452話 リサヴィの帰還
リサヴィがマルコに戻って来た。
マルコギルドに入った途端、
「お帰りなさい!リサヴィの皆さん!!」
という声が聞こえた。
見れば大勢のギルド職員が出迎えていた。
どうやらリサヴィがやって来る事を事前に知っていたようであった。
モモが前に出る。
「リオさん、サラさん、ヴィヴィさん、そしてアリスさん。また帰って来てくれると信じてました!」
モモがうっすら涙を浮かべながらそう言った。
感動的な再会のように見えるがリサヴィの反応は薄い。
サラは憮然とした態度で言った。
「それは戻って来ますよ。依頼完了報告をしなければいけませんからね。あなたのくだらない依頼の報告を!」
サラの嫌味百二十パーセントの言葉を受けてもモモは全く動じなかった。
「ささっ、どうぞこちらへ!!」
モモがカウンターへと案内する。
冒険者達の視線がリサヴィに集中する。
中でもリオが一番注目を浴びているように見える。
サラの耳に冒険者達のヒソヒソ話し声が聞こえてくる。
そのほとんどがリオについてだった。
(あれがリッキーキラー、いや、リオか?)
(ああ、そのはずだが……ショタじゃないよな?)
(俺、前に見た事あるんだが、あんな顔だったかな?あんな美形ならもっと記憶に残ってるはずなんだが……)
(サラが乗り換えたって噂本当なんじゃないのか?)
(だが、同じ名前なんだろ)
(名前だけ同じとか?)
(なんだそれ。サラは“リオ”って名前なら誰でもいいってか?)
(そんな事言ってないだろ!)
サラは頬をぴくぴくさせながら無言を貫いた。
ヴィヴィの体がぴくぴく震えているように見えたが気づかないことにした。
モモの依頼完了処理を終えたと同時にサラが言った。
「では行きましょう」
「サラさん、そんなに急がなくてもいいじゃないですか。リオさんのためにとっておきの依頼をたくさん用意しておきましたよ」
そう言ってモモは数枚の依頼書をカウンターの上に広げる。
いうまでもなくどれもリッキー退治であった。
「あなたね……」
サラがリオを見るとリオは依頼書をじっと見ていた。
サラはため息をつく。
そんな時だった。
ギルドのドアが乱暴に開かれた。
入って来た冒険者の顔は真っ青だった。
「大変だ!カシウスのダンジョンが!カシウスのダンジョンが大変な事になった!!」
「どうしたのですか!?」
ギルド職員がその冒険者に慌てて駆け寄る。
「ダンジョンで一体何が?」
「魔物がっ、ダンジョンの魔物が地上へ上がって来やがった!」
その言葉を聞き、ギルドにいた冒険者達は自分達の話をやめて彼に注目する。
「それだけじゃない!六階層への階段の前に壁が下りて塞がれた!そしてその前にゴーレムが立ち塞がってるんだ!!」
「なんですって!?一体何故そんな事に!?」
「クズだ!!」
「クズ!?」
「クズ野郎が五階層に設置されていたセーフティくんを盗んだんだ!その時に台座をぶっ壊しやがった!それが原因じゃないかとみんな疑ってる!!」
「それはまた……」
冒険者達は愕然とする。
以前、マルコはクズの巣窟、と言われるほどクズが多かった。
しかし、今のマルコにその面影はない。
とはいえ、クズがゼロになったわけではない。
というか、どのギルドもゼロにするのは不可能だろう。
モモがリサヴィに頭を下げる。
「すみません、こんなことになってしまって……皆さんがあれだけクズを減らしてくれたというのに」
「そんな事はしていません」
サラはキッパリ否定した。
「マルコのためにあんなに頑張ってくれたのに」
「そんな事もしていません」
サラはまたもキッパリ否定した。
「私のためにあんなに……」
「それは絶対にありません!」
サラは力強く否定した。
しかし、モモにはサラの言葉は届かなかったようだ。
「本当にすみません。皆さんの期待を裏切ってしまって……」
「こんがぎゃ……」
「サラさんっ、本音ダダ漏れですっ」
ヴィヴィはどこか感心したような口振りで言った。
「ぐふ。涙まで自由自在か。更にやるようになったな。どうする?」
「『どうする』ってどういう意味です?」
