462話 S&Mズ
リオ達がリッキー退治を終えてその村唯一の宿屋へ向かう途中、目の前に一組のパーティが現れた。
「あなた達がリサヴィね」
そう言って話しかけて来たパーティのリーダーは男にも拘らず女口調で怪しい雰囲気を醸し出していた。
それはリーダーだけでなく、パーティメンバーも同様であった。
サラが警戒しつつ問いに答える。
「そうですがあなた方は?」
「わたし達はS&Mズよ!」
リーダーいや、Mリーダーがそう叫ぶと同時にパーティメンバーであるM戦士とS女盗賊が決めポーズをとる。
「……ぐふ。サラ、これはまたすごいのを引き寄せたな」
「黙りなさい!」
サラとヴィヴィの言い争いを他所にMリーダーがマゾヒスティックな笑みを浮かべてサラを見つめる。
「あなたが“鉄拳制裁”のサラね」
サラはヴィヴィとの言い争いを中断して抗議する。
「その二つ名で呼びのはやめてください」
しかし、Mリーダーはサラの言葉を無視して続ける。
「噂通りSの匂いがプンプンするわ!」
「は?」
Mリーダーがヴィヴィを見る。
「そしてあなたが“暴力の盾”ヴィヴィね」
「ぐふ?」
「あなたからも噂通りSの匂いがプンプンするわ!」
「ぐふ……」
更にMリーダーがアリスに目を向ける。
「あなたがアリスね」
「あっ、はいっ」
珍しく正しく名前を呼ばれてちょっと嬉しそうな顔をするアリス。
「噂通りMの匂いがプンプンするわ!」
「なんですかっ!そのMって!?」
アリスの抗議を聞き流し、Mリーダーはリオを見た。
そして、首を傾げる。
「あなたがリオよね?」
「そうだね」
「……噂ではいつもサラに殴られて調教されていると聞いていたけど……」
「おいこらっ!」
Mリーダーはサラの抗議をスルー。
「でも“冷笑する恐怖”って二つ名があるくらいだからSとMを兼ね備えた逸材だと思っていたのだけど……」
Mリーダーはリオをじっとしばらく見つめてから言った。
「……あなたからはMの匂いが全くしないわ。それどころかあなたが一番Sの匂いが強いわ!これほどのSの匂いを放つ人なんて初めてよ!」
リーダーは興奮して両腕で身体を抱きしめ身を震わす。
「そうなんだ」
「こんなSで固めて作ったようなリオを殴りまくるサラあなたって……両刀!?Mを秘めているの!?」
「そんなもの秘めていません。あとSでもありません」
「嘘ね!」
「な……」
「大体あなたもよリオ!」
「ん?」
「何故Sから生まれたようなあなたがサラにいいように殴られているの!?あなた程のSなら殴られたら軽く百倍にして返すハズよ!」
「そうなんだ」
リオの反応が乏しいのでMリーダーは戸惑う。
「……まさかこれほどのSでもMを秘めていると言うの?」
必死にリオの中からMの匂いを嗅ぎ取ろうとしているMリーダーにサラはムッとした顔で尋ねる。
「それで何か用ですか?」
Mリーダーはサラの言葉で目的を思い出す。
「……え?ええ、もちろん勧誘よ」
「お断りします」
しかし、Mリーダーはサラの言葉を無視。
「見ての通り、わたし達のパーティはS一人にM二人でしょ。非常にバランスが悪いのよ」
「あたいへの負担が半端じゃないのよ!」
そう言ってS女盗賊がサディスティックな笑みを浮かべながらムチをぱちん!と鳴らす。
「そんなこと知りません」
彼らはサラの言葉をスルー。
「以前はSが二人だったのよ。でもね、彼は魔物を調教しようと突っ込んでいって殺されちゃったの」
「そんな事聞いてません」
「ぐふ。バカだな」
Mリーダーには二人の言葉は届かなかったようだ。
「そこで急遽Sメンバーを募集することになったのよ。そしてその白羽の矢に立ったのがサラ……」
「ぐふ。長い間世話してやったが、達者でな」
「あなたは黙ってなさい」
「そうよヴィヴィ。あなたにも白羽の矢が立ったのよ」
「ぐふ……」
「あら!お元気で!」
サラがヴィヴィへ仕返しをする。
「ぐふ。お前は黙ってろ」
