453話 メンバー選抜
大会議室にはマルコギルドのギルマスであるニーバンをはじめ、マルコギルドの主だった上級職員が集まっていた。
そこに一般職員のモモがいるのは不自然な気がするが誰も気に留めない。
いや、進行役を務めるのだろう、とサラは思った。
「では、まずは状況の詳細を教えて下さい」
モモの言葉に一人の冒険者が立ち上がり説明を始めた。
「……ということだ。とりあえず、地上へ現れたものはその場にいた冒険者や王国が雇った傭兵達が倒したから近隣への被害はないと思う。だが、今どうなってるかはわからない」
実際にさっきまでダンジョンにいた者達の報告が終わった。
皆の視線がリサヴィに集まる。
サラはBランクパーティを差し置いて発言するのもどうかと思ったが、そのBランクパーティもリサヴィの意見を求めていると察して口を開く。
「する事は階段を守っていると思われるゴーレムの撃破、隔離された冒険者達の救出、そしてセーフティゾーンの復活ということですね」
サラの言葉に皆が頷く。
「ぐふ。一番の問題はセーフティゾーンの復活だな」
「ですねっ」
「盗まれたセーフティくんはどうなっているのですか?」
「ああ、そっちは問題ない。王国側がそのクズから回収している」
「ぐふ。魔力を放出していた台座がクズによって破壊されたとの事だが、修復はすぐに出来そうか?そもそも出来る者はいるのか?」
現場を見た冒険者が首を横に振る。
「ありゃすぐには無理だと思うぞ。あのクズ達、メチャクチャにぶっ壊しやがったからな。当分の間はあの供給装置を使わずにプリミティブを使ってセーフティくんを起動して結界を維持するしかないんじゃないか」
「ぐふ。他のギルドはこの事を知っているのか?」
その質問にギルド職員が答える。
「はい。さきほど近隣ギルドに連絡しました。彼らはBランク以上のパーティを招集しており、準備が出来次第ダンジョンへ向かうとのことです。また、マルコにリサヴィの皆さんがいると知り、中にはリサヴィに協力したいと申し出ている方達もいるそうです」
その言葉を聞いてサラは自分達が対処することが決定しているかのように事が進んでいることに困惑する。
ちらりと他のメンバーの様子を見る。
リオはいつも通りの無表情で何を考えているのかわからず、ヴィヴィも仮面で顔が見えないのでわからない。
残るアリスは何も考えていないようでのほほん、とした顔をしていた。
(まあ、アリスはリオに従うだけでしょうけど)
ギルド職員の言葉にBランクパーティが激しく反応した。
「俺達がいるんだぞ!他のギルドの応援なんて必要ない!」
「おう、ここマルコがカシウスのダンジョンに一番近いんだしな!」
「サラ!いや、リサヴィ!俺達に不満があるなら言ってくれ!」
Bランクパーティの視線を受けてサラは困惑した表情を見せる。
(不満も何もあなた方の事を知らないですし、そもそも私達はダンジョンへ向かうなんて一言も言ってないですけど)
とはいえ、ここへ来た時点でその気があると思われても仕方のないことだったかもしれない。
「ぐふ、一番大事なことを忘れているぞ」
「それはなんですか?」
ヴィヴィはモモにはっきりと言った。
「ぐふ。私達は『カシウスのダンジョンへ行く』などとは一言も言っていない」
「「「!!」」」
ヴィヴィもサラと同様のことを思っていたようだ。
モモが驚いた表情でヴィヴィを見る。
「そんなヴィヴィさん!私達の仲じゃないですか!」
「ぐふ。勘違いするな。お前の親友はサラだけだ」
「おいこらっ!」
モモは親友のサラではなく、リオをすがるような目で見つめる。
「リオさん!リオさんは力を貸してくれますよね!?」
リオは無表情のまま言った。
「条件がある」
「何ですか!?できる限りのことはしますっ!」
「そのゴーレムは僕が相手する」
何を要求する気だと身構えていたギルド職員達は全く予想していなかった答えを聞き、拍子抜けした。
リオの要求にBランク冒険者の一人が尋ねる。
「それはリサヴィだけで相手すると言うことか?」
「……そうだね」
リオは頷いたが、サラ達は悟った。
