474話 クズ、後輩育成に目覚める?
クズ達は武装を解除されて正座させられていた。
クズリーダーの怪我だがサラが小銀貨一枚で治療した。
クズ魔装士も支払ったのでウォルーとアリスに受けた傷を治療した。
怪我が治り安心したのかクズ達は得意の難癖をつけ始める。
「噂倒れだな!サラ!」
クズリーダーが撃たれた足を指差す。
「治療してる時、めっちゃ痛かったぞ!しかもまだ何か動きが悪い!」
「だな!噂じゃあ、痛みはすぐ消えるって話だったのに嘘じゃねえか!傷は消えたが痛みはまだ残ってるぞ!」
彼らの言ってる事は珍しく本当のことだった。
だが、それはサラが手を抜いたからだ。
金をもらったとはいえ、彼らにそこまでしてやる義理は無い。
それに次に何をするかわからない危険人物達なのだ。
サラは彼らの文句を聞き流して相手にしなかった。
クズリーダーの標的が矢を放った新米女リーダーに変わる。
「お前!さっきはよくもやってくれたな!いきなり攻撃して来やがって!」
クズリーダーが新米女リーダーを睨みつけるが、正座させられて怒鳴っても滑稽なだけだ。
彼女の代わりにサラが答えた。
「警告を無視したのはあなたです」
「ざけんな!」
「見知らぬ者が闇夜に紛れて匍匐前進で近づいてくるなど敵対行為とみなすのは当然でしょう。問答無用で殺されていても仕方のない程の愚行です」
「ほんの冗談だろ!」
「ちょっと驚かそうと思っただけじゃねえかよ!」
「だな!」
サラがクズ達に冷めた目を向けて言った。
「冗談?驚かそうとした?バカですか」
「んだとっ!?」
「見知らぬ相手にやる事ではありません」
「ちょ待てよ!俺らは共に戦った戦友だろうが!」
「おう!もう親友と言っても過言じゃねえ!」
「だな!」
「「「「「「……」」」」」」
クズスキル?押し付けをやった相手を戦友と呼ぶだけでなく、“親友”という言葉まで飛び出してヴィヴィが呆れ顔で(と言っても仮面で顔は見えないが)吐き捨てる。
「ぐふ、過言だ、クズ」
「誰がクズだ!?」
「ぐふ、クズの論理で話すな。一般人には通じん」
「「「「ざけんな!」」」」
「ぐふ、そもそもあれだけ派手に物音をさせて近づいてきてよく気づかれないと思ったな」
「な……」
その言葉を聞いてクズ達が一斉にクズ魔装士を睨み付ける。
「てめえのせいで俺らも無能だと思われたじゃねえか!」
「ぐふ。思っている、ではなく確信しているぞ」というヴィヴィの言葉は彼らに聞こえなかったようだ。
クズ魔装士も言われっぱなしではない。
「そんな無茶言うなよ!俺だって最初からこの装備じゃ無理だって言っただろうが!それを『大丈夫だ』って強行したのはリーダーだぞ!」
「黙れ !サラが俺を無能だと勘違いしたらどうするんだ!?」
「いえ、勘違いではなく、確信しています」というサラの声も彼らには届かなかった。
クズ魔装士は更に反論する。
「だ、大体お前達だって音を立ててたぞ!だろ!?」
クズ魔装士が見張りをしていた新米女冒険者達に同意を求める。
更にキメ顔もしていたが、仮面で露出している口元しか見えないし、もとの顔もそんなによくないので仮面を外していたとしても効果はなかっただろう。
「仲間割れは他でやってください。それで冗談は置いておいて本当は何をしようとしていたのですか?私達の荷物を盗もうとしたのでしょうけど念の為に聞きます」
「何言ってんだ。さっきちょっと驚かそうとしただけだって言っただろうが」
「……本気で言ってますか?」
「「「「おう!」」」」
クズ達は元気よく腕まで振り上げて答えた。
サラは頭を抱える。
いや、サラだけではない。
リオを除くみんなが頭を抱えていた。
ちなみにリオはクズの話を全く聞いておらず、夜空をぼー、と眺めていた。
サラは彼らの言うことが完全に嘘だとは断言できなかった。
何故なら相手はクズである。
クズの思考は異常で常人には理解できないことは今までの経験から明らかであり、異常者である以上、常人が絶対やらない事も平気でやりかねないのだ。
サラは考えるのをやめた。
「まあ、いいでしょう」
「わかってくれたか!」
「わかりませんが、ともかく用事は済んだと言う事ですね。さっさと出て行ってください」
「まあ、そう言うなって。こっからが本題なんだからよ」
「……は?」
クズ達は勝手に正座をやめて立ち上がる。
結構長く正座をしていたはずであるが慣れているのだろうか、皆足が痺れた様子はなかった。
「おいおい、驚かすためだけにわざわざやって来る奴がいるかよ」
「「「だな!」」」
サラは殺意が湧いた。
いや、さっきからあったが実行に移そうと思わず手がぴくりと動いたのだ。
その欲望をなんとか抑え込む。
幸いにもヴィヴィ、そしてアリスも我慢できたようだった。
(私と違って気が短いヴィヴィと最近好戦的なアリスが我慢できてほっとしたわ)
もう少しで命を失うところだったクズ達だが、そんなことなど知るはずもなく本題とやらを話し始める。
「念の為にもう一度確認するがよ、お前らはリサヴィで間違いないんだよな?」
「……それが何か?」
「そんで今、そのガキ達の冒険者研修か何かやってんだろう?」
「それが何か?」
「こいつらと相談してな。俺らも指導員をやってやる事にしたぜ!」
そう言ったクズリーダーをはじめ、クズ達の顔は皆根拠のない自信で溢れていた。
その言葉にサラ達だけでなく、新米女冒険者達も呆れた。
(自称だが)Cランク冒険者でありながらウォルーから逃げ回る醜態を見せただけでなく、意味不明な言動の数々。
そしてトドメは常人には理解出来ぬ匍匐前進。
一体、彼らに何が指導できるというのだろうか?
だが、クズ達は自信満々に続ける。
「もちろん、タダじゃやらねえぞ」
「おうっ、俺達も暇じゃねえからな!」
「では、さっさと出て行って下さい」
サラが即答したが彼らには聞こえなかったようだ。
「で、ギルドから教育報酬はいくらもらってんだ?」
「ちゃんと均等に分けろよ!
「ネコババするんじゃねえぞ!」
ヴィヴィが不機嫌な顔で(と言っても仮面で見えないが)で言った。
「ぐふ、何が報酬だ。お前達こそ私達に今までの迷惑料を払え」
「「「「ざけんな!!」」」」
「ぐふ。それにだ、私達はクズを育成しているわけではない。クズのお前らに出番などない」
「「「「ざけんな!!」」」」
「誰がクズだ!?」
「いい気なるなよ棺桶持ち野郎が!」
クズ魔装士はブーメラン発言をするがその事に全く気づいていなかった。




