464話 新米女パーティの相談
カシウスのダンジョン効果によりマルコを始めとする近隣ギルドは潤っていた。
ただ、全てが良い方向へ向かっていたわけではない。
Cランク以上の冒険者はカシウスのダンジョン探索を優先するため、通常の依頼を受ける者が少ないという問題が起きていたのだ。
ダンジョン探索は毎日好きな日に出来るわけではない。
ダンジョンへ一度に大勢の冒険者が詰めかけるとお互いが邪魔になり揉めたり、最悪冒険者同士で殺し合いが起きたりするのだ。
そのため、冒険者ギルド、レリティア王国は相談してそれぞれ、探索する者達の人数を制限していた。
ダンジョンに入れない日に他の依頼を受けるのでは?と思うかもしれないが、そういう者は少数派だった。
多くの者は次にダンジョンへ入るときのために体を休めたり、遊んだりして英気を養う事を選ぶのだ。
リサヴィはリッキー退治の依頼を終えてマルコギルドに戻ってきた。
その姿を認めてヴィヴィに駆け寄って声をかける者がいた。
「ヴィヴィ、久しぶりね」
ヴィヴィに声をかけてきたのは女性だけで構成されたパーティのリーダーだった。
どことなく初々しい感じがするところを見ると冒険者になったばかりのようだ。
声をかけられたヴィヴィは首を傾げる。
その態度を見てリーダーはムッとした。
「私を覚えていないの!?あんだけボコっておいて!」
「ぐふ。お前は今までボコった奴の顔をいちいち覚えているのか?」
「えっ?」
リーダーはヴィヴィに当然のように言われ、一瞬思考が停止する。
が、すぐに我に返り、ヴィヴィに叫んだ。
「そんなことした事ないわよ!ってか、あなたどんだけボコってんのよ!」
「ぐふ。冒険者なら日常茶飯事だろう」
「え……?そ、そうなの?」
「ヴィヴィ、そんなことしているのはあなただけです」
「ぐふ。お前に言われるは心外だ」
「……なんですって?」
「落ちついてくださいっ。大丈夫ですっ。どっちもどっちですよっ」
何が大丈夫なのかわからないが、リオは「そうなんだ」と納得したようだった。
仲裁したアリスをサラとヴィヴィがお礼にど突いた。
「痛いですっ」
そこへイラついた声でリーダーが割って入ってきた。
「ちょっと聞いてる!?」
「ぐふ?」
「あなた本当に覚えていないの!?冒険者養成学校で私を容赦なくボコったでしょうが!」
リーダーは顔を真っ赤にしながらもその時の状況を説明する。
「ぐふぐふ。あの時の甘ちゃんか。冒険者になったのか」
「見ての通りね!」
「ぐふ。そうかよかったな。礼ならいいぞ」
「なんで礼を言うのよ!?」
ヴィヴィは「うるさい奴だ。向こうへ行け」とでも言うようにしっしっと手を振ってリーダーを追い払おうとする。
「な、何よその扱いは!?まだ話は終わりじゃないわよ!」
「ぐふ。そうか、リベンジしたいか」
「ち、違うわよ!」
「ぐふ。ではなんだ?」
ヴィヴィだけでなくリサヴィ全員に見つめられ、リーダーはさっきまでの勢いはどこへ行ったのか、急に口ごもる。
彼女のパーティメンバーに突かれて話を始めた。
「そ、その、あ、あなた達、以前に新人冒険者の指導をしてたんでしょ?」
「ぐふ。それがどうした?」
「その……私達にもお願い、できない?」
「ぐふ?お前、さっきまであれほど生意気な事を言っておいてよく言えたな」
「う、うるさいっ!」
「ちょっといい加減にしなさいよ!」
リーダーに交渉を任せていた他のメンバーだったが、埒があかないと見て会話に割って入って来るとリーダーに詰め寄った。
「だ、だってヴィヴィの態度を見るとつい……」
「ついじゃない!」
「もうあなたには任せておけないわ」
「そうね!」
「ちょ、ちょっとみんな酷い!」
リーダーが目をうるうるさせて同情を誘うが同性だからかメンバーには全く効果はなかった。
彼女らはリーダーを無視してリオに顔を向けた。
そして、
「お願いします。リオさん!」
リーダーを除くパーティーメンバーがおねだりするような、すがるような目をリオに向ける。
そのような行為をするのは慣れていないようで、初々しい。
その姿にそそられる冒険者は多かっただろうが、残念ながらリオは心を動かされたようには見えなかった。
ただ、アリスは不機嫌な顔をする。
「あの子達、ちょっと近過ぎないですかっ?」
「ぐふ」
「サラさんっ、いつものようにちょっとボコって来てください」
「誰がよ」
リオが彼女らに答える前にギルド職員がしゃしゃり出てきた。
モモである。
「話は聞かせて頂きました」
「あなた、暇人ですか?」
サラの嫌味はモモの鋼鉄の笑顔を崩すことはできなかった。
モモは聞こえなかったフリをして話を進める。
「今の話、私が取りまとめさせていただきます」
「何言ってるんですか。あなたの出番はありませんよ」
「いえいえ。マルコ所属の冒険者が困っているのです。ギルド職員の私が手助けしないで誰がするのですか?」
新米女パーティにはモモが冒険者思いのギルド職員のように見えて感動したようだが、サラは騙されない。
「それにですね、お話しするのが遅くなりましたが私はリサヴィ担当になりました」
そう言ったモモの顔はなんか誇らしげだった。
「は?」
サラは唖然とする。
ヴィヴィとアリスも驚いた。(ヴィヴィは仮面で顔は見えなかったが)
パーティに担当がつく事はある。
ただ、それはBランク以上の高ランクであること、そしてそのギルド所属である場合である。
そのどちらも満たしていないリサヴィに担当がつくのはとても珍しいことであった。
「初耳ですが」
「すみません。バタバタしておりましたので。改めてよろしくお願いしますね」
モモがにっこりと笑顔を向ける。
ちなみに担当には役職を持ったギルド職員がなるのが普通であったが、条件を満たしていないリサヴィなのでどうでもいいことだろう。
「では詳しい話は会議室でしましょう。どうぞこちらへ」
「嫌です」
サラは即拒否した。
しかし、モモは笑顔を崩さすリオに顔を向ける。
「リオさん、新しいリッキー退治の依頼がありますのでそこでご相談させてください」
「わかった」
「ちょっとリオ!」
小躍りしながら先頭を進むモモにリオがついていくのでリサヴィのメンバーもしぶしぶ後に続き、新米女パーティが嬉しそうな顔でその後に続く。
更にその話を近くで聞いていた低ランク冒険者達もついてきた。
モモは彼らを止めなかった。
中には明らかに初心者と思えない者やおっさん冒険者もついて来たが、こうなる事がわかっていたかのようにギルドの警備員が彼らを止めにはいる。
リオ達の背後で「ざけんな!」と叫ぶ声や「俺はこれでもFランク冒険者だぞ!」と叫ぶおっさん冒険者の声が聞こえたが、彼らが通されることはなかった。




