461話 クズゴーレムは動かない
カシウスのダンジョン内を荷台に載せられたゴーレムがフェラン製の運搬専用に特化された魔装士達によって運ばれていた。
護衛がその周囲を警戒していた。
この集団にあのクズ二人もいた。
彼らはギルドから入場を拒否されたにも拘らずダンジョンに入った。
それでも王国の許可をとっているため素直にダンジョン探索をしていれば罪に問われることはなかっただろう。
だが、彼らはギルドの特別依頼を邪魔した。
流石にこれは許される事ことではない。
クズは護衛達にも自分達の妄想話を聞かせて開放を要求したが誰からも相手にされなかった。
二人の仲間を失ったことで同情を誘おうとしたが、その努力も無駄に終わった。
このままギルドに連行されればよくても降格、最悪冒険者ギルド退会もあり得る。
ここに至ってクズもそのくらいの事は理解出来た。
ならば残された手はひとつ。
逃げ出して有耶無耶にする事だ。
幸いにも皆、彼らの名を知らないようでクズとしか呼ばない。
だからこの場を逃れればどうとでもなると考えていた。
クズは武器と荷物を奪われていたものの手足は自由で、今も自分の足で歩いていた。
護衛達はクズが武器を持っていない事もあり、少なくともダンジョンにいる間は逃げださないと思っていた。
普通の人間であればそうであろう。
だが、相手はクズである。
普通の考えが通用するはずはなかったのである。
クズリーダーの目にゴーレムが映った。
ゴーレムはうつ伏せの状態で運ばれており、背中の穴は丸見えであった。
本当は小型ゴーレムが再合体することを防ぐために仰向けにしたかったのだが、ゴーレムに取り込まれるのを避けるために触れるのを最小限にした結果、うつ伏せのままとなったのである。
クズリーダーの頭に逃走手順が浮かぶ。
まずゴーレムと合体して奪われた荷物を奪い返す。
そして逃走し、振り切ったところでゴーレムを乗り捨てる。
もし、しつこく追ってくる者がいたらゴーレムの剛腕で容赦なくぶっ飛ばす。
ここにリサヴィがいれば話は別だが、今いる護衛ならばその程度の事は楽勝でできると思った。
クズリーダーは自分の計画が完璧すぎて思わず笑みが浮かぶ。
その笑みを見た護衛が呟いた。
「気持ち悪い奴」
小休止している時にクズリーダーは計画を実行に移した。
クズリーダーは荷台に飛び乗るとゴーレムの背中の中に頭から飛び込んだ。
「なっ!?」
護衛達は完全に油断していた。
クズの一人がゴーレムと合体して死んでいることもあり、そんなバカな事をするはずないと全く警戒していなかったのである。
皆がゴーレムの起動を警戒して慌ててその場から離れる。
護衛達が武器を構えているとゴーレムの頭部のあったところからクズリーダーの頭がぴょこっ、と生えた。
その顔は青白く生気を失っていた。
だが、その顔はどこか嬉しそうだった。
「力を手に入れたぞ!これで俺は無敵だ!」
だが、そう言ってすぐクズリーダーは首を傾げる。
「……あれ?全然動かねえ。なんか力が抜けていく」
「当然だ」
護衛の魔術士がホッとした表情で言った。
「な、なんだと!?」
「ゴーレムは魔力で動くのだ。お前らの仲間が動かせたのは魔術士だったからだ。魔力の少ないお前ごときが動かせるはずがないだろう」
「そんな……ちょ、ちょ待てよ!?」
「何を待つんだ?」
その時だ。
「まだ諦めるのは早いぜリーダー!」
クズ戦士はそう叫ぶとこれまた荷台に飛び乗り、ゴーレムの背中の穴に頭から飛び込んだ。
「マジかよお前ら!?」
「正気か!?」
「これが真なるクズって奴か!」
護衛達が言いたい放題しているうちにクズリーダーの頭の隣にクズ戦士の頭がぴょこっ、と生えた。
クズ戦士が誇らしげな顔で叫んだ。
