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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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460話 ステーキに拳を添えて

 マルコに戻ってきたリサヴィはギルドに向かい、特別依頼完了処理を終えた。

 一緒に特別依頼を受けたCランクパーティとBランクパーティに打ち上げをしようと誘われたが、リオが全く興味を示さなかったのでサラが丁寧に断った。

 彼らは残念そうな顔をしたが無理には誘わず彼らだけで出かけた。



 サラはマルコからすぐ出て行きたかったのだが、モモが用意したリッキー退治の依頼をリオがその場で受けてしまったのだ。

 それだけでなく、リオはモモが用意した依頼すべてを受ける気でいるようだった。

 もう日が暮れていたこともあり、依頼先に向かうのは明日にして宿屋を探すことにした。

 宿を探すと言ってもマルコで泊まる宿屋はいつも決まっていたのでその宿屋に向かっていた。

 その宿屋に空きがなければ他を探すつもりであった。


「……あれっ?なんか前見た時と違いませんかっ?」


 アリスの言う通り宿屋は以前より大きくなっていた。

 宿屋の名前は前と変わっていないので場所を間違えたわけではなく、改装したようだ。

 また、看板の上に書かれていた謳い文句だが以前と違っていた。


“あのリサヴィ御用達の宿屋”


 サラではなくリサヴィを全面に押し出した宣伝に変わっていたのだ。


「ぐふ。どうやらサラの時代は終わったようだな」

「そんな時代は最初からありません」


 そんなやり取りを店の前でしていると揉み手をしながら一人の男がやって来た。


「リサヴィの皆さんではないですか?」

「はあ」


 その男はリサヴィだとわかると顔に満面の笑みを浮かべて言った。


「実は私はその先で宿屋をしておりまして。そのご様子ですとまだ宿をとっていないのではありませんか?」

「ええ。そうですが」

「そうですか!では是非私の宿屋に泊まって頂けませんか?いえ、宿泊代はサービスさせて頂きますので」

「えっ?サービスってタダってことですかっ?」

「はい、初回ですので」

「ぐふ。タダより高いものはない、という言葉がある。お前は何を企んでいる?」

「企んでいるなんて滅相もありません!マルコからクズ達を追い出してくれたお礼ですよ」

「私達はそんなことしていません」


 サラがむっとして答えるとその宿屋の主人は言葉の選択を間違ったと気づき慌てて言い直す。


「す、すみません!あなた方を不機嫌にさせるつもりはなかったのです!ただ、あなた方のおかげでマルコからクズが減ったのは事実ですので……」


 サラが何か言おうとしたが、その前に会話に割り込んでくるものがいた。


「おいお前!何俺の店の前で客引きしてやがる!?」

「げっ!?」


 それはリサヴィがいつも泊まる、目の前の宿屋の主人であった。

 

「お前、ライバル店の前で客引きとかどんだけ恥知らずなんだ!?」


 ライバル宿屋の主人は顔を真っ赤にするとあの看板を指さして叫んだ


「何が恥知らずだ!お前だってあんな看板つけてあちこちから客を奪ってるじゃないか!」

「それがどうした!?嘘は書いてないぞ!」

「ボロ儲けして店デカくしたんだから満足だろ!俺らの事も考えろ!」

「嫌なこった!」

「なんだとてめえ!?」


 二人が言い合いを始めるとその周辺の宿屋の主人達も騒ぎを聞きつけてリサヴィを誘い始める。


「ぐふ、リオどうする?」


 リオはヴィヴィの問いに行動で示した。

 いつもの宿屋に入って行ったのだ。

 それを見てその宿屋の主人がガッツポーズを決めた。



 宿屋は外観と同じく中ももはや別物であった。

 一階の酒場の椅子やテーブルは以前は年季の入ったものだったが全てが新しいものに置き換わっていた。

 そしてその中でも一際豪華な椅子とテーブルが一組あった。

 その席には予約席と書かれた札が置かれていた。

 ちなみにその席はサラ達がよく利用していた席でもあった。


「ささっ、どうぞこちらへ!皆さんがいらしたのを聞いていつもの部屋を空けて待っておりました!」


 ニコニコ顔の主人が二階の部屋へと案内する。


「……ここがいつもの部屋ですか?」

「はい」

 

