454話 特別依頼開始
カシウスのダンジョンの周りには大勢の冒険者、傭兵、そしてレリティア王国の兵が集まっていた。
王国騎士の数は少なく本隊は来ていないようであった。
サラは周囲の状況からダンジョンからの魔物流出が止まっているのがわかりひと安心する。
リサヴィ達は現場にいたギルド職員に案内されて冒険者ギルドの対策本部へ向かう。
そこでサラはフードを脱ぎ素顔を晒した。
いつもは見惚れる者もいるのだが、その場にはサラ以外にリオとアリスという美形がすでに姿を見せていたので耐性が出来ていたのか、驚きは少なかった。
ところで、今更言うまでもないことであるが、リサヴィのメンバーは皆Cランクである。
対策本部にAランク以上の冒険者はいなかったが、同行した者を含めてBランクの者は何人もいた。
にも拘らず、ここでもリサヴィが中心となっていた。
彼らはリサヴィの活躍を耳にしており、ランクではなく実力で判断しているようだった。
今までリサヴィに寄ってくる者達は皆ランクや冒険者年数による上下関係を強要するクズばかりだったのでサラはこの状況に困惑しつつも状況を尋ねる。
「魔物の流出は止まったのですね?」
「ああ。そちらは問題ない」
そう答えた冒険者の表情は曇っていた。
「それはよかったですが……問題がありそうですね?」
「ああ。魔物の流出は俺達が止めたんじゃない。いや、全くしていないわけじゃないけどな」
「続けて下さい」
「ゴーレムだ」
「ゴーレムというと六階層へ下りる階段の前に現れたというゴーレムですか?」
「ああ」
「それは魔物とゴーレムで同士討ちをしてるってことですかっ?」
「そうだ。だが、そう単純でもない。出現したゴーレムはどうやらタイプ二十のようなんだ。奴は魔物を殺してプリミティブを取り込んでいるんだ」
「ぐふ。そいつは厄介だな」
「ん?タイプ二十?」
リオが首を傾げるのを見てヴィヴィが説明する。
「ぐふ。ゴーレムは魔力を動力源としている。その魔力が切れれば停止するのだが、タイプ二十はプリミティブを代用できるだけでなく、自分で魔物を捕まえてプリミティブを取り込む機能を備えているのだ」
「つまり、魔物がいる限り活動限界がないということです」
「そうなんだ」
魔道具に詳しい魔術士が疑問を口にする。
「しかし、普通のタイプ二十は魔力が一定量を下回ったら補給するようになってるはずなんだ。だが、こいつは手当たり次第にプリミティブを取り込んでいるみたいで気味が悪い」
「ぐふ。単に魔力が満タンになっていないか、予備として蓄えているのか」
「前者だと厄介ですね。今の力が全力ではない可能性がでてきます」
「あれで全力じゃないって冗談じゃないぜ!」
一度交戦したらしいBランクパーティが唸る。
「そこまで強いのですか?」
サラに見つめられそのBランク冒険者の戦士は少し顔を赤める。
「あ、ああ。通常の武器じゃ奴を壊せねえ。強力な防御魔法がかかってるんだ」
「俺のエンチャントだけでは無理だった」
彼のパーティの魔術士が悔しそうに言った。
「強力な魔法武器か攻撃魔法が必要だ」
アリスが疑問を口にする。
「そもそもそのゴーレムはどっから出て来たんですかねっ?」
「ああ、それは見当がついている。近くの壁に大きな窪みがあったから壁に偽装して隠されていたみたいだ」
「そうなんですねっ」
「ぐふ。クズ達が台座を壊したことでダンジョンの緊急システムが起動したのだろう」
「くそっ!なんでそんな仕掛け作りやがるんだ!」
「ぐふ。作ったダンジョンを壊されれば怒るのも無理ないと思うぞ」
「くそっ!クズどもめ!!」
ギルド職員が取り残された冒険者達について説明する。
「六階層以降に取り残された冒険者達ですが、参加者名簿からAランクパーティが一組、それにBランクパーティが二組向かっていたらしいことがわかっています。なお、王国側の許可をもらって入場した者達については不明です」
ギルド職員が更に続ける。
「取り残された者達ですが、彼らの実力でしたらセーフティゾーンがなくても万全な状態なら問題ないと思いますが、ダンジョンに入ってからの日数を考えますとポーションや食料があまり残っていない可能性が高いです」
「ぐふ。六階層側から開ける手段があるかもしれんがな」
「そうですね。しかし、そうだとしてもその状態で下で待ち構えているゴーレムと戦うのは厳しいでしょう」
「ぐふ」
「では行きましょうか」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「これをお持ちください」
そう言ってギルド職員が差し出したのはセーフティくんとプリミティの入った袋だった。
「王国側から返却されて来ました」
「ぐふ。王国側はどうしてるのだ?返してきたところを見るとこちらに丸投げか?」
「いえ、腕に自信のある傭兵達をゴーレム退治に向かわせたようです」
「そうなんですかっ。じゃあ、何故自分達で設置しないんですかねっ!?」
「彼らが言うには『これはギルドの物であり、壊したのも冒険者だからギルド側で再設置しろ』とのことです」
