470話 リオ、うんちくを語る
誰が料理を作るかだが、結局、サラ達が言い争いをしているうちにリオが作り始めたのでそのままリオが作ることになった。
その間は今まで通りの訓練を行った。
昼食を食べ終わった後、ヴィヴィが訓練方法について提案した。
「ぐふ、お前達はパーティ連携も練習した方がいいのではないか」
「え?」
「パーティ連携ですか?」
「ぐふ。そもそも冒険者は一対一で戦うものではない。パーティを組み協力してそれぞれの強みを生かして戦うものだ」
「ヴィヴィの言う通りですね。個々の能力を上げるのも大切ですが、あなた達は既にパーティを組んでいるのです。そのパーティに合った戦い方を学ぶことも必要ですね」
「ぐふ、必勝パターンが出来れば戦いが楽になるだろう」
「「「はい」」」
「じゃあ、僕が相手するよ」
その言葉を聞いて新米女冒険者達が喜ぶ。
「リオ?」
リオが珍しく自分から対戦相手を申し出たのでサラは驚いた。
リオはそんなサラを気にする事なくマイペースに続ける。
「じゃあ、とりあえず三人で好きなようにかかってきなよ」
そう言ってリオが立ち上がった。
サラが驚いて確認する。
「え?今からするのですか?」
「ダメかな?」
「いえ、ダメではないですが」
リッキー退治の依頼を受けた村へはいつまでに行かなければならい、という約束はないが(もちろん有効期限はあるがまだ先で気にすることはない)サラとはして当初の予定から既に遅れているのでその遅れを取り戻したいと思っていた。
だが、彼女達のやる気もそうだが、それ以上にリオが協力的なのを見て訓練を優先にすることにした。
リオが次もやる気を見せるとは限らないからだ。
「わかりました。ではそうしましょう」
「「「はい!」」」
「ぐふ。リオ、きちんと手加減しないと死ぬぞ」
「そうだね。まあ、死ななければサラとアンリが何とかするよね」
「あのですね……」
「わたしに任せてくださいっ。あとわたしはアリスですよっ」
「うん、知ってた」
リオが歩き出してから「あ」と呟いた。
「こういう場合ってさ、何か条件をつけて達成できればご褒美をあげる、とかにすると力を発揮しやすいんだったかな」
「「「え!?」」」
新米女冒険者達がご褒美と聞いて目を輝かせた。
「そうだね……僕に擦りでもしたらご褒美をあげるよ」
「本当ですかっ!?」
「やった!」
「俄然やる気出ました!」
新米女冒険者達のモチベーションが目に見えて上がった。
そこにヴィヴィが付け加える。
「ぐふ、サラがな」
「ですねっ」
「おいコラ!」
「「「そうですか……」」」
新米女冒険者達のモチベーションが目に見えて下がった。
「おいこら……」
「ぐふ、サラ、モチベーションを下げてどうする?」
「あなたがやったんでしょう!」
「その、やっぱり、リオさんじゃダメですか?」
「いいよ」
新米女リーダーの控えめな問いかけにリオはどうでもいいように答えた。
「「「やったー!」」」
新米女冒険者達のモチベーションがマックスになった。
「じゃあっ、わたしから行きますっ!」
「「「え?」」」
真っ先に飛び出したのはアリスだった。
アリスがリオに向かって容赦なくメイスを振り回すが、難なくかわされ、足をかけられて転倒し、尻を踏まれる。
「あっ!」
アリスがなんか嬉しそうに見えるのは気のせいだろう。
サラが呆れた顔で言った。
「アリス、何邪魔してるんですか」
「わたしもっリオさんからご褒美ほしいですっ」
しかし、アリスの希望は叶えられず、サラとヴィヴィによって引きずられて退場させられた。
サラがリオに近寄り新米女冒険者に聞こえないように話をする。
「リオ、彼女達に必要なのは自信だと思います」
「そうなんだ」
「私の言いたいことはわかりますよね」
「そうだね」
だが、サラはすぐに自分が大きな過ちをしたことに気づいた。
リオは空気が読めないことには定評があるのだ。
サラが彼女達に自信を持たせるために手を抜け、と言ったことを理解しなかった。
リオは彼女達を容赦なく叩きのめして自信をつけるどころか、完全に自信を喪失させるのだった。
「私、やっぱり才能ない……」
三人の中で一番落ち込んでいた新米女盗賊が弱音を吐いた。
それを聞いたリオが彼女に優しい言葉をかける、
わけはなかった。
「そうだね」
リオがあっさりと頷く姿を見て更に落ち込む新米女盗賊。
「そ、そうですよね。私、やっぱり冒険者向いてないですよね」
「そう思うならやめたほうがいいんじゃない」
リオはどうでもよさそうな口調で言った。
これはリオの平常運転なのだが、リオを冷たいと思った新米女リーダーが抗議する。
「リオさん!流石にそれは……」
リオは新米女リーダーの言葉を遮った。
「人は平等じゃない」
「リオさん?」
「凡人は天才には勝てない。凡人が努力を続けて限界に達しても天才の限界は更に上にある。だからどうあがいても凡人は天才には勝てない」
珍しくリオが語っているので黙って聞いていたサラであるが、新米女冒険者達が更に落ち込むのを見て流石にこのままではまずいと思った。
「リオ、もう少し……」
リオはサラの注意を無視して続ける。
「でもそれはあくまでも天才が努力をし続けた場合の話だ。ほとんどの天才は調子に乗って努力を途中でしなくなる。もう誰も自分に追いつけないと思い込むからだ。限界を自分で決めるからだ。だから限界まで努力した凡人はほとんどの天才に勝る」
その言葉を聞いて落ち込んでいた新米女冒険者達が顔を上げた。
そして新米女リーダーが呟く。
「限界まで努力した凡人は天才に勝る……」
「と、ファーフィリアが言っていた」
「え!?ファーフィリアってあの六英雄の……」
「気がする」
英雄の言葉だと思い感動したのも束の間、一気に落とされる新米女冒険者達。
「え?気がする?」
「ど、どっちですか!?」
「リオさん!」
彼女達に詰め寄られてリオが首を傾げる。
「さあ。でも誰が言ってるにしても正しい。それは間違いない」
新米女冒険者達もその通りだと思った。
確かに自分達はリサヴィのみんなと比べれば凡人かもしれない。
しかし……、
新米女リーダーがリオに確認する。
「私の、いえ!私達の限界はまだ来ていない!そうですよねリオさん!」
「そうだね」
「ぐふ。当たり前だ。冒険者になったばかりのお前達に限界が来ているわけがないだろう」
新米女盗賊がリオに笑顔を向ける。
「すみませんリオさん!私、甘えてました!大して努力していないのに!まだ全然諦めるの早いですよね!」
「そうだね」
この後、新米女盗賊は吹っ切れたためか、あるいは何かの影響を受けたのか目に見えてわかる程上達していった。
それは新米女盗賊に限った事ではなく、新米女リーダーと新米女魔術士も同様であった。
その成長速度はとても凡人とは思えなかった。
結局、
新米女冒険者達はリオに一度も当てることは出来なかったが、当初の目的であるパーティ連携についてはそこそこ形になって来ていた。




