467話 新米女リーダーの失恋?
新米女魔術士は呪文を唱えようとして立ちくらみを起こした。
魔力の使い過ぎだ。
初級魔法とはいえ、新米魔術士がそんなに使えるわけがない。
倒れそうになる瞬間、誰かに支えられた。
アリスだった。
「あ、アリスさん、ありがとうございます」
「無理はダメですよっ。休憩ですねっ」
「あ、はい。でも……」
「休憩ですねっ」
「……そうします」
新米女魔術士はアリスのにっこり笑顔の前にそう答えるしかなかった。
そして昼食。
新米女冒険者達はリオの料理を大絶賛する。
そんな中で新米女魔術士が先ほど件を興奮しながら話し始める。
「……という事でリオさんのおかげで私の魔法は強くなったわ!いえ、もっと強力にするわよ!」
褒めれらたリオは他人事かのように全く表情を変えない。
その代わりと言ってはなんだがアリスが誇らしげな顔をする。
新米女リーダー達が興奮した新米女魔術士を落ち着かせようとする。
「そんなに興奮しないで」
「スープ溢れてるわよ」
「え?ああっ!」
新米女リーダーがリオに顔を向ける。
「リオさんて強くて料理が上手だってことは聞いていましたけど魔術にまで精通してたんですね」
「そうなんだ」
「あの、そこは『そうなんだ』じゃないと思いますけど……」
新米女リーダーが困惑する。
「リオさんはそういう人なんですっ」
アリスのまったくよくわからない説明に新米女リーダーは「はあ」と返事した。
「リオ、あなたはその話を誰から聞いたのですか?」
リオの話した魔術の理論はサラも知らない事だった。
そもそもサラがリオと会った時には神官の神聖魔法と魔術士の詠唱魔法の違いすら知らなかったのだ。
魔術士であるヴィヴィが話した可能性があるが、仮面で表情が読めないし、何も言わない。
サラの知らないところでナックに聞いた可能性も否定できないが、ナックがそこまで知っていたとしても詳しく説明するとは思えない。
もう一つの可能性として失った過去の記憶を取り戻したことであるが、ただの村人がそんな情報を知っているはずがない。
サラの質問へのリオの答えだが、
「さあ?」
とサラの予想した答えが返ってきただけだ。
リサヴィのメンバーはそれで納得、
はしないがいつものことなのでそれ以上追求しながったが新米冒険者達は当然納得しない。
「あの、それって」
サラがリオの代わりに疑問に答える。
「リオは過去の記憶を失っているのです。その時の記憶が蘇ってきたのかも知れません」
「そうなんだ」
「あなたの事を言っているのです」
「そうだった」
「リオさんってミステリアスなんですね」
「カッコよくて強くて博識で更にミステリアスなんてすごいです!」
新米女魔術士と新米女盗賊がうっとりした目をリオに向ける。
その様子を見てアリスがサラに囁いた。
「サラさんっ、出番ですよっ」
「はい?」
「いつものようにリオさんにちょっかいかける者達に鉄拳を喰らわしてやってくださいっ」
「人聞きの悪い事言わないで!」
アリスの言葉は効果覿面であった。
新米女冒険者達がサラに怯えた目を向けたかと思うとぱっ、とリオから離れたのだ。
「流石サラさん……痛いですっ」
アリスはサラにど突かれて頭を抱えた。
昼食後、
まだ新米女魔術士の魔力が回復していなかったので回復するまで軽く稽古をしてから出発した。
そして夜になり、キャンプスペースで少し遅めの夕食をとった。
新米女リーダーが今朝の事を思い出して話題に出した。
「そういえばギルドにいたあの冒険者達酷かったですね」
あの冒険者達とはクズのことである。
流石にFランク冒険者である彼女はCランク冒険者の事をクズ呼ばわりするのは抵抗があったようだ。
その話に他の新米冒険者達も乗ってくる。
「そうよね、あんなおかしな思考する人達が本当に実在するなんて」
「あんな常識の欠如した人達が冒険者試験に合格したなんてすごい不思議よね」
新米女魔術士の言葉に他の新米女冒険者達がうんうん、と頷く。
「ぐふ。まだマシになった方ではないか。前はもっといたぞ」
「話には聞いてます」
「皆さんが、いえ、サラさんとアリスさんが“クズコレクター能力”で引き寄せてまとめて一掃したんですよね」
「は?」
「ええっ!?」
二人が驚いた表情をするのを見て新米女リーダーはまずい事を言ったかも、と不安顔をする。
「あの……」
「ぐふ。もうバレバレだな」
「黙りなさい!」
「あのっ、“わたしは”無関係ですっ。そんな能力はありませんよっ。わたしはっ」
「アリス、私にはあるような言い方しないでください。私にもありません」
サラが新米女リーダーに尋ねる。
「その変な噂をどこで聞いたのですか?」
「あの、噂というか……」
「演劇です」
「演劇?」
「前に見た演劇がリサヴィの、皆さんの冒険を元にしたという話でその中でサラさんとアリスさんの役の人がコレ……、その能力を使ってク……不良冒険者を引き寄せて一掃するんです」
「……」
「そういえばっ、前にもそんな話を他の冒険者がしてましたよねっ」
「そうでしたね」
どうやらちょっと前まで、リオ達がマルコに来る前に旅劇団がやって来ていて上演していたらしい。
ヴィヴィが呆れた顔をして(と言っても仮面で見えないが)言った。
「ぐふ。新米冒険者が碌に依頼も受けずに演劇鑑賞とはいいご身分だな」
「い、いいでしょ!息抜きくらい誰だってするでしょ!」
「ぐふ。どっちが息抜きなのやら」
「……もしかしてと思ってたけどさ。ヴィヴィ、あなた、私に気があるんじゃないの?」
そう言った新米女リーダーは自分の発した言葉が恥ずかしかったのか顔が赤かった。
ヴィヴィはといえば「ぐふ?」と首を傾げるのみ。
「何かとちょっかいかけてくるじゃない」
「ぐふ。私はな、ダメ人間を見ているとからかいたくなるのだ」
「だ、誰がダメ人間よ!」
「はっ!?」
アリスが突然大声を上げた。
何事かと皆の注目を浴びる中でアリスは真剣な目をヴィヴィに向けながら言った。
「ヴィ、ヴィヴィさんもっサラさんやマウさんと同じく両刀っ!?このパーティでノーマルなのは私とリオさんだけ……いたいですっ」
アリスはヴィヴィにど突かれ頭を抱えた。
今の会話を聞いて新米女リーダーは動揺した表情でヴィヴィを見た。
「あ、あれ?あの、ヴィヴィ」
「ぐふ?」
「あなた、もしかして女、なの?」
「ぐふ。どうだろうな」
「いやっ、そこは『どうだろうな』じゃないでしょう!!」
「ぐふ。そう言えなくもない」
ヴィヴィは面倒くさそうに言った。
新米女魔術士がボソリと言った。
「あ、失恋した」
「だ、誰が失恋よ!?失礼ね!そんなんじゃないわよ!だ、大体なんで私がヴィヴィなんかに!!」
そう言った新米女リーダーだが、ちょっと元気がなかった。




