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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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455話 リオVSゴーレムタイプ二十

 サラ達は倒れた冒険者達の姿を発見した。

 皆既に息はない。

 突然下層から強力な魔物が現れて対応できず命を落としたクズの愚行による犠牲者か、元々力が足りなかったのかはわからない。

 クズが行動を開始した。

 言うまでもなく、死体漁りである。

「人の不幸は蜜の味」を体現するかのように笑みを浮かべながら死体を漁る彼らをサラは見下した目で見ながら言った。


「先を急ぎましょう」 

「ああ」


 サラの言葉を聞いてクズが抗議の声を上げるが、誰も相手にしない。

 クズはぶーぶー文句を言いながらも死体漁りを中断してサラ達の後についていく。

 


 その後も魔物が現れたが、危なげなく撃退し、目的の五階層へやって来た。

 微かに戦闘音が聞こえて来た。


「六階層への階段がある方からだ!」

「おそらく誰かがゴーレムと戦っているんだ!」


 Cランクパーティが厳しい表情で答える。


「急ぎましょう!」

「ああ!」


 その後に「おうっ」とクズも返事したが誰も聞いていなかった。



 そこへ辿り着いた時、王国に雇われた傭兵達がゴーレムと戦っていた。

 すでに数名が地に伏していた。

 ゴーレムが傭兵に向かって太い腕で殴りかかる。


「ぐはっ」


 その腕をもろに受けて傭兵の体が宙を舞う。

 傭兵は血を吐いて倒れ、動かなくなった。


「やりやがったな!」

「待ちなさい!」


 サラが止めるのも聞かず、傭兵最後の一人がゴーレムに向かっていった。

 ゴーレムが片方の手で迫る傭兵の頭を掴んだ。

 その手が僅かに発光した。


「!?魔力を吸収している!?」

「なるほど。プリミティブがない人間からはああやって魔力を吸収するんだ」


 リオが無表情のまま呟く。

 ゴーレムは魔力を吸い尽くされ身動きしなくなった傭兵をポイっ、とゴミ屑のように投げ捨てた。

 その傭兵は頭から落ち、ゴギっと鈍い音がして首があり得ない方向へ曲がって倒れた。


「ぐふ。全滅だな」


 ヴィヴィの言う通り、その場に立っている傭兵は一人もいなかった。

 サラはもう少し早く着いていたら彼だけでも救えたかもしれないのにと思ったがすぐに頭を切り替える。


「約束通り私達が行きます」

「わかった!気をつけろ!」

「リオ!」

「行くよ」


 サラは約束通り、まずはリオだけで戦わせる。

 だが、通常の剣でゴーレムにダメージを与えられない事はわかっているので防御魔法と共に強化魔法をかける。

 リオが一人でゴーレムに接近戦を挑んだ。

 その様子を見て冒険者の一人が不安げな表情で尋ねる。


「おい、リオだけでいいのか?」

「それがこの依頼を受ける条件ですから」

「いやいや!それはリサヴィで、って意味じゃなかったのか?」

「そうですね。でも、まずはリオが納得するまでやらせます」

「そ、そうか」

「皆さんは周囲の警戒をお願いします」

「わかった」


 彼らは完全に納得したわけではないが、道中、リオの戦いを見て実力が本物である事を知っていたのでそれ以上口出ししなかった。

 そもそも他のパーティの事に口出しするのはタブーなのだ。

 それに口出ししたくてもその暇はなくなった。

 戦闘音を聞きつけて魔物がやって来たのだ。

 BランクパーティとCランクパーティが魔物達をゴーレムに近づけさせないように戦いを開始した。

 そしてクズが逃げ回る。

 クズは「助けろ!」と喚いていたが誰も相手にしなかった。



 リオとゴーレムの戦いはリオが優勢に見えるが、実際はそうではない。

 リオの攻撃は命中するのだが、その度にその部分が光り、攻撃を無効にするのだ。


「ぐふ、リアクティブバリアか」

「それって、フラインヘイダイの持ってた機能ですよねっ?」

「ぐふ。そうだ」

「って、いうことはっ、このダンジョン……」

「ぐふ。サイファ・ヘイダインが関係しているのかもな」



 BランクパーティとCランクパーティが魔物を撃退した後もまだリオとゴーレムの一騎打ちは続いていた。

 ちなみにクズは彼らにクズスキル?“押し付け”を使って難を逃れていた。

 冒険者達はリオの戦いを見て感心すると同時に呆れた。


「おいサラ、こう着状態じゃないのか?このままやらせていいのか?」

「俺がリオの剣にエンチャントかけようか?」


 Bランクの魔術士が援護を申し出た。

 同じ魔法は重複しないが、同系統の異なる魔法は重複する。

 つまり、神官の神聖魔法と魔術士の詠唱魔法の強化魔法は別物なのでそれぞれで強化可能なのだ。

 ただ、これに問題がないわけではない。

 安物の武器では二つの強化魔法に耐えられず武器が壊れてしまうこともあるのだ。

 幸いにもリオの剣は製作者のフォリオッドが自慢するだけあって壊れるようなことはない。


「嬉しい申し出ですが、少し待ってください」

「しかし……」

「リオが希望したらお願いします」


 冒険者の一人が呆れた顔で言った。


「リオって戦闘狂なのか?」


 その問いに誰も答えなかった。



 リオはゴーレムのあらゆる場所を攻撃したが全ての箇所でリアクティブバリアが発動し、防がれる。

 リオは今の攻撃力ではゴーレムにダメージを与えることができないことがわかった。


(このまま魔力切れを待つのも面倒だな。それにコレでは僕に絶望を与える事ができない)


