456話 クズ、本音で語る
BランクパーティとCランクパーティの盗賊が手分けして階段への通路を封鎖した壁を動かす仕掛けを探し始める。
他の者は周囲の警戒だ。
魔物だけでなく、さっきの小型ゴーレムが戻ってくるかもしれない。
ゴーレムと長く戦っていたリオだが、見た目は全く疲れているようには見えなかった。
感覚の鈍いリオのことなので疲れていたとしても気づいていないだけかもしれないが。
ところで、クズはBランクパーティとCランクパーティが倒した魔物の解体を行なっていた。
BランクパーティとCランクパーティの許可を取っていないにも拘らず、魔物に襲われたら彼らに助けを求める気でいた。
本当は大量にプリミティブを溜め込んでいると思われるゴーレムの調査をしたかったのだが、リサヴィが警戒していて近づけなかったのだ。
傭兵の装備にも興味があったが、こちらは先ほどの件もあり、クズにしては珍しく自重したのだった。
ちなみに彼らの仲間であるクズ盗賊からは回収済みである。
しばらくして仕掛けが見つかり、解除に成功する。
壁が上がり通路が現れた。
その先にある階段そばに傷だらけの冒険者達がしゃがみ込んでいた。
サラ達の姿を見て疲れた表情で笑顔を向けて言った。
「おう、やっと助けが来たか」
セーフティゾーン復旧へ向かいたいところだが、小型ゴーレムが戻って来てゴーレムを再起動させる心配があった。
そこで見張りを立てることになった。
魔道具に詳しいヴィヴィがいるリサヴィがセーフティーゾーン復旧へ向かい、同行していたBランクパーティがその場に残ることになった。
Cランクパーティを先頭に救出したBランクパーティ、クズ、そしてリサヴィの隊列で元セーフティゾーンにやって来た。
クズもゴーレムの倒れた場所に残ろうとしたが、碌なことをしないのがわかりきっていたので半ば脅して連れて来た。
元セーフティゾーンだが、ゴーレムを倒したからか、六階層への道を開いたからか、止まっていた魔力の流出が再開していた。
「ああ、いい気持ちだぜ」
魔力の回復を実感した魔術士が嬉しそうに言った。
ヴィヴィがリュックからセーフティくんとプリミティブの入った袋を取り出し、結界の発動準備を始めた。
しばらくしてゴーレムの残骸を見張っていたBランクパーティのもとにクズがやって来た。
Bランクパーティはあからさまに嫌そうな顔をして彼らを見た。
「なんだお前ら、あっちいけ!」
もちろん、クズは人の言うことなど聞かない。
「おいおい、俺らはサラ達の伝言を伝えに来てやったんだぞ」
「嘘つけ!お前らクズに伝言を頼むかよ」
「いや、ほら、俺らはあそこにいても役に立たねえだろ?」
クズはセーフティゾーンを発動させるのには役に立たない、という意味で言ったつもりだったが、Bランク冒険者達は言葉通り、なんの役にも立たないと受け取って納得した。
そしてクズが自分達の事を正しく理解出来ていると勘違いしてその言葉を信じてしまったのであった。
「確かにな」
「ああ。お前らクズはそれくらいしか使い道ないか」
クズはBランクパーティの勘違いに気づいたが指摘せずにこめかみをピクピクさせながらも笑顔で頷く。
「それで伝言は?」
「至急セーフティゾーンへ来て欲しいってよ」
Bランクパーティは一旦は信じたもののその曖昧な伝言を不審に思う。
「何故?」
「知らねえよ。俺らに教えるわけねえだろ」
クズの答えがまたもその通りなのでBランクパーティは信じてしまった。
「確かにな」
「ああ、お前らクズは信用できないし、細かい事を言っても正しく伝えられねえだろうしな」
クズはこめかみの血管が切れそうなくらい膨らんでいたが、笑顔を崩さず続ける。
「ここは俺らが見張っててやるから行ってこいよ」
「お前らクズだけでか?」
「「「おう!!」」」
彼らの根拠のない自信に満ちた顔(こめかみに怒りマークをつけていたが)を見て、
「なら安心だな!」
と思うわけがない。
「俺が残るわ」
Bランクパーティの戦士がそう言うとクズが首を横に振る。
「いや、全員来て欲しいって言ってたぜ」
「俺らの事なら心配すんな」
Bランクパーティはクズのその言葉を聞き、心外だとでも言うようにムッとして言った。
「いや、全く心配していない」
「クズの心配なんかするわけないだろ」
「お前らクズが悪さする事を心配してるんだ」
クズは怒鳴る寸前であったが、奇跡的に堪えることに成功した。
「ひ、ひでえな。すぐ戻って来りゃいいだろ」
「……本当に悪さするなよ」
「絶対にゴーレムには触れるなよ!」
「「「まかせとけ!!」」」
クズは笑顔で元気よく返事した。
Bランクパーティは不安を感じながらもセーフティゾーンへ向かった。
「うまく行ったぜ」