リオは一人で戦う気だと。
「別に依存はないが、危険だと思ったら手を出すぞ」
リオは小さく頷いた。
他の冒険者達も不満はないようだった。
モモをはじめ、ギルド職員達がほっとする。
「ではリサヴィの皆さんが参加していただけると言うことでよろしいですね、ありがとうございます!」
モモは間を空けず反論を許さぬ勢いで一気に言い切った。
「ぐふ。本当に化け物を育て上げたな」
「ですねっ。流石サラさんですっ」
「他人事のように言わないで」
サラ達が内輪揉めをしている間もモモは話を進めていく。
「皆さんと一緒に行動するパーティですがどうしましょうか。ヴィヴィさん」
モモに指名され、ヴィヴィは内輪揉めを中断して答える。
「ぐふ。さっき話に出ていたが、多くても三パーティだろう」
「と言うことはあと二組ですね」
モモは冒険者達を見回す。
そこに集まっていたBランクパーティは三組。
つまり最低でも一組は外れるということだ。
全パーティともに戦士、魔術士、盗賊が揃っており、神官がいたのは一組だけだった。
「取り残された人達の救助もありますから神官は多い方がいいですね」
サラの言葉に神官がいたBランクパーティがガッツポーズを決める。
残りの枠はあと一つ。
「サラ!」
「サラ!」
リーダーをはじめ全メンバーがサラに俺達を選べと目で訴える。
「ちょっと待った!」
そう言ったのは現場の状況を報告した冒険者だ。
「俺らは五階層までなら何度も往復してるからマップも頭ん中に入ってる!最短距離で案内できるぜ!」
「お前達はCランクだろ!?」
「そうだが、あんたらはあんま見かけたことないし、カシウスのダンジョンには詳しくないんじゃないか?」
二組はうっと、唸る。
「だが……」
「じゃあ、よろしく」
反論を遮ってリオが言った。
「お、おいリッキ、じゃなくて……えと、リオ……」
Bランク冒険者がモゴモゴしているうちにモモが決定を下す。
「リサヴィのリーダーであるリオさんがそれでよければ私達はかまいません。でもあなた方は探索してきたばかりですよね?疲れているのではないですか?」
「大丈夫だ!移動は馬車だろ?中で休めば十分だ!」
「わかりました。ではお願いします」
「おう!」
Cランクパーティはガッツポーズを決めた。
そんな彼らを見てリオが首を傾げる。
「何がそんなに嬉しいんだろう。ゴーレムは僕の獲物なのに」
悔しそうにしている選ばれなかったBランクパーティにモモが言った。
「あなた方にも現場での待機をお願いします。また魔物が地上に出現しているかもしれませんので戦力は多いに越したことはありません」
モモの言葉に彼らはまだリサヴィと共闘できるチャンスがあるとわかり元気になる。
「おう!任せろ!!」
ニーバンが立ち上がって言った。
「では今回の件はギルドからの特別依頼とする。報酬については後日改めて相談させて欲しい。もちろん出来る限りの事をするつもりだから期待してもらっていい」
冒険者達から歓声が上がった。
大会議室を出ると一人の冒険者がリサヴィに近づいて来た。
その冒険者にサラは見覚えがあった。
「酷いですよリサヴィの皆さん!」
「えっと、あなたは確か……」
「吟遊詩人で盗賊クラスのイスティです!」
「ああ、そうでしたね」
「カシウスのダンジョンに挑む時はご一緒させて欲しいとお願いしましたのに!」
「すみませんが今回はダンジョン攻略ではなく、ゴーレムの排除、冒険者の救出がメインですので」
「では次回はお願いしま……」
「何勝手言ってやがんだ!」
そう言ってイスティを押し退けて前に現れたクズ。
「それは俺達とだよな!?」
「まだいたのですか」
「おいおい……」
そこへギルド職員がやってきた。
「皆さん!馬車が表に来ました!」
馬車に次々と乗り込む冒険者達。
そしてクズ。
は、ギルドの警備員に追い出された。
「ざけんな!」の叫び声が馬車の中まで聞こえた。
「ぐふ、奴らは存在自体がギャグだな」
「そうですね」
「ですねっ」
「そうなんだ」
カシウスのダンジョンへ向けて慌しく馬車は出発した。




