449話 襲われた商隊
ヴェイグ達が護衛を務める事になった輸送隊は順調に旅を進めていた。
そして休憩予定のキャンプスペースに近づいた時であった。
そのキャンプスペースでどこかの商隊が魔物に襲われていた。
輸送隊の先頭を走る馬車が急停止し、それに残りの馬車も従う。
何事かと馬車を降りたヴェイグとイーダ、そして護衛達に隊長が駆け寄って来た。
「キャンプスペースで商隊が魔物に襲われています!」
「おいおいマジかよ。まだ昼前だぞ」
「誰かこっちに来るぞ!」
護衛の盗賊が叫んだ。
輸送隊へ向かって冒険者らしき者が三人走ってくるのが見えた。
ヴェイグは一瞬、救援要請かと思ったがそれにしては数が多すぎると思っているとやはり救援要請ではなかった。
「俺らが乗ったらすぐここを離れろ!!」
「急げよ!」
ヴェイグ達が何か言う前に彼らはそう叫ぶと勝手に馬車に乗り込もうとする。
ヴェイグ達が乗っていた馬車のドアに手をかけようとした冒険者をヴェイグが蹴り飛ばした。
「ぐへっ!?」
その冒険者は無様に転がる。
他の冒険者達も護衛に阻まれて馬車に乗ることは出来なかった。
一番乱暴に扱われたのがヴェイグ達の馬車に乗ろうとした冒険者で、起き上がるとヴェイグを睨みつけた。
「てめえ!何しやがる!?」
「それはこっちのセリフだ」
「お前らにはあれが見えねえのか!?」
そう言って襲われている商隊を指差す。
「見えてるぜ。それがどうした?」
「なんだと!?」
「お前らあの商隊の護衛じゃないのか?」
一瞬、その冒険者は「うっ」と言葉を詰まらせた後叫んだ。
「ち、違う!」
「嘘つけ」
「いいからさっさと開けろ!そしてここからすぐ離れるんだ!これは命令だ!」
「寝言は寝て言え」
ヴェイグにバカにされて怒り狂ったその冒険者は、剣を抜くと馬車に突き刺す構えを見せる。
運悪く突き刺した場所に座っていた客は怪我をするだろう。
「マジかよ。このバカ」
「誰がバカだ!俺は本気だぞ!」
その冒険者が馬車に剣を突き刺そうとした瞬間、その冒険者、いや、もうクズ冒険者でいいだろう、クズ冒険者の腹から刃が生えた。
ヴェイグが一瞬で剣を抜き、クズ冒険者の腹に突き刺したのだ。
激痛に悲鳴を上げながら転がり回るクズ冒険者。
「てめえ!やりやがったな!!」
護衛と対峙していたクズ冒険者の一人が仲間がやられたのを見て、クズ冒険者にしては珍しく仇を取ろうとヴェイグに斬りかかって来た。
しかし、実力差は圧倒的であった。
ヴェイグはその一撃をあっさりとかわすと剣を一閃した。
宙を舞うクズ冒険者の首。
その顔は「慣れない事はするもんじゃない」と人のために行動したことを後悔する表情が浮かんでいた。
一人となったクズ冒険者はヴェイグの剣技を見て戦意を失った。
彼は仲間が死んだ事を全く気にする様子もなく、両手を上げて、「へへっ」と卑屈な笑みを浮かべる。
「お前ならあの魔物達にも勝てるぞ!俺が保証する!行ってやっつけてこい!」
「うるせえ強盗」
ヴェイグは卑屈な笑みを浮かべるクズ冒険者に歩み寄る。
クズ冒険者は危険を察して後退するが、突然悲鳴を上げた。
そのクズ冒険者の腹から刀身が生えていた。
いや、護衛の一人が背後からそのクズ冒険者を刺したのだ。
ヴェイグはその護衛が親睦会でリオのことを「さん」付けしていたのを思い出した。
「だ、だずけ……」
「うるさい」
その護衛は助けを求めるそのクズ冒険者の首を斬り飛ばした。
ちなみにヴェイグが最初に腹を刺したクズ冒険者は既に死んでいた。
クズ冒険者全滅である。
護衛達は自分達の仲間の行動に驚いていた。
「おい、お前……」
その護衛は平然とした表情で言った。
「こんなクズ生かしておいても迷惑しかかけないぜ。な?」
同意を求められたヴェイグは「そうだな」と頷いた。
ヴェイグは襲われている商隊をチラリと見てから隊長に目を向ける。
「さて、どうすんだ隊長さんよ」
「助けましょう。お願いできますか?」