クズリーダーがニヤリと笑った。
もちろん伝言は嘘である。
彼らの目的は言うまでもなく、ゴーレムが溜め込んだプリミティブと傭兵の死体の装備漁りである。
彼らは既に魔物からプリミティブをはじめ素材をたくさん回収しており、それだけでも売れば相当の金になるのだが、それだけでは満足出来なかったのだ。
「にしてもよ!あいつら!俺らのこと『クズクズ』言いやがってよ!」
「まあ、落ち着けって。お宝ゲットするまでの辛抱だ」
Bランクパーティの発言に激怒するクズ戦士をクズリーダーが宥めながらクズ魔術士に声をかける。
「おい、ゴーレムの調査急げよ!時間との勝負だ!あいつらはすぐ戻ってくるぞ!それまでに一つでも多くのプリミティブをゲットするんだ!」
「わかってる。あの小型ゴーレムも戻ってくるかもしれないしな」
クズ魔術士がゴーレムに慎重に近づき、その背に乗った。
そして小型ゴーレムがハマっていた背中の穴を覗き込む。
「どうだ?」
「……真っ暗でわからん」
クズ魔術士が手にした魔道具マナランプで奥を照らした。
「でもよ、ゴーレムのプリミティブはあの小型ゴーレムが持っていったんじゃないのか?」
「それを確認すんだろうが。そんな事より俺らは傭兵のほうだ。こっちもいつ“スライム”が回収に来るかわかんねえんだぞ!」
「そうだったな」
クズリーダーとクズ戦士が隅に寄せられていた傭兵達の死体を漁り始めた。
クズリーダーの言うスライムだが、正式名称はクリーナースライムといい、ほどんどのダンジョンに生息している。
クリーナースライムは何処からか現れてダンジョン内に捨てられたゴミなどを回収する。
その中には死体も含まれており、装備ごと体内に取り込んで何処かへと運んでいく。
クリーナースライムが通り過ぎた後には床や壁についた血痕なども綺麗に消えている。
クリーナースライムはDランクで、ダンジョン探索する者達の実力からしたら脅威とは言えないが、他のスライムと同様に物理攻撃が効きにくく倒しにくい厄介な相手である。
ただ、生きているものには興味がないようで攻撃されない限り、攻撃してくる事はない。
そのため、冒険者達はクリーナースライムを見つけても余程の理由がない限り攻撃を仕掛けたりしない。
このような習性をもつため、クリーナースライムはダンジョン内を清掃するために作られたのでは、と考える者達もいた。
このクリーナースライムの後を追えば、持ち去った装備が蓄えられた場所にたどり着くのでは思い、後を追いかけた冒険者達もいたが、その場所に辿り着けた者達はいなかった。
カシウスのダンジョンでもクリーナースライムは目撃されていたため、クズは早く持ち物を漁らなければと焦っていたのだ。
「……ん?」
クズ魔術士の呟きをクズリーダーは耳にし、死体漁りを中断して期待に満ちた顔をクズ魔術士に向ける。
「どうしたっ!?溜め込んだプリミティブがあったか!?」
「わからんが、何か奥で光ったような気がしたんだ」
そう言ってクズ魔術士が背中の穴に頭を突っ込んだ。
ヴィヴィによりセーフティゾーンは復活した。
頭に、とりあえず、がつくが。
先に報告のあった通り、セーフティくんを設置していた台座は滅茶苦茶だった。
放出する魔力を無理矢理セーフティくんへ持っていくことは出来たが、不安定でいつ魔力供給が切れるかわからない。
結界がいつの間にか切れていた、という事も考えられたため、当初の予定通りプリミティブにより起動させることにした。
結界が無事起動し、サラ達が一安心した所で、ゴーレムを見張っていたBランクパーティが戻ってきた。
サラが首を傾げる。
「どうしました?何かありましたか?」
「いや、お前達が呼んでるってクズが呼びに来たんだが……」
「いえ、私達はそんなこと頼んでいませんが……」
「くそ!!やっぱ嘘か!!」
Cランクパーティの一人が怒りを露わに叫ぶ。
「あのクズども!『用足しに行ってくる』って出て行ったが嘘だったか!」
Bランクパーティが疑問を口にする。
「三人一緒で怪しいと思わなかったのか?」
「あいつら雑魚だろ。『弱いから一緒じゃないと不安だ』とか言ってよ」
「その通りだから信じちまった」
その言葉にBランクパーティは納得した。
「俺達もだ!『俺達は役立たずだ』って本当のこと言うから伝言も本当だと信じちまったぜ!!」
その時である。
悲鳴が聞こえた。
もちろん、クズである。
「私達が行きます」
「いや、俺達が行く!これは俺達のミスだからな!」
「では一緒にいきましょう。小型ゴーレムが戻って来ていたら面倒です」
「おう!」
サラがCランクパーティに目を向ける。
「あなた達は彼らとここで待機を!」
「わかった。気を付けろよ」
「はい」




