459話 特別依頼終了
リオ達がゴーレムの警備の交代に向かうとそこにいたのはBランクパーティだけではなかった。
それは人ではなく魔物だった。
スライムだ。
スライムは傭兵やクズ魔術士の死体をその体に取り込み、ゆっくりとした動きで去っていくところだった。
それを見てリオが首を傾げる。
「あれはスライム?」
「はいっ。クリーナースライムですねっ」
「クリーナースライム?」
「はいっ。クリーナースライムはダンジョン内の不要なものを回収していくんですっ。ああやってダンジョンの清掃をするところからクリーナーの名がついたと言われていますっ」
「そうなんだ」
「あっ、攻撃してはダメですよっ。クリーナースライムは生きているものには興味がないらしいですっ。こちらから攻撃しない限り向こうから攻撃をしてくる事はないそうですっ」
「そうなんだ」
クリーナースライムに取り込まれた傭兵達の姿が見えなくなった。
溶かされたのか、更に奥に取り込まれて見えなくなっただけなのか、恐らく両方であろう。
「あれがダンジョンで死んだ者の末路です。死体を回収出来るのは稀なのです」
「そうなんだ」
リオは珍しく、その後を続けた。
「まあ、死んだら回収してもしょうがないし、どうでもいいんじゃない」
「リオ、あなたは……」
そこへBランクパーティが割り込んできた。
「リオは現実的だな」
「ま、俺らもああならないように気をつけないとな」
「そうなんだ」
「リオ、そこは『そうなんだ』ではありません」
そのままクリーナースライムを見ていると小型ゴーレムが逃げた壁を回転させて中に入って行った。
「……ぐふ。なるほどな。あの穴はクリーナースライムの通り道だったのか」
「そのようですね」
Bランクパーティがほっとした顔をする。
「無理にあの穴に入らなくて正解だったな。小型ゴーレムだけでなく、クリーナースライムとも鉢合わせになるかもしれなかったぜ」
「ああ。あんな狭いところで出会ったらこっちに攻撃の意思がなくても勘違いされて攻撃されたかもしれないからな」
「そうですね」
「じゃあ、俺らは行くわ。後は頼むな」
「はい」
「そうそう。特に異常はなかったぞ。あのクリーナースライムが来た以外はな」
「わかりました」
Bランクパーティのリーダーが去り際に「あっ」と呟いてリサヴィに気になった事を尋ねた。
「そういや、あのクズ達はどうした?」
その問いにヴィヴィが答える。
「ぐふ。セーフティーゾーンに転がしてある」
「そうか」
「どうすんだあいつら。邪魔以外の何者でもないぞ」
「もう少し我慢してください」
サラは依頼完了報告と交代要員を呼びに行ったCランクパーティがクズ達の件もギルドに報告している事を話した。
「そうか。わかった」
「ぐふ。奴らの話は聞くな。頭がおかしくなるぞ」
「そうか。気をつけるとしよう」
リオはうつ伏せに倒れたゴーレムを見ながら首を傾げる。
それに気づいたアリスがリオに尋ねる。
「リオさんっ、どうかしましたかっ?」
「ん?いや、このゴーレムだけどクリーナースライムは回収していかなかったなと思って。大きすぎるからかな」
その問いに答えたのはヴィヴィだ。
「ぐふ。それよりもダンジョンの一部だと判断したのかもしれないな」
「そういえば、このゴーレムは壁に偽装されていていたのでしたね」
「ぐふ」
「そうなんだ」
「しかし、もしクリーナースライムがこのゴーレムをダンジョンの一部だと思っているのでしたら修理できる可能性があるのかもしれません」
「そうなんだ」
Bランクパーティがセーフティゾーンへ入るとクズが猿ぐつわをされて転がっていた。
クズはBランクパーティに気づくと同情を誘うような目で彼らを見た。
その姿にBランクパーティは「ちょっと可哀想だな」と思ってしまった。
