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45話 料理上手

 夜になり、街道脇に作られたキャンプスペースを見つけたので今日はここまでとしてキャンプをする事にした。

 キャンプの準備を始めるとナックがリオの肩を叩いた。


「リオは料理な」

「わかった」

「え?リオに任せるのですか?」


 サラは心配そうな顔でナックに尋ねる。


「何驚いてるんだ?あいつ料理上手いの知ってるだろ?」

「え?そうなんですか?初耳です」

「初耳って……三人で旅してる間はどうしてたんだ?まさかキャンプを一度もしてないなんてことないよな?」

「もちろんです。ですが、食事の用意はいつも私がしていました」

「そうなのか?……ああ、確かにアイツが自分からやるとは言わないかぁ」

「ええ」

「でもリオは味覚音痴だと聞いていたのですが?」

「サラ、それはちょっと違うんだ」


 いつから話を聞いていたのかカリスが二人の会話に参加してきた。

 ナックがにやけた顔をしたのをカリスは気づかない振りをする。


「それはどういう意味ですか?」

「味の違いはわかるんだ。本人は何を食っても美味いと思わないだけで」

「は?」

「ま、そうだよな。はぁ?ってなるよな。だが事実なんだ。で、ここからが大事なんだが、リオは一度でも作るのを見ればその料理を再現できるんだ」


 サラがリオのことを「見直した」という表情をしたのを見てカリスは「しまった!」と思った。

 ナックがサラと会話しているのが気に食わなくて、なんとか会話に加わろうとしてうっかりリオを誉めるような発言をしてしまった。

 だから慌ててリオを下げ落とす言葉を付け加える。


「ま、まあ、あいつの取り柄はそれだけだがなっ!それ以外は俺にまったく遠く及ばないぜっ!」

「はあ」


 カリスはキメ顔で言ったがサラが「それが何か?」というような顔をしたので居心地が悪くなる。

 しかし、その場から離れようとはしない。

 ナックは場の空気が悪くなりそうになったので話をリオの料理に戻す。


「でだ、今じゃ食っただけでもそれに近い物を作る事ができるようになったんだぜ」

「それはすごいですね」


(またもリオの勇者としての片鱗を……って料理は勇者とは関係ないわね)


「あれを見ちゃうとさ、愛情という名の調味料は必要ないって実感しちゃうよなぁ」


 とおちゃらけた表情でナックが言った。


「はあ」

「で、愛というものが信じられなくなって俺は一人の女の子だけを愛する事が出来なくなってしまったんだ。可哀想だろ?」

「あなたにちょっかいかけられる女性がですね?」

「いやいや、今の流れなら可哀想なのは俺だろ?」

「全く少しも思いませんが」

「きっついなぁ」

「お前が女好きなのはリオに会う前からだろ!」


 復活したカリスが呆れた顔で言う。

 サラが納得顔で頷く。


「そうだと思っていました。そういう顔をしてます」

「うわっ、サラちゃん酷いこと言うなぁ。俺の繊細な心が傷ついたよ」

「それは良かったです。これに懲りて女遊びは自重してください」

「そんなことしたら俺の存在意義がなくなるぜ」

「あなたの存在意義って……」


 などとくだらない話をしているうちにリオの料理が出来上がった。



 リオの料理を見て皆唖然とした。

 焦げた肉、スープの具材は大きさがバラバラで大きいものはキチンと火が通っているのか怪しい。まともなのは何も手を加えなかった黒パンだけだった。

 サラはその料理を見て、とても嫌な予感がした。


「あの、これ……」

「おっかしいな。なんだこの適当そうな料理は」


 ナックが首を傾げる。

 ぐさっ、と誰かの心にナックの言葉が突き刺さる。


「これ美味いのか?」

 