 困惑した表情を見せるサラに主人は笑顔で頷いた。

 主人が嘘をついているとは言い切れなかった。

 確かにその部屋は“位置的に“リサヴィがいつも泊まっていた部屋であった。

 しかし、改修により実際に泊まっていた時とは段違いに広く、そして豪華な作りになっていた。

 そしていくら豪華な作りとはいえ、二段ベッドが二つ置いてあるのは違和感しかない。


「あのっ、この部屋っ、高いんじゃないですかっ?」


 アリスが恐る恐る尋ねる。

 リサヴィのメンバーは金には困っていないが、贅沢したいと思う者は一人もいなかった。

 心配顔のアリスに主人は笑顔を崩さず首を横に振った。


「いえいえ。リサヴィの皆さんは今まで通りの料金で結構です」


 主人の言葉にヴィヴィが反応する。


「ぐふ。私達以外は別料金、というわけか」

「リサヴィの皆さんはお得意様ですので」

「「「……」」」


 皆もう理解していた。

 宿屋の主人はこの部屋をリサヴィが泊まっていたということで付加価値をつけているのだと。

 そして、一階の酒場にあった豪華な予約席も同じくリサヴィが座っていた席ということで価値を高めているのであろうことも。

 サラはため息をついて素朴な質問をする。


「あの、こんなことして泊まる人いるのですか?」

「もちろんですよ!リサヴィの皆さんに憧れる方から、単純に豪華な部屋に泊まりたいと思う方まで!お陰様で大好評を頂いております!」

「そ、そうですか……」

「ただ、いらっしゃる時は前もってお知らせ頂けますと助かります。今回はすぐにダンジョンへ向かわれましたので部屋を確保できましたが」

「ぐふ。そんなもの頼んでいない。空いてなければ別の宿に泊まるだけだ」


 ヴィヴィの声に不機嫌さを感じとり主人がすぐさま頭を下げた。


「すみません!今の言葉は忘れてください!」

「はあ……」



 その日の夕食。

 リオ、サラ、そしてアリスはあの一階の豪華な予約席で食事をとることになった。

 予約していないのにその席に案内されたのだ。

 サラは遠慮したのだが、店員がどうしてもと譲らなかった。


「ヴィヴィは来なくて正解でしたね」

「ですねっ」

 

 他の客の視線を浴びてとても居心地の悪い二人だが、リオはいつも通りだった。

 別にリオに向けられる視線がないわけではない。

 大雑把に言えば男性陣はサラ(もうフードで顔を隠すのをやめた)とアリスに、そして女性陣はリオに熱い視線を送っていたのだ。

 救いは彼らが声をかけてこなかったことだ。

 おそらく、宿屋の主人に前もって注意されていたのだろう。

 リオが首を傾げた。


「どうしました?」

「メニューがない」

「そういえばそうですね」

「ちょっともらってきますっ」


 アリスが店員の元へ向かい、すぐに首を傾げながら手ぶらで戻って来た。


「どうしました?」

「おすすめを用意しているそうですっ」

「そうですか」

「そうなんだ」


 三人とも特に好き嫌いはないので何が来ても食べれないことはない。

 だからと言ってリオはともかく、二人はその日の気分で食べたいものは違う。

 これは流石にサービスの押し付けね、とサラとアリスは思った。



 料理が運ばれてきた。

 メインはモウ(いわゆる牛)のステーキと大きな肉団子だ。

 料理はとても美味しく満足したがとても高そうだった。

 値段を確認すると部屋と同じくリサヴィ価格とのことでとてもリーズナブルだった。

 間違いなく赤字だろう。

 ちなみにこの料理の名前は、 


「モウステーキに拳を添えて」


 である。

 本当に拳が添えられていたら恐ろしいが大きめの肉団子を拳に例えているだけである。

 言うまでもなくサラをイメージしたものであった。

 サラはその事を後で知り、激怒して名前を変更を要求すると宿屋の主人はあっさり受け入れた。

 もちろん、そこには理由はある。

 

「ではどういう名前がいいですかね?」


 とさり気なくサラに聞き、サラが適当に答えたその名前をつけたのだ。

 あのサラが命名、と一言付け足して。

 その事を知り、サラはその主人の商売根性に感心しつつ呆れた。

 


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