475話 クズ、内乱勃発
クズはしぶとかった。
「まあ慌てんなって。俺らの力を見てから判断すんでも遅くねえだろうが」
「ぐふ、それならもう見ただろう」
「ですねっ」
しかし、クズが人の言う事を聞くわけがない。
勝手にクズリーダーとクズ戦士が模擬戦を始めた。
その剣技はとてもお粗末で、以前クズパーティが行ったチャンバラと同等か、それ以下であった。
サラ達はウォルー相手に逃げ出すわけだと納得した。
次にクズ盗賊が弓を構え矢を放つ。
標的を告げず、ただ闇夜に矢を放っただけだ。
構えは適当で、放たれた矢のスピードも先ほど新米女リーダーが放ったものに劣る。
サラ達はウォルー相手に逃げ出すわけだと納得した。
最後はクズ魔装士だ。
クズ魔装士は左右をキョロキョロ見渡した後、両腕で力こぶを作る。
それだけだ。
サラ達はウォルー相手に逃げ出すわけだと納得した。
彼らはアピールを終えると全員が何かを成し遂げたかのような誇らしげな顔をサラ達に向けた。
何故彼らは稚拙な技を披露してあんな顔が出来るのだろうか?とサラ達は悩む。
誰一人として彼らを理解できる者はいなかった。
ヴィヴィが新米女冒険者達に言った。
「ぐふ。今のは全部記憶から消去しろ。今までのすべての経験が無駄になる」
「「「はい!」」」
新米女冒険者達は迷わず即答した。
「「「「ざけんな!!」」」」
クズ達はよほど自信があったらしくそのやりとりを見て怒り出す。
「もうそれはいいですからどっか行ってください」
サラはうんざりしながら言った。
だが、クズ達はどっか行かない。
「おいおい、待てよサラ。冒険者は戦う事だけがすべてじゃないだろうが」
そう言ってクズ盗賊が偉そうな顔をして前に出てきた。
「確かにお前らリサヴィは強い。戦士、ましてや棺桶持ちはお呼びじゃない。だがよ、お前らには不足しているクラスがあんだろう?」
クズ盗賊はそこで一旦言葉を切るとニヤリと笑って言った。
「そう、盗賊だ」
「「「……」」」
クズ盗賊が新米女盗賊を見た。
「おいお前、盗賊の技術を学べなくて困ってんだろ。俺が教えてやるよ!ディ……Cランク冒険者の俺がな!ははっ安心しろ!俺の腕はホンモンだぜ!俺が保証する!」
そう言ったクズ盗賊の顔はなんか誇らしげだった。
「……」
新米女盗賊は返事をせずサラ達の顔を見た。
クズ盗賊はその行動を見て新米女盗賊は自分では決められないのだと判断する。
「おいサラ。そいつはあんたが決めてくれってよ」
クズ盗賊はサラが答える前にいいことを思いついたようで「あっ」と呟くと満面の笑みを浮かべながら言った。
「サラ、研修が終わったらよ、俺がリサヴィに入ってやるよ。ちょうど盗賊がいなくて困ってんだろ。安心しろ。俺の腕は確かだ!俺が保証する!」
そう言ってクズ盗賊がキメ顔をした。
その言葉に真っ先に反応したのはクズリーダーだった。
「おい、てめえ!何勝手なこと言ってんだ!?」
クズ盗賊は詰め寄るクズリーダーに冷ややかな目を向けて言った。
「悪いなリーダー。でもよ、やっぱ誰だって上を目指したいだろ?そういうこった」
「てめえ……!」
「まあ、今の境遇を見直すってんなら考え直してやってもいいぞ」
このクズパーティは報酬を均等に分けていなかったことが今のクズ盗賊の発言で明らかになった。
彼は報酬が少ない事にずっと不満を抱いていたのだった。
クズ盗賊の言葉を聞いてクズ盗賊よりも更に分前の少なかったクズ魔装士がはっ、とした顔をし、その顔が新米女冒険者達に向けられる。
クズ魔装士は猫撫で声で新米女冒険者達に声をかけた。
「おいお前ら。お前らのパーティには魔装士がいねえだろ。仕方ないから俺が入ってやるよ。この優秀な魔装士である俺がな!」
そう言ってクズ魔装士が彼女達にキメ顔をする。
が、仮面で隠れて口元しか見えないので効果は全くなかった。
いや、素顔は見えていても効果はなかっただろう。
