451話 クズの本懐
それはなんの前触れもなくやって来た。
周囲を警戒していたはずのクズパーティの盗賊だが、魔物の接近に気づかず襲撃に遭い、あっけなく死んだ。
残りの者達は盗賊が襲われたのを見て助けに向かう事など微塵も考えずにすぐさまその場から逃げ出した。
無我夢中でセーフティゾーンへ向かう。
なんとかセーフティゾーンへ逃げ込むことに成功したが、反撃一つ出来ずに仲間を失ったことで根拠のない自信は完全に失っていた。
そんな彼らの目に部屋の中央に設置された魔道具セーフティくんが映った。
そしてそばに置かれた袋に気付くと袋の中身を確認した。
中にはプリミティブが数個入っていた。
セーフティくんは魔力による起動の他にプリミティブから起動させる事もできる。
このプリミティブは親切な冒険者が万が一台座からの魔力供給が断たれた時のために置いていったものであった。
彼らの死んだ目が一気に蘇る。
彼らはクズである。
他人のことなど考えない。
平気で恩を仇で返す者達である。
そんな彼らがプリミティブを目の前にして放っておくはずがなかった。
笑みを浮かべながらプリミティブを自分達のリュックにしまう。
だが、それだけでは終わらなかった。
何と冒険者達の生命線とも言えるセーフティくんにまで手を伸ばしたのだ。
このセーフティくんはギルド所有と誰もが知るものであり、ダンジョンの宝ではない。
ギルド規則にはダンジョン内に設置されたセーフティくんなどの結界を持ち出したり、破壊してはならないと明記されている。
しかし、彼らは気にしなかった。
台座からセーフティくんを取り出す方法がわからなかった彼らは武器で台座を破壊して無理矢理セーフティくんを取り出すとリュックに仕舞い込んだのである。
そしてホクホク顔で出口へと向かった。
仲間の盗賊が死んだことなど遥か過去の出来事かのようにすっかり忘れていた。
彼らはセーフティくんのおかげで魔物に襲われる事はなかった。
こうしてカシウスのダンジョン五階層からセーフティゾーンが消えた。
クズ冒険者達が去ったすぐ後にあるパーティがセーフティゾーン、いや元セーフティゾーンにやって来た。
彼らは部屋に入るとほっと息をついた。
「ふう。やばかったな」
「ああ、俺達に六階層はまだ早かったな」
「そうだな。いきなりあそこまで強くなるとは」
彼らの中で魔術士が最初に部屋の結界が動作していないことに気づいた。
そして、部屋の中心にある台座の惨状を見て愕然とする。
「お、おい……」
「どうした?変な声出して」
「ここ、結界が機能していないぞ!セーフティゾーンじゃなくなってる!!」
「なんだと!?」
「セーフティくんがなくなってるんだ!!」
「場所を間違えたか!?」
「そうじゃない!見ろこの台座を!誰かが台座が壊して盗んで行きやがったんだ!!」
「まさか、そんなバカなことをする奴が……いるな」
「……ああ!クズ共がな!!」
彼らの脳裏に上層の階段付近でカモになりそうな者達を待ち伏せしていたクズ冒険者達の姿が浮かぶ。
「あのクズ野郎!!」
「……静かしろ!」
「これが騒がずにいら……」
「黙れって!何か音が聞こえる!」
「何?」
盗賊の表情が更に厳しくなる。
「……六階層への階段のほうからだ!……やばい!魔物が上がって来やがる!」
「バカな!魔物が自分達のナワバリから出てくるだと!?」
「どうするリーダー!もうすぐそこまで来てるぞ!」
「ダンジョンを出るぞ!!セーフティくんの事もみんなに知らせなきゃいけないからな!」
カシウスのダンジョンで得たものは王国・冒険者ギルドのどちらか許可を得た方にその半分を支払う義務がある。
その確認のためにダンジョンを出たところで持ち物検査が行われる。
価値が不明で鑑定が必要な場合は王国・冒険者ギルドが預かり鑑定する事になる。
そのために作られた検査室は短期間で作られたとは思えないほど堅牢に作られ、保管した宝が盗まれないように厳重に警備されていた。
セーフティくんを奪ったクズ冒険者達は王国側の持ち物検査室で検査を受けていた。
彼らは検査があることをすっかり忘れており、慌ててダンジョンに戻ろうとしたが、既に手遅れであった。
挙動不審だとして問答無用で検査室に連行されたのだ。
持ち物検査をしていた魔術関連担当の鑑定魔術士はリュックから出て来たセーフティくんを見て驚いた表情をする。
「おいっお前、これってまさか……」
「へ、へへっ。ひ、拾ったんだ」
「「だ、だな!」」
鑑定魔術士が困惑しているところに外から冒険者の叫び声が聞こえた。
『大変だ!魔物が!六階層の魔物が五階層にやって来やがった!』
『それだけじゃない!五階層のセーフティゾーンが消えた!!五階層に設置されていたセーフティくんを台座をぶっ壊して盗みやがった馬鹿野郎がいる!!おそらくクズ共の誰かだ!!』
彼らの叫びを聞き、周辺が大騒ぎになる。
その叫びを聞いた鑑定魔術士や兵士達の厳しい視線がクズ冒険者達に集まる。
「お前らとんでもないことしてくれたな!!」
「ちょ、ちょ待てよ!」
「ご、誤解だ!」
「誤解なものか!!このクズどもが!!」
こうしてセーフティくん窃盗犯のクズ冒険者達はあっけなく捕まった。
あとはセーフティくんを再設置すれば終わりかと思われたが、そう簡単にはいかなかった。
まず、五階層に侵入してきた魔物だが、更に四階層、三階層へと上がって来たのだ。
更に五階層を探索していたパーティの話によると六階層に向かう階段の前に壁が現れて通れなくなっていた。
そしてその前にはゴーレムが出現して行手を塞いでいるというのだ。
その後、魔物がダンジョンから地上へ溢れ出て来たが、幸いにも冒険者、傭兵などが集まっていたのでどうにかその場で殲滅することができ、近隣への被害を出さずに済んだ。
この魔物の襲撃は五階層に設置されていた台座が破壊された事が引き金になり起きたと考えられている。
こうして六階層以降に進んでいたパーティはクズ冒険者達の愚行によりダンジョンに閉じ込められてしまったのである。