 べルフィの問にリオは、


「美味しいんじゃないかな」


 リオは自分で作っておきながら他人事のように言った。


「まあ見ててもしょうがないよな。食ってみればわかることだ」


 そう言ってナックが焦げた肉をえいっと口に入れる。


「……うん、見た目ほどは不味くないが見た目通りうまくはない」


 一体どっちなんだという曖昧なコメントする。


「あの、」


 続いてベルフィがスープの具である大きめのジャガイモをスプーンでつつく。


「半生だな……」


 そう言いながらもスプーンですくって口に入れる。

 顔をしかめながらも、噛み砕き飲み込む。


「不味いな」


 とカリスが正直な感想を言った。

 またも誰かの心にカリスの言葉が深く突き刺さる。

 ローズが怒りを露わにしてリオを睨みつける。


「なんだいこの料理は!!料理はあんた唯一の取り柄じゃないか!それも出来ないならあんたもういらないよっ!」


 リオは不思議そうな顔でローズを見、自分の作ったスープを飲み、小さく頷いた。


「問題ない」

「大ありだって言ってんだよ!このバカっ!」


 立ち上がってリオに詰め寄るローズをべルフィが抑える。

 そこにリオを貶めるチャンスとばかりにカリスが追撃する。


「ローズの言う通りだ!味覚音痴にも程があるだろう!こんなクソまずい料理出しやがって!」

「あの、」


 カリスは何か言いたそうなサラを見て、リオを庇う気だと思ってその言葉を遮る。


「大丈夫だサラ!ここは俺に任せておけ!こんなゴミ料理をどこで覚えて来たかは知らんが、こんなものを出すとは許せん!」 


 カリスがリオの襟元を掴み上げる。


「おいっよせって!」


 ナックの制止を無視するカリス。


「リオ、お前、こんなクズ料理どこで覚えた!!」

「すみません……」


 カリスはサラの謝罪の意味を勘違いした。

 

「サラ、お前は過保護すぎるぞっ。そんなんじゃリオのためにならん!」

「いえ、そうではなくて……」


 カリスがリオを殴りつけようとした時だった。

 ナックが真相にいち早く気づく。


「サラちゃん、もしかしてこの料理……」

「……すみません」


 サラの肯定ととれる謝罪で全員がこの不味い料理のコピー元がサラである事に気づいた。

 カリスは散々マズイ、ゴミ料理、クズ料理とバカにしたこと事を思い出し、「しまったっ!」と顔が真っ青になりリオを放す。

 もちろん、空気を読まない事には定評のあるリオは気まずい雰囲気になっている事に気づかない。


「これ、サラが作ってくれた料理だけどマズイんだ?」


 リオはストレートにみんなに尋ねる。


「え?いや……」


 カリスが口ごもる。

 サラが皆に頭を下げた。

 もう少し遅ければカリスのほぼ個人的な怒りを込めたパンチがリオを襲った事だろう。


「すみません、私が失敗した時の料理だと思います。ーーでもわざわざこれを真似することないでしょう?」


 サラは恨みがましい目でリオは見た。

 だが、空気が読めない事には定評のあるリオである。

 サラにトドメを刺す。


「あれ?サラがこれ美味しいって言ってたよ」

「そ、それはその……」

「ぐふ。失敗を気づかれたくなくて見栄を張ったな」


 皆から離れた所で一人携帯食を食べていたヴィヴィが冷たく言い放つ。

 その通りなのでサラは反論出来なかった。

 しゅん、としたサラを見てなんとかフォローしようとするカリスだったが、


「ヴィヴィ!この不味い飯を食ってないお前に文句をいう資格はない!文句言いたいならこの不味い飯を食ってから言え!この不味い飯を!」

「お、おいカリス」


 手遅れと知りつつナックが止めに入る。


「なんだよっ!お前も文句があるのか?!」

「そんなに不味い不味いって連呼するなよ」

「不味くてすみません……」


 カリスはそこでまたもや失言したことに気づいた。


「い、いや、今のは言葉のあやというか……」

「ぐふ。事実なのだろう?」

「ヴィヴィ!お前っ!」

「いえ、事実なのですから。無理して食べなくてもいいです。私と“リオ”で責任をとって食べますから」


 リオは「ん?」という顔をしたがサラに睨まれ何も言わなかった。


「まあ、そういう時もあるぜ。さっきも言ったが別に食べられないことはないし」

「誰にでも得手不得手はある」


 ナックとベルフィがサラにやさしい言葉をかけるが、サラが料理下手である事は疑っていない。

 カリスも二人に負けまいと、


「そうだぜっ、気にするな!これより酷い飯を宿屋で出された事もあるしな!」


 と言いながら料理を無理やり口に押し込み笑顔を見せようとして失敗した。

 その姿を見てナックが「ダメだこりゃ」と小さく呟いた。


「サラ、あんた料理禁止だからねっ!もう絶対作るんじゃないよっ!」

「はい……」


 ローズの言葉にサラが力なく頷く。

 それを見たカリスがなんとか今までの失敗を取り消そうとして更に余計な事を言う。


「いや、それは言いすぎだろ。手伝うくらいは、そう切るくらい……はやめておいたほうがいいが」

「カリス、お前はもう喋るな」

「な……」


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