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46話 乙女の八つ当たり

 その日の夜、キャンプから少し離れた場所にリオとサラはいた。


「リオ、これから私はあなたに八つ当たりをします」

「ん?」

「私らしくないと思うかもしれませんが」

「そうなんだ」

「……神に仕えている身とはいえ、私はまだまだ未熟なのです。今のこの気持ちを吐き出さずにはいられないのです」

「八つ当たりって、宣言すればやってもいいの?」

「はい、乙女には許されるのです」


 サラは躊躇せず、きっぱり言い切った。


「そうなんだ」

「確かに失敗した料理をおいしいと言ったのは私です。私が悪かったです。それは認めます」

「うん?」

「しかし、それをみんなの前で暴露したことは許せません。たとえ悪意がなかったとしても!」

「そうなんだ」

「ぐふ。そのおかげで料理当番を永久免除されたんだ。結果オーライではないのか?」

「いいわけないでしょう!一度の失敗で料理の腕を全否定されたんですよ!しかも実際に私が作ったわけでもないのに!ーーって、いうか、何故あなたがここにいるのです?」

「ぐふ。駆け出し冒険者を森の奥へ誘うあやしいエロ神官を見かければ誰だって心配になって後をつけるだろう」

「誰がエロ神官ですか!」

「サラってエロ神官だったの?」

「リオはちょっと黙っててください」

「……」

「それにしてもあなたにそんな良心が残っていたとは意外でしたわ」

「ぐふ。当然だ。私は良心で出来ているからな」

「どの口が言うのかしら。ともかく、私達はいつもの戦闘訓練をするだけですからあなたはさっさと帰って寝たらどうですか?」

「ぐふ。なら見学していても構わんだろう」

「邪魔です」

「ぐふ。やはりな。訓練にかこつけてナニかするつもりだな。やはり私が見張っていなければならないな」


 サラはヴィヴィに何を言っても離れる気がないと諦め無視することにする。


「リオ」

「……」

「リオ?」

「ぐふ。お前が黙ってろと言っただろう」

「もう喋っていいですよ」

「サラってエロ神官?」

「もうその話は終わりました!」


 流石にサラがイライラしている事にリオも理解した。


「どこまで話したか忘れてしまいましたが、ともかくそういうわけでいつもの戦闘訓練に多少八つ当たりが入りますが気にしないでください」

「そうなんだ」

「でも安心してください。あとでちゃんと治してあげますから」

「わかった」


 本当のわかってるのかとてもあやしいがサラには関係ない。

 同意した事実さえあればいいのだ。


「では始めますよ」


 いつもならリオが打ち込んで来るのを待っているのだが、今回はサラが先に動いた。

 一瞬で間合いに入って来たサラにリオは全く反応できなかった。

 サラの右拳がリオに迫る。

 だが、その拳は頬に触れる寸前でピタリと止まった。


「……すみません、間違えました」


 サラはそう言うと元の位置へ歩いて戻る。

 リオには背後から攻撃を仕掛ける、という考えが全くなかったのでそのままサラが元の位置に戻るのを待った。


(失敗した失敗した失敗した!本来の戦い方をしてしまうなんて!頭に血が上り過ぎよサラ!)


 サラは元の位置に戻ると一度深呼吸してリオを見た。

 その表情は珍しく微かだが驚いているように見えた。

 ヴィヴィがどう思ったか気になったが、仮面で表情が読めないので考えない事にした。


「本気のサラってすごく速いんだね。全く反応できなかったよ」


 サラは剣を抜き、盾を構える。


「自分がまだまだだと実感出来ましたか?」

「うん」

「では始めましょう」



「……始めたようだな」


 離れたとはいえ、キャンプの場所まで剣の打ち合う音は聞こえてくる。

 見張りのべルフィとローズは言うまでもなく、寝ているはずのカリスとナックもサラとリオ、そしてヴィヴィがキャンプから出て行くのに気づいていた。


 カリスが剣をとったところでナックが声をかけた。


「やめとけって」

「なんで止める?相手は多いほどいいだろう」

「呼ばれてないだろ?」

「それはヴィヴィもだろう」

「アイツは別に訓練に参加するわけじゃないだろう。二人が訓練している間、近くに魔物が寄ってこないか警戒してるんじゃないか?」

「一人より二人の方がいいだろう」

「お前、次の見張りだってこと忘れてないか?さっさと休めよ」

「そんなヤワじゃない。一晩くらい寝なくても大丈夫だ」

「まあ、そうなんだろうけどよ。多分サラちゃんは誰にも見られたくないと思ってるぜ」

「それはどういう意味だ?」

「さっきの件で相当落ち込んでただろ。戦闘訓練にかこつけてリオをコテンパンにしてストレス発散するつもりだぜ」

「サラはそんな奴じゃない」


 あははっ、ローズが笑った。


「何がおかしい?」

「カリス、あんた女ってものを全然わかってないねっ!」

「なんだと?」

「あんたが今まで相手して来た女がどうだったかは知らないけどね、あの神官様は性格悪いよ。あたいよりねっ!」

「いやあ、流石にそこまではないだろ?」

「お黙り!」


 ヘラヘラしてるナックをローズが怒鳴りつける。


「へいへい」

「カリス、あんたはあの女の表面しか見てないんだよっ」

「そんなことはない!」

「あるんだよっ。ほんと、“恋は盲目”とはよく言ったもんだよっ」

「だっ、誰がだ!」

「「「……」」」


 三人は「気づかれていないと思ったのか」と思ったが口にはしなかった。

 珍しくローズもそれ以上追求しなかった。

 パーティで仲良しこよしをするつもりはないが、こんなくだらない事で恨みを買いたくない。

 依頼達成に影響するのもそうだが、下手したら背後から斬りかかれかねない。

 流石にウィンドはベテラン揃いである。

 リオのように踏み込んではいけない領域に容易にしかも土足で踏み込んだりしないのだ。


「ま、ともかくだ。サラに気持ちよく発散させてやれよ」

「俺がいたら発散できないのか?」

「当たり前だよっ。ああいう正論ばっか吐く奴は本性を見せたがらないからねっ。不完全燃焼になっちまうよっ」

「……わかった。サラはそんな奴じゃないが、今回はお前達の意見に従おう」


 カリスは手にした剣を放し、毛布を被って横になった。


(ふて寝って子供かよ?)



 だが、ナックの予想に反してサラはあまりストレス発散出来ていなかった。

 リオの動きが思ったよりいいのだ。

 サラの剣を弾き、盾による打撃も回避されることがあった。


(……ここまで腕が上がっていたなんて……やはり剣だけにしたのは正解だったようですね)


 サラは距離をとり、中止とばかりに両手をあげる。


「どうしたの?」

「今日はここまでにしましょう」


 リオは首を傾げる。


「八つ当たりは出来たの?」

「出来ていませんがもういいです」

「そうなんだ」

「ぐふ。これ以上やればナニする体力がなくなる、という事だろう」

「そうなんだ」

「違います!あなたもこの後見張りをするのですよ。そろそろ休みを取らないといけません」

「わかった。でも八つ当たりはいいの?」

「……あなたはそんなに八つ当たりをされたいのですか?」

「ん?そうじゃないけど」

「わかりました。とっておきますので次回八つ当たりします」

「八つ当たりってとっておけるんだ。乙女だから?」

「ぐふ。単に執念深いだけだ」

「そこうるさい!」


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