「てめえもか!一体何考えやがる!?」
クズ盗賊と言い合いをしていたクズリーダーがクズ魔装士を怒鳴りつける。
しかし、クズ魔装士は平然とした顔で言った。
「リーダーよ、俺にパーティに残って欲しかったら俺も分前の見直しをしてくれよ。いや、別にみんなより多く寄越せなんて言わないぜ。みんなと同じ分前にしてくれるだけでも考え直してやらんでもないぞ。とはいえ、それでこのハーレムパーティを諦められるかはわからないけどな!がはははっ!」
「……」
クズ魔装士は調子に乗ってクズリーダーに上から目線で言った。
クズ魔装士は新米女パーティに入れることを疑いもしないどころか彼女達を自分の女に出来ると思っていた。
クズリーダーはクズ魔装士に冷めた目を向けると、
「そうか、わかった」
とだけ返事した。
明らかにクズ盗賊のときとは態度が違った。
いい気分に浸っていたクズ魔装士は一気に現実に引き戻されて焦りまくる。
「い、いいのか?パーティ抜けるぞ?」
「わかった、と言ったぞ。聞こえなかったか?」
クズ魔装士は後に引けなくなりパーティ脱退を決断した。
「そうかよ!よくわかったぜ!今まで世話になったな!」
クズ魔装士が新米女冒険者達に顔を向けて言った。
「そういうことだ!これからよろしくな!」
「「「……」」」
新米女冒険者達にヴィヴィが何事か耳打ちした。
それに気づかずクズ魔装士はこれから起こるらしい妄想話を垂れ流し始める。
「早速だがよ、リーダーだが、俺の方がランクが上だから俺がやってる。安心しろ!俺はディ……Cランク冒険者だからな!俺の腕は確かだ!俺が保証する!」
そう言って再びキメ顔をしたあと、新米女冒険者達にいやらしい視線を向け鼻の下を思いっきり伸ばす。
「そうそう、夜だがよ、俺が体力に自信があるっつってもよ、流石に毎晩三人相手すんのは厳しいぜ。だからな、一人ずつな、いや、ケンカはすんなよ、ジャンケンでもしてその日天国へ行きたい奴を決めろ!がははは!」
クズ魔装士はとても幸せそうだった。
が、次の瞬間、
「「「寝言は寝て言え!」」」
新米女冒険者達の叫びが見事にハモった。
それを見てヴィヴィが満足げに頷く。
クズ魔装士の鼻の下を伸ばし切ったエロ丸出し顔があほ面へと変化する。
仮面でほとんど見えなかったが。
「な……ざ、ざけんな!!」
クズ魔装士の「ざけんな」が夜空に響き渡った。
クズ魔装士は顔を真っ赤にして怒り出す。
それを見てクズ盗賊が大笑いする。
「ばーか!棺桶持ちってのはな、余裕のあるパーティが“飼って”やるもんなんだよ!新米共に飼う余裕があるかよ!何勘違いしてんだこの大馬鹿野郎は!!」
これはクズ盗賊の偏見である。
魔装士といってもクズ魔装士が装備している運搬機能しかない廉価版から攻守兼ね備えたものまで様々な種類が存在するのだ。
クズ盗賊は十分笑って満足した後でサラ達に顔を向けた。
「こっちの話はつけたぜ!これからよろしくなっ!」
そう言ってクズ盗賊がキメ顔をした。
次の瞬間、
「ぐふ「「寝言は寝て言え」」」
まさかの二連続「寝言は寝て言え」が発動したのだった。
クズ盗賊の顔がキメ顔からあほ面へと変化する。
「な……、ざ、ざけんな!!」
今度はクズ盗賊の「ざけんな」が夜空に響き渡った。
クズリーダーが反乱を起こしたクズ二人に見下した目を向ける。
「おい、お前ら」
「「リ、リーダー……」」
二人のクズが同情を誘うような、縋るような目をクズリーダーに向ける。
クズリーダーが優しい声で言った。
「おまえらの言いたいことはよくわかったぜ。お前ら二人の境遇を見直すことを約束しよう……もちろん、下にだがな!」
二人のクズが悲鳴をあげる。
「ま、待ってくれよ!俺が悪かった!もう逆らったりしねえからよ!」
「俺もだリーダー!これ以上、下がったら生きていけねえよ!」
「知るか」
クズリーダーは縋る二人を気分良さそうに眺めていた。




