」
「俺らを殺す気か!?」
ヴィヴィがクズが言った理由を否定する。
「ぐふ。キャンプスペースには結界が張ってあるわけではない。どこだろうと襲われる時には襲われる」
「そうですね。それに地図によれば一時間も歩けば別のキャンプスペースがあるはずです。あなた達はさっきまでそこにいたのではないですか?」
街道脇に設置されているキャンプスペースは一定間隔で設置されているわけではない。
よく使われる街道なら徒歩三十分程度で次のキャンプスペースが用意されている場合もある。
逆にあまり使われていない街道では半日歩いても見つからない場合もある。
サラとヴィヴィの説明を受けてもクズ達は必死に抵抗する。
「そうだけどよ、人数が多いほど魔物だって襲って来ねえだろ!?」
「そんなの常識だろうがよ!」
「お前ら常識も知らねえのかよ!?」
「だ、だな!」
彼らの言葉を聞き、皆唖然とした。
いち早く復帰したヴィヴィが驚いたような口振りで言った。
「ぐふ。まさかお前達から“常識”という言葉が出るとは思わなかったぞ。私達と同じ意味で使うのか?」
「「「「ざけんな!」」」」
「まあ、確かに彼らの言い分にも一理あります」
「だよな!?」
「流石鉄拳制さ……ひっ!」
サラの人睨みで口を滑らせたクズが残りの言葉を引っ込める。
「アリス、キャンプスペースを使うのは許してあげましょう」
「……わかりましたっ」
アリスはとても残念そうだった。
「……なんだよ、あの凶暴神官。ほんと話と全然違うじゃねーかよ」
クズ達はぶつぶつ言いながら自分達に与えられたスペースに引き下がった。