「これで魔力は二倍だぜ!」
「お前って奴は……」
「行こうぜリーダー!」
「おう!」
感動的な場面だったようだが、ゴーレムは空気を読まなかった。
ピクリとも動かなかったのである。
それは当然のことであった。
魔術士でもないクズ戦士が加わったところで魔力量はクズ魔術士一人分にも遠く及ばない。
その程度の事も理解出来ないクズであった。
魔術士が呆れ顔をする。
「だからお前ら如きじゃ動くわけがないって言っただろ。ほんとクズは人の話を聞かないな」
「ざけんな!だから二倍にしたんだろうが!」
「……そいつは悪かったな」
魔術士は首を横に振り、護衛のリーダーを見て頷く。
「みんな休憩に戻っていいぞ」
見張りを除いて護衛達が戦闘体制を解く。
クズリーダーが非難の声を上げる。
「おいおい、人が苦しんでるんだぞ!」
「そうだ!お前らには人の情はないのか!?」
クズに誰も返事しない。
そこでクズリーダーは少しだけ態度を改めた。
「なあ、わりいけどよ、プリミティブを背中の穴に入れてくれ。そしたら動くと思うんだ」
もちろん、「わかった」などと言うわけはない。
「アホか。お前らの逃走に手助けするわけないだろ」
「ケチだな!」
「しゃーねえなあ。じゃあよ、俺らのを使っていいからよ」
「だがな!どさくさ紛れに盗むなよ!」
「……お前ら、俺の話ちゃんと聞いてたか?って、いうかお前ら、俺らのプリミティブを使わせる気だったのか?」
護衛のリーダーはクズの図々しさに呆れる。
「そう言うなって」
「俺らの仲じゃねえか」
「どんな仲だ!?」
前もって話を聞いていたが、想像以上に頭のおかしいクズを相手にして護衛達は皆精神力をごっそりと削られた。
「もう話しかけるな」
「ちょ、ちょ待てよ!助けてくれよ!」
「力が抜けていくんだ!このままじゃ俺ら死んじまう!」
クズは唯一自由に動く口を動かして必死に助けを求めるが護衛は無情であった。
「知るか!大人しくしてればいいものを逃げようとするからだ!」
「そ、そんな事言うなよ!なあ、頼むよ」
「じゃ、じゃあよお、ちょっと足を引っ張って抜いてくれ!首から下の感覚が全くないんだ!」
護衛のリーダーがゴーレムの背から生える二つの下半身にチラリと目をやった後答えた。
「そんな危険なことをする気もさせる気もない。そのまま大人しくしてろ。魔術士ギルドで運が良ければ助けてもらえるだろう」
「そこまで持たねえよ!」
「な、なんか頭がぼうっとしてきやがった。た、頼むよ……」
「諦めろ。自業自得だ」
「「……」」
「よし、出発だ」
護衛のリーダーの命令で魔装士達がゴーレムを載せた荷台を担ぎ、歩き始める。
結局、クズ二人はゴーレムと合体し、ツインヘッドクズゴーレムへと進化?したものの、指一本動かす事もできなかった。
そしてそのままの状態で地上へ運ばれていったのだった。
他にも馬鹿な事を考える者が現れないとも限らないのでその背中の穴を手元にあった布で覆ったが、下半身は完全には隠せずその一部がはみ出した。
頭に至ってはクズのアホ面が丸見えだった。
護衛のリーダーが彼らの体に触れないように気をつけながらその顔に布を被せて隠した。
こんな恥ずかしい格好をした彼らに同情した、
からではなく、アホ面晒したクズと一緒に歩くのが恥ずかしかったのだ。
布を被せる時、クズの顔は真っ白でぴくりとも動かなかった。
魔術士ギルドに到着後、クズの死亡が確認された。
ゴーレムに魔力だけでなく生命力も吸い取れらたようであった。
ゴーレムを魔術士ギルドの研究室に運ぶ際、振動で白色化していたクズの体は砂のように崩れ去った。
こうしてまたもリサヴィに関わったクズが全滅したのだった。
今回も自業自得であったが。