「なんですって!?」
二人が言い合いするのを気にせずMリーダーは続ける。
「しかし、あなた達以上の逸材を見つけてしまったわ。そう、リオよ!」
「ん?」
M戦士が紅潮した顔でリオ達を見ながら言った。
「選り取り見取りでゾクゾクしてしまうな!リサヴィがこれほどSの塊だったとは思わなかったぜ!」
「何がSの塊ですか!」
引いた顔をしているアリスにM戦士が優しく話しかける。
「大丈夫だ。お前はまだ俺達には遠く及ばないが可能性は無限大だ!お前も立派なMになれるぞ!」
「なっ、なりませんっ!てかっ、わたしはMじゃありませんっ!」
Mリーダーが心底申し訳なさそうにサラとヴィヴィに頭を下げる。
「ごめんなさいね。リオを見るまではあなた達のどちらかに決めようと思っていたのよ。まさかリオがあなた達以上のSだとは思っていなかったから」
「謝る必要はありません。全員入りませんから。いえ、ヴィヴィは入るかもしれませんけどね」
「ぐふ。サラなら持ってけ泥棒」
「なんですって!?」
再びサラとヴィヴィが言い争いを始める。
そこへS女盗賊がMリーダーに話しかける。
「リーダー」
「なに?」
「この際、リサヴィ全員に入ってもらってもいいんじゃない?S四、M三はそんなにバランス悪くないわ」
「……確かにそれもありね」
「こっちにはありません」
「本当はね、パーティバランスを考えたら神官か魔術士なのよ。でもそうするとサラ一択になってしまうでしょ。それじゃ他の者達が可哀想じゃない?」
「ぐふ。誰が可哀想なんだ?」
「しかし、リーダー、やっぱり七人は多すぎるぜ」
「……そうよね。やはり一人が現実的よね」
「悩む必要はないと言ってるでしょ」
しかし、サラの言葉は彼らには届かない。
「決めたわ!リオ!」
「ん?」
「あなたのS力をわたし自ら調べてあげるわ!結果よってはあなたを選ぶわ!」
「そうなんだ」
「さあリオ!思いっきり来なさい!」
Mリーダーがリオに顔を向け、くいっ、と顎を突き出す。
リオはご期待に応えてMリーダーの顎を蹴り上げた。
「ああっ」
Mリーダーは宙を舞い、ぼてっと落ちて気絶した。
その顔は幸せそうであった。
「あっ!?リーダー!ずるいぞ!一人でイっちまった!!リオ!俺にも頼む!」
「やめなって!」
M戦士をS女盗賊が止める。
「なんで止める!?」
「冷静になりなよ!リーダーがこんなあっさりイっちまったんだよ!あんた死ぬかもしれないよ!!」
M戦士がふっと笑った。
「……いいんだ。男にはやらなければならない時があるんだ」
「それは今じゃないと思います」
サラの冷静なツッコミは彼らの世界には届かなかった。
S女盗賊は諦めたような、そして呆れたような表情で言った。
「……あんたがそこまで考えてんならもうあたいは止めないよ。好きにやりな」
「ありがとよ。さあ、リオ!俺も頼む!……おうっ!?」
リオに蹴られてM戦士が宙を舞う。
ぼてっ、と落ちてこれまた嬉しそうな顔で気絶した。
二人を見てS&Mズ最後の一人となったS女盗賊が寂しい笑みを浮かべる。
「酷いよあんた達。あたいを置いてイクなんてさ……でも、あたいもすぐにイクよ!」
S女盗賊が獲物を狙うような目でアリスを見た。
「えっ?」
「あたいもイかせもらうよ。……行くよアリス!」
「えっ!?ええっー!?」
問答無用でアリスに襲いかかるS女盗賊の前にリオが立つ。
「なっ!?リオ!?ちょ、ちょっと待ちな!あたいはSでMじゃ……ああっ!?」
リオの蹴りで宙を舞うS女盗賊。
「……あ、たいはMじゃない……のに……でも、いいか……も」
S女盗賊もまた幸せそうな顔で気絶した。
「ん?間違えた?」
「ぐふ。問題ない」
「ですねっ」
「……なにこれ」
ちなみに彼らS&Mズはクズではない。
性癖に問題があるだけできちんと依頼をこなすパーティだった。
しかも皆Bランク冒険者であった。
人は見かけによらないものである。