 リオが今最も興味があるのはラグナだ。

 神の力も呪文の力も必要としない、自分だけの力で生み出す第三の魔法といわれるラグナ。

 リオは以前にラグナ使いのグエンから「絶望の中でラグナに目覚めた」と聞いて実践?しようとしているのだが、それらしい感情は生まれない。


(それも当然か。手段を選ばなければ倒せるんだから)


 そんな時である。


「リオ、これ以上時間がかかるようなら加勢しますよ!」


 サラの言葉でリオはこの戦いを終わらせることにした。


「ヴィヴィ」


 リオはそう言うとヴィヴィに顔を向ける事なく左手を差し出した。

 ヴィヴィは一瞬選択に迷ったものの、懐から魔力を込めた短剣を取り出して放つ。

 リオからは死角のはずであるが、まるで見ていたかのようにその柄を掴んだ。

 いや、例え見ていたとしても難しいはずだが平然とやってのけた。

 リオはゴーレムが振り下ろした剛腕を剣で受け流し、その腕を蹴って離れ際にヴィヴィから受け取った魔力の籠った短剣を放った。

 短剣は頭部に命中すると同時に爆発した。

 リアクティブバリアが発動したものの出力の限界を超えて一時的にリアクティブバリアが消滅して無防備となる。

 そうなることがわかっていたかのようにリオは既に次の行動に移っていた。

 懐へ潜り込んでジャンプすると力一杯剣を振り抜いた。

 リオの渾身の一撃を受けてゴーレムの頭が宙を舞う。

 頭を失ったゴーレムはふらふらしながら跪き、うつ伏せに倒れた。

 どうやら生き物と同じく頭が弱点だったようである。


「やった!!」

「まさか本当に一人で倒すとは思わなかったぜ!」

「ヴィヴィ、お前もすげえ武器持ってんな!」


 皆が喜ぶなかでゴーレムに接近する者がいた。

 クズである。

 クズパーティのクズ盗賊である。

 彼はインシャドウによって気配を消して隠れていた。

 ゴーレムが倒れるのを見て、彼の体は自然に動いた。

 彼の絶え間ない努力によりもはや体の一部となっていたクズスキル?“ごっつあんです”がオートで発動したのだ。

 クズ盗賊が短剣でゴーレムの背中を突いた。

 キズ一つついていない。

 だが、そんな事は問題ではなかった。

 ともかく一撃当てる事が重要なのだ。

 これで後はトドメを刺したとアピールすれば“ごっつあんです”完了である。

 クズ盗賊が短剣を掲げて叫ぶ。


「とった……」


 いや、叫ぼうとしたが、言葉を最後まで続けることが出来なかった。

 ゴーレムの背中、ランドセルのような形をしていたものが変形して小型のゴーレムになった。

 小型といっても大人くらいの大きさはある。

 その小型ゴーレムがクズ盗賊へ腕を伸ばしてその頭を掴んだのだ。


「い、いでえええ!!だ、誰か……」


 クズ盗賊が悲鳴を上げる。

 小型ゴーレムは抵抗するクズ盗賊の頭をグシャっと潰してポイっと冒険者達のいる方へ投げ捨てた。

 皆が避けるその隙にダッシュで逃げ出し、そばの壁に向かってジャンプした。

 壁に激突するかと思われたが、その壁がくるりと回転して隠し穴が現れ、そのまま中に消えた。

 突然の出来事に皆、対応が遅れた。


「……ぐふ。どうやらあの小型ゴーレムが本体だったようだな」


 隠し穴の大きさだが、人ひとりが寝そべって通れるくらいの大きさで、追いかけようにも中がどうなっているかわからないし、待ち伏せされたら逃げ場がない。

 あまりに危険なのでサラ達は追うのを断念した。

 ちなみにクズ盗賊の死を誰も悲しまなかった。

 そう、クズも。


「とりあえず小型ゴーレムは後回しにしましょう」

「そうだな」

「くそっ!またクズに邪魔された!!」


 皆の怒りの矛先がクズに向けられる。


「ちょ、ちょ待てよ!」

「お、俺達は無関係だ!あいつが勝手に行動したんだ!」

「だな!俺達だって被害者だ!」


 クズの言い分を信じた者はいない。

 クズには失敗した責任をすべて死んだ者に押し付けていい、というルールがあるのだ。

 ……たぶん。

 サラがため息をついて言った。


「今はともかく六階層への階段を開けることを優先しましょう」

「そうだな」

「わかった」

「「「おう!!」」」


 冒険者達に続きクズも負けずに腕を振り上げて大声で叫んだ。

 彼らは反省という言葉を知らないようであった。



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