サラがヴィヴィを睨んでいると冒険者達がリサヴィの周りに集って来た。
隅っこでこっそり様子を窺っていたクズもやって来た。
「サラ、いや、リサヴィ!助けに行くんだよな?俺らも協力するぜ!」
一人の冒険者が発した言葉に冒険者達が賛同し、次々と名乗りをあげる。
「俺らも行くぜ!」
「「だな!」」
どさくさ紛れにクズも参加を表明するが、皆スルーする。
「しかし、ダンジョンの中を大勢で行動するのは危険だ」
「ああ。自分達の行動を制限させちまうからな」
「カシウスのダンジョンの通路の広さから考えると十人くらい、多くても三パーティといったところか」
次々と意見を述べる冒険者達。
「なら、俺らとリサヴィは決まりだな!」
「「おう!」」
とクズ。
皆の冷たい視線がクズに向けられる。
「お前ら、さっきからうるさいぞ!どっか行けクズ!」
「「「ざけんな!」」」
「大体、お前らはダンジョンへの入場を許可されてんのか!?」
「それはリサヴィもだろうが!その時に一緒に許可をもらうぜ!」
「「だな!」」
「今まで貰えなかったのに貰えるわけないだろうが!」
「「「ざけんな!!」」」
冒険者達とクズのやり取りにヴィヴィが加わる。
「ぐふ。奇跡的に許可が下りたとしてもクズに出番はないだろう」
「そうだぞ!お前らのせいでこんな事になってんだからな!」
「ざけんな!俺らをあんなクズと一緒にすんな!」
「ぐふ、悪いな。私はクズのランク付けには詳しくはない。知りたくもないがな」
「ざけんな!そういう意味じゃねえ!俺らはクズじゃねーって言ってんだ!」
「ぐふ、冗談は顔だけにしろ」
「「「ざけんな!!」」」
サラも面倒くさそうな顔をしながら会話に加わる。
「一応聞きます」
「おうっ、何でも聞いてみろ!」
「どう見てもク……弱そうにしか見えないあなた達が何の役に立つのですか?」
「ざけんな!俺達はお前らより先にCランクになった先輩だぞ!」
「ちょっと名が広まったからっていい気になんなよ!」
「それで?」
クズはサラの冷めた目を見て一瞬怯んだが、強気の態度を崩さない。
「まず、お前らが先陣を切って魔物をぶっ倒すだろう」
「……」
先輩風を吹かしながらも先陣を切ろうとしないクズっぷりは期待通りだった。
だからと言って嬉しくはないが。
更にクズのクズ発言は続く。
「その後、俺らが魔物から素材を回収する。そして残りのパーティが俺らを守りながらついてくるってわけだ」
「素材の分配だが、俺らが半分、残りがお前らの分だ!これは譲れねえ!」
そう言い切ると「どうだ!」とでも言わんばかりに胸を張る。
クズの話を聞いていた者達は「何故今の話でそんなに威張れるのだ?」と彼らの思考に頭を悩ます。
リサヴィの面々はクズの異常思考に慣れていたので他の者達ほどダメージを受けていなかった。
サラが吐き捨てるように言った。
「話になりませんね」
「なんだと!?」
「一刻を争うと言っているのですよ。素材回収などしている暇などありません」
「おいおい、俺らの話を聞いてなかったのか?」
「だからよ、素材は俺らが回収してやるって言ってんだろう。その間、辺りを警戒してくれるだけでいいってよ」
サラは頭を横に振る。
「ダメだこりゃ」
「ですねっ」
ギルマスへ報告に行っていてその場を離れていたモモが戻って来た。
「リサヴィの皆さんとBランク以上の方、そしてその場にいた方にはお話を詳しく聞かせていただきたいので二階の大会議室へお集まりください!それ以外の方は申し訳ありませんがここで待機していて下さい!」
モモの指示にリオが従うのでサラ達もついていく。
そしてBランク冒険者達、さっきまでダンジョンにいた者達、そしてクズと続いた。
「って、なんでお前らがついてくんだ!?お前らBランクじゃないだろ!!」
Bランク冒険者がクズを怒鳴りつける。
「安心しろ。俺らはサラと同じCランクだ」
そう言ったクズリーダーをはじめ、メンバーもなんか誇らしげだった。
しかし、すぐにギルドの警備員がやって来てクズを追い払った。
「「「ざけんな!!」」」
そんな声が背後で聞こえたが誰も気にしなかった。




