465話 新米冒険者研修再び
モモが案内した会議室にリオ達が席につく。
空いている席に先ほどの新米女パーティ、そしてついて来た冒険者達が席につく。
あっという間に席は埋まり、座りきれない者達は立っていた。
全員が本当に初心者、Fランクかは非常に怪しいがモモは特に確認する事なく話を始めた。
「実は以前、リサヴィの皆さんに新米冒険者研修をして頂いたことがあったと思うのですが」
「あなたに無理矢理ね!」
モモはまたもサラの嫌味をスルー。
「それがきっかけでその後も新米冒険者研修を続けていたのですが、最近はカシウスのダンジョンに向かう者が多くて研修の指導員を引き受けてくださる人がいなくて困っていたのです」
「そうなんだ」
「ほんとリサヴィの皆さんが立候補してくれて助かりました」
「そんなことしてません」
サラは即否定したが、その言葉はモモの耳を素通りした。
モモがサラの抗議を聞き流して先を進めようとしたときに新米女パーティとは異なる冒険者から要望が出た。
「ダンジョン探索の指導をしてほしい!」
その声にモモが頷く。
「そうですね、今回は無理ですが、次回ということでどうですか?」
「なんで次もあるみたいに言うんですか。そもそも……」
「ぐふ。問題外だな」
ヴィヴィがサラの文句を遮ってその質問を拒否した。
要望を出した冒険者が不満そうな顔で尋ねる。
「ど、どうしてだよ!?」
「ぐふ、カシウスのダンジョンの入場許可はCランク以上だった。他のダンジョンもFランクで入れるものはなかったはずだ。つまり新人ではない」
質問した冒険者が悲しそうな顔をしたが、その通りなので言い返せなかった。
その後にサラが補足する。
「現実的な問題もあります。私達はダンジョン探索の経験が少なく、アドバイスできる立場ではありません」
「それはおかしいだろう!?先日のクズが起こした事件を解決してるんだしさ!」
「それは他のパーティがいたからです」
「それって……」
「パーティメンバーを見ればわかると思いますが、私達のパーティにはダンジョン探索に必須とも言えるクラス、盗賊がいません」
「あ……」という声が聞こえる。
「前回は他のパーティに盗賊がいたので困らなかっただけです」
サラの答えで完全に沈黙した。
ここに集まっているのが新米冒険者でなければ「俺(私)をパーティに入れて(くれ)」と立候補する盗賊が現れただろう。
いや、実のところ、Fランク冒険者以外もこの場にいた。
先の要望を出した冒険者もFランク冒険者ではなかった。
しかし、下手に立候補なんかすれば新米冒険者ではないとバレてこの場から追い出されることは明らかだったので言いたくても言えなかったのだ。
クズがいれば間違いなくそんなことは関係なしに立候補して場を乱したであろうがギルドの警備員の選別は見事で一人もいなかった。
モモは研修内容について話し始めた。
「さて、研修ですが今まで通り……」
「南の森で行いましょう」と続けるつもりであったがリオに割って入ってきた。
「リッキー退治は?」
「え?」
リオは研修のことではなく、彼の本来の目的であるリッキー退治の依頼を見せろ、という意味で言ったのだがモモは研修をリッキー退治で行うと言ったのだと勘違いした。
モモは素早く頭を回転させる。
(それもいいかもしれないわね。残っているリッキー退治の依頼はどれも徒歩で片道二日はかかるからキャンプも出来るしこっちの方がより実践的だし、きちんと依頼も消化できるわ。あの報酬でこの人数では確実に収支はマイナスになるけど皆さんの事だからまた想定外の魔物を倒して辻褄を合わせるわよね)
モモが笑顔をリオに向ける。
「わかりました。では今回の研修はリッキー退治にしましょう」
「「「え!?」」」
その言葉を聞き、新米女パーティが困惑する。
彼女らもまた研修先はいつもの南の森だと思い込んでいたのだ。
研修がリッキー退治だと聞いた途端、会議室に集まっていた冒険者達が去っていった。
リッキー退治はランクが低いのに失敗する可能性が高く、報酬も安い。
リサヴィがいるので失敗はないとしても報酬は高が知れている。
どうやら集まってきた者達のほとんどが前回の研修で美味しい思いをした新米パーティの事を知っていて、それを期待していたようであった。
風通しのよくなった会議室を見てヴィヴィが言った。
「ぐふ。リオ、見事だ」
「そうなんだ」
そう呟きながらリッキー退治の依頼を眺めるリオであった。
新米女パーティはリッキー退治と聞いて困惑していたが、自分達から言い出した事であり、会議室に集まって来た冒険者の数から見てもリサヴィ人気は疑いようはなく、これを逃したら二度とチャンスは巡って来ないとわかっていたのでリッキー退治を受け入れた。
会議室を出てきたリオ達に一人の冒険者が近づいてきた。
「リサヴィの皆さん!」
「あなたは」
「吟遊詩人で盗賊のイスティです」
「そうでしたね。それで何か?」
「皆さんは新米冒険者研修を行うんですか?」
「はい、そういうことになりました」
「そうですか。ではカシウスのダンジョンへ向かう際には……」
「どきやがれ!」
そう言って話している途中のイスティを押しやって前に現れたのは特別依頼のときに強引について行こうとして排除されたクズであった。
「お前ら、新米冒険者研修って何やんだ?」
「そんなことあなた達には関係ありません」
「そう言うなって。俺らも指導員をやってやってもいいぞ」
「だな!」
「もちろん、報酬によるがな!」
「結構です」
「安心しろ!俺達はCランク冒険者だ!」
そう言ったクズリーダーをはじめメンバーの顔は誇らしげだった。
そんな彼らにヴィヴィの冷めた声がとぶ。
「ぐふ。クズ指導員はいらん」
「「「ざけんな!!」」」
クズは見事にハモった。
喚き散らすクズのところへギルド職員がやって来た。
「冒険者に絡むのはやめてください」
「ざけんな!」
「俺らは親切で手を貸してやろうと言ってんだ!」
「だな!」
ギルド職員はため息をついて言った。
「リサヴィが受けた依頼はFランクのリッキー退治ですよ」
「「「な……」」」
「今回はリサヴィの皆さんの善意で行われるもので指導員報酬はありませんし、Fランクの依頼なのであなた方が受けられる依頼でもありません」
クズはその話を聞き、素早く頭を回転させる。
クズリーダーが「ちっ」と舌打ちし、不機嫌な表情で言った。
「サラ、悪いが今回は遠慮させてもらうぜ」
「だな!俺らも暇じゃねえしな」
「今度はもっといい依頼を受けた時に話を持ってこいよ」
「「「「……」」」」
彼らの頭の中ではサラが依頼の手伝いを彼らにお願いした事になっていたようだ。
サラは反論しない。
こういう頭のおかしい連中の相手をするのは慣れていたからだ。
クズは言いたいことを言うと堂々とした態度でギルドを出ていった。
と、思ったらすぐに戻ってきた。
「そんでいつ帰ってくんだ?」
サラ達は態度のでかいクズの寄生根性に呆れた。
もちろん、教えてやらなかった。