ギルド職員は不機嫌さを隠さずに言った。
その言葉に冒険者達が王国の悪口を言い始める。
サラはこれ以上、時間をかけたくないので悪口には参加せずセーフティくんを受け取った。
「ヴィヴィ、お願いできますか」
「ぐふ」
ヴィヴィはセーフティくんとプリミティブの入った袋を背中のリュックにしまった。
サラはてっきりリムーバルバインダーに仕舞うものと思ったが、よく考えれば魔物に叩きつけたりして乱暴に扱うので壊れる危険性があると納得した。
(これならアリスに持ってもらった方がよかったかしら)
サラ達リサヴィが救援に向かうと知り、対策本部に集まっていた他の冒険者達も同行したがったが、先に述べた通りダンジョンでは多すぎると逆に行動が制限されて本来の力が発揮できなくなる。
彼らもその事をわかっていたので渋々引き下がった。
異変以降、立ち入り禁止にされていたカシウスのダンジョンであるが、既に話が通してあるようでサラ達がやって来ると警備員は何も言わずにすっと通してくれた。
まずは道案内のCランクパーティ、次にリサヴィ、そしてBランクパーティ、更にクズと続く。
Cランクパーティが先頭なのはわかるとして真ん中がリサヴィでいいのかとサラはBランクパーティに尋ねたが、「構わない」と言った。
ならばとサラは受け入れた。
問題は最後のクズである。
彼らはどさくさ紛れについて来たのだ。
ちなみにこのクズはマルコギルドにいたクズとは別口のクズでサラ達が来る前からカシウスのダンジョンに来ていた。
更に言うと彼らはギルドからは入場を許可されなかったので王国側から許可証を入手したクズであった。
Bランクパーティは後からクズが付いてくるのに気づき怒鳴りつける。
「お前ら何ついて来てんだ!?邪魔だから戻れ!」
しかし、クズがその程度で引き下がるはずもない。
「へへへっ」
と笑いながら一旦はその場に立ち止まったが、しばらくするとまた後をついて来た。
それにサラ達は気づいていたが、クズに構っている暇はないので無視することにした。
Cランクパーティの盗賊が魔物の接近に気づく。
最短距離イコール最短時間とは限らない。
戦闘を避けて遠回りした方が早く目的地につく場合もある。
「この先に魔物がいる。少し時間をロスするが遠回りするか?」
「必要ない」
そう答えたのはリオだ。
Cランクパーティは全員リオの力を認めているようだった。
「よし、じゃあこのまま進むぞ」
その後すぐに盗賊の言った通り魔物が現れた。
Cランクの魔物、ワグ・ファングが三体。
ワグ・ファングは狼に似た魔物で名にある通り凶悪な牙を生やしている。
リオがすっと前に出た。
それにCランクパーティは気づかなかった。
盗賊ですら気づくのに遅れた。
ワグ・ファングは立体的な攻撃を得意とする。
ダンジョンの壁を蹴り、あるいは駆け、不規則な動きをしながらリオに迫る。
リオは短剣を続け様に放ち、二体を仕留める。
そして間近に迫った一体を手にした剣で一刀両断した。
あっという間の出来事だった。
冒険者達はリオの流れるような動きに見惚れて一瞬ダンジョンの中である事を忘れる程だった。
リオがワグ・ファングの頭部に突き刺さった短剣を回収する姿を見て彼らは我に返る。
「見事だぜ!リオ!」
「ああ!噂以上だ!」
Cランクパーティから賞賛の声が飛ぶ。
いや、Bランクパーティも感心しているようだった。
彼らもまたリオの力を認めていたようだ。
「よし、先を急ぐぞ」
Cランクパーティのリーダーの声に反論する者がいた。
クズである。
「ちょっと待てよ!すぐ解体すっからよ!」
彼らはいつの間にかそばに来ていただけでなく、リサヴィ達の仲間であるかのように振る舞う。
もちろん、サラ達は彼らを仲間とは思っていない。
ワグ・ファングを解体し始めたクズを尻目にサラが言った。
「行きましょう」
リサヴィ達は歩みを再開した。
後方から喚きながら追いかけてくる者達がいた。
クズである。
彼らはここが危険なダンジョンだと知らない、うっかり迷い込んだ素人のように大声で叫ぶ。
「ちょ待てよ!」
「なんで先に行くんだ!?」
「『解体する』って言っただろうが!」
「俺らが解体中に魔物に襲われたらどうすんだ!?あん!?」
絡んでくるクズをBランクパーティが睨みつけると途端に卑屈な笑みを浮かべる。
「へ、へへっ、わ、悪かった。ちょっと調子に乗りすぎたぜ」
「これから気をつけるからよ、許してやってくれよ」
自分達の事なのにまるで他人事のように話すクズ。
Bランクパーティがクズに向かって吐き捨てた。
「お前らのことなど知らん!」
「『これから』なんてない!さっきの魔物の素材でも漁って帰れ!!」
しかし、クズは帰らない。
ワグ・ファングは六階層以降で現れる魔物でその牙だけでも高く売れる。
プリミティブを合わせれば十分金になるが、リオの強さを目の当たりにしてもっと価値のある素材が楽に手に入ると欲が出たのだ。
それにここから彼らだけでダンジョンの外へ出る自信もなかったのである。