「猿ぐつわは必要か?」
Bランクパーティのリーダーが救出したBランクパーティに尋ねる。
「かわいそうだと思ったか?」
「そうだな」
「まあ、この場面だけ見るとそう思うかもな」
救出されたBランクパーティのリーダーがため息をついて言った。
「そいつらの口を自由にしとくと延々とバカ話を喋り続けてうるさい」
「それも理解不能な論理で話すからこっちの頭がおかしくなる」
「そこまでか。そいつらがおかしいのは知ってるし、ヴィヴィからも忠告されたが……」
「猿ぐつわを外したいなら止めはしない。すぐに後悔してもとに戻すと思うけどな」
「……」
救出したBランクパーティの言葉を聞き、Bランクパーティのリーダーは少し悩んだがやはり少し可哀想になり、クズの猿ぐつわを外した。
すぐ後悔した。
クズはすぐさま自分達の妄想を現実のように語り出し、開放を要求する。
しかも報酬まで寄越せという始末だった。
Bランクパーティは気が狂いそうになった。
彼らがリサヴィ派だったら間違いなくクズの命はなかっただろう。
Bランクパーティのリーダーは無言で妄想を垂れ流すクズの口を猿ぐつわで塞いだ。
クズ戦士のほうは同じパーティの者が猿ぐつわをした。
だが、その程度でクズは諦めない。
もそもそとミノムシのように地を這いながらBランクパーティに近づいて来た。
Bランクパーティはうんざりしながら剣に手をかける仕草をすると、クズは慌てて元の場所へもそもそと引き返して行き、そこから同情を誘う目を向ける。
だが、もはやBランクパーティにクズへの同情する心は全くなかったのでその行為は失敗に終わった。
六階層への階段を開放して二日目。
ゴーレムを警備しているリサヴィの元へ手を振ってやって来る冒険者がいた。
「よお、待たせたな!」
それはCランクパーティのリーダーだった。
彼のパーティ以外にも冒険者らしき者達と更に複数の魔装士の姿もある。
「ぐふ。お前の仕事はギルドへの連絡で終わりだったはずだ。また戻って来るとは仕事熱心だな」
「おいおいヴィヴィ、連れねえなあ。こっちはお前らが早く帰りたがってると思って交代要員を最短距離で連れて来たってのによ」
「ありがとうございます。それで彼らは?」
サラが彼らと一緒に来た魔装士達に目を向ける。
その魔装士達はフェラン製の運搬用に特化した廉価版の魔装士だった。
コストを抑えるためあらゆる機能がオミットされており、肩に装備しているのは飛ばせないどころか盾ですらない、ただの物入れである。
「おう、ヴィヴィの言った通りだったぜ。ゴーレムの能力の話をすると魔術士ギルドがすごい興味を持ってな、買い取ってくれることになった。で、魔術士ギルドが手配した魔装士だ」
「そうですか」
話しているうちに魔装士達は両肩の物入れからゴーレムを運搬するための荷台の部品を取り出す。
現場で荷台を組み立てるのは別段珍しいことではなく、彼らも慣れたものだった。
Cランクパーティのリーダーが倒れたゴーレムを見て安心した顔をする。
「よかったぜ。そのまんまだな」
「それはどういう意味です?」
「いやなにな、魔術士ギルドが出来るだけ損傷の少ない状態で、って言ってたんだ。俺ら来る前に小型ゴーレムが戻って来たり、またクズが悪さしてないかって心配してたんだ」
「そうですか」
「ぐふ。で、クズはどうするのだ?」
「ああ、ゴーレムの護衛達が一緒に連行するってさ」
「そうですか」
「セーフティゾーンの方はどうなってるんですかっ?」
「別の者達が向かってる。台座の修理を始めてるんじゃないか」
「わかりました。では帰りましょう」
「はいっ」
「ぐふ」
「そうなんだ」
リサヴィはセーフティゾーンに戻るとBランクパーティと合流してカシウスのダンジョンを後にした。




