463話 等価交換
宿屋の借りた部屋に入るとアリスがリオに話しかけて来た。
「リオさんっ」
「ん?」
リオが顔を向けるとアリスは真剣な表情をしていた。
「あのっ、さっきの変態パーティが言っていたことなんですけどっ、なんでリオさんはサラさんのげんこつを避けないんですかっ?」
「ぐふ。確かにな。昔ならともかく、今のお前なら避けられるだろう」
サラは否定しない。
全力なら別であるが、注意するために手加減して殴るものなら避ける事は出来るとサラも思っていた。
ヴィヴィの同意を得てアリスは自信を持つ。
「ですよねっ。わたしはともかく……はっ!?」
アリスは何かに気づいたような顔をしたかと思うと恐る恐るリオに尋ねる。
「まさかっ、リオさんもサラさんと同じ理由なんですかっ!?サラさんがリオさんに触れたい本心を隠すために殴るようにっリオさんもまたサラさんに触れられて嬉しいから敢えて受けているとかっ!?」
「おいこらっ!」
サラの抗議はアリスには届かなかった。
肝心のリオは無表情のまま殴られている理由を言った。
「美女には殴られた方がいいんだって」
「えっ?」
「サラって美人なんだよね」
「ぐふ。私ほどではないがな」
サラがヴィヴィを無言で睨む。
「それでっ、素直に殴られているのですかっ?」
「後で等価交換するしね」
「えっ?」
「は?」
「ぐふ?」
リオの口から飛び出した意味不明な言葉に三人は首を傾げる。
「等価交換っ、ですかっ?」
「うん」
リオは相変わらずの無表情を保ったままとんでもない事を口にした。
「十発殴られたら一発“やれる”んだって」
「「「!!」」」
アリスが顔を真っ赤にして尋ねる。
「リ、リオさんっ、い、一発ってあのっ、そのっ、あれですかっ?」
リオは無表情のまま頷く。
「……またナックですか」
サラが呆れ顔で言った後、アリスが叫んだ。
「やられましたっ!またもサラさんのズル賢さに完敗ですっ!!」
「おいこらっ」
アリスはサラの抗議を無視して叫び続ける。
「自分の欲望を満たしっ、ストレスを解消するだけだと思ってたのにっ、そんな真相が隠されていたなんてっ!」
「そんな真相はありません!」
「わたしはサラさんのズル賢さに肩を並べたと思っていましたっ!でも全然でしたっ!いい気になっていた自分に腹が立ちますっ!!」
「私はあなたのその考えに腹が立ってるけど!」
サラはアリスに自分の言葉が届かないのでリオに顔を向ける。
「リオ、そんな等価交換はありません」
リオが首を傾げる。
「何を言ってるのかな?」
「それはこっちのセリフです。ナックのいう事を……」
「これは絶対だよサラ」
「え?」
「サラ“如き”が変えられることじゃない」
「な……、ご、如きとはなんですか!」
サラの怒りの鉄拳がリオを襲う。
「あっ、言ってるそばからまたっ」
アリスの叫びでサラは自分がリオを殴っていた事に気づく。
「ち、違うのよ!」
「ぐふ。何が違うのだ?まさか『殴っていない』などとは言うまいな?」
意地が悪いことでは定評のあるヴィヴィである。
相手がサラであれば全く容赦しない。
「そ、それは、確かに殴りましたけどそれはリオが……」
「ぐふ。殴る必要はなかったと思うぞ」
「わ、わたしもそう思いますっ」
「う……」
ヴィヴィはサラが動揺する姿を見て満足げな表情を浮かべた、
と言っても仮面で見えないが。
ヴィヴィは今のリオの話の中で浮かんだ疑問点をあげる。
「ぐふ。リオ、今の話だが、もうとっくに十発以上殴られているだろう。100発は超えているハズだが……」
「今ので436発だよ」
ヴィヴィの問いにリオは考える素振りも見せずに即答した。
「な……」
「ぐふ。そうか。それで何故今まで等価交換しなかったのだ?」
「最近思い出したんだ」
その言葉にヴィヴィ、だけでなく、サラとアリスも驚いた顔をする。
「それは昔の記憶が蘇ったと言うことですか?」
「どうだろう?」
「どうだろうって、あなたね……」
「ぐふ。まあいい。そうすると43発はいつでも交換可能と言うことだな」
「そうだね」
「そ、そんなの認めません!」
「サラが認めるとか認めないとか関係ない。これは決まっていることだから」
サラが抗議するよりヴィヴィが口を開くのが先だった。
「ぐふ。それでいつするのだ?」
「ちょ……」
「そうだね。数が中途半端だから500発になったらまとめて交換するよ」
「ぐふ。ならあと64発か」
「私は認めません!」
しかし、サラの叫びは誰にも届かなかった。
アリスがはっ!?とした顔をして叫ぶ。
「サラさんはわたしも意味なく殴ってますっ!まさかっと両刀!?マウさんと同じく両刀使いっ!?」
「そ、そんなわけないでしょう!!ってか、何が意味なくですか!あなたもおかしなことを言うからでしょうが!」
「……」
しかし、アリスはすすすっ、サラから距離をとる。
「おいこら!」
サラはかつて見た未来予知を思い出した。
自分が誰かの子供を身ごもっていた未来を。
(まさか、あれってこれで……)
「ぐふ。もうやられる時のことを想像して楽しんでいるようだな」
「そんなことしてません!」
「流石ですっ!サラさんのその性欲の強さに恐怖しますっ!嫉妬しますっ!」
「だから違うわよ!」
しかし、サラの抗議は受け入れられなかった。
こうしてサラの貞操喪失までのカウントダウンが始まったのである。