ヴェイグがため息をついた。
「じゃあ、俺が行くわ。イーダとお前らは輸送隊の護衛な」
「あたいはここから援護射撃するわ!」
「俺らもな」
「ああ」
護衛の盗賊と魔術士がイーダに続いた。
「誤射だけは勘弁な」
「誰に言ってんのよ!?」
「ははっ」
「おい、ヴェイグ、本当にお前だけで大丈夫か?」
「ただでさえ護衛が少ないんだ。これ以上戦力を割けれねえだろ。あっち助けてこっちがやられてたら目も当てられねえ。それに危なくなったら商隊見捨てて逃げてくるぜ」
ヴェイグは笑いながらそう言うと商隊へ走っていった。
商隊は危機的状況だったが、ヴェイグ達の参戦でどうにか立て直し、事なきを得た。
輸送隊がキャンプスペースに到着すると商隊の隊長が輸送隊の隊長に深く頭を下げて感謝した。
「本当に助かりました!ありがとうございます!」
「いえいえ。困った時にはお互い様です」
そんな商隊の隊長にヴェイグは同情の目を向けて言った。
「あんたもとんだ外れクズを引いたな」
「ヴェイグ、クズに当たりハズレは無いって言ってるでしょ」
商隊の護衛の治療をしながらイーダが突っ込んだ。
ヴェイグの言葉に商隊の隊長が深く頷く。
「本当に酷い人達でした。彼らは本当に強引で『護衛に雇え』としつこくて……それでも彼らの言う通り護衛の人数に不安があったのも事実でしたのでいないよりはマシかと思って雇ったのですが……」
そこで商隊の護衛達が割り込んできた。
「いないほうがよかったぜ!」
「ああ!あいつら、命令するだけで何もしやしねえ!」
「その命令も的外れなことばっかだしな」
「そんであんたらの輸送隊に気づいたら『応援を呼んでくるぜ』とか言って全員で逃げ出しやがった!」
「勝手に持ち場を離れやがってよ、そこを狙われて俺は怪我したんだ!」
イーダに治療してもらった護衛が悔しそうに叫んだ。
「そう言えば彼らはどうしました?」
商隊の隊長の質問にヴェイグは何でもないように答えた。
「ああ、あいつらな。強盗に成り下がったんでみんなぶち殺した」
「そ、そうですか」
ヴェイグの言葉を聞き、商隊の隊長は少しひいていたが、商隊の護衛達はヴェイグの行動に肯定的だった。
「よくやってくれた!」
「俺が殺してやりたかったぜ!」
商隊の隊長が護衛のリーダーを連れて休憩している輸送隊の隊長のところにやって来て相談を持ちかけて来た。
「あのすいませんが、よければ途中までご一緒させてもらえませんか?人数が多いほど魔物も襲って来ないと思うんです」
商隊の隊長の言葉は確かに一理あるが、実のところは護衛の数が少なくて不安なのだろう。
商隊の護衛のリーダーは不服そうだったが、一度助けられたこともあり、不満を口にする事はなかった。
輸送隊の隊長は「護衛達と相談してみます」と一旦保留にして護衛達とヴェイグ、そしてイーダを呼んで商隊の隊長の提案について相談をする。
「そりゃ、確かに一理あるけどな」
護衛達は気が進まないようだった。
それはヴェイグも同じだった。
「これ以上、仕事が増えるのは勘弁してくれ。一緒に行動するのは構わないが商隊は守らねーぞ」
「だね」
「俺達も同意見だ」
ヴェイグの意見に護衛全員が頷く。
「わかりました。それで話してみます」
隊長同士が話し合い、ヴェイグの意見が通った。
夕方。
ヴェイグ達の輸送隊と一緒に行動を共にする事になった商隊は街道沿いのキャンプスペースに到着した。
今夜はここでキャンプだ。
ヴェイグとイーダが護衛の馬車ではなく客車から降りて来るのを見て、商隊の隊長が首を傾げる。
「あの、お二人はVIP待遇なのですか?あ、いえ、あの戦い振りを見ればおかしくはないですが」
「そんなんじゃない」
「そうよ。あたいらは元々客として乗り込んでたのよ」
「え?そうなのですか?」
イーダが商隊の隊長にクズ護衛達との一件を簡単に説明する。
「……なるほど。皆さんも外れクズを引いていたのですね」
商隊の隊長はヴェイグの言葉を真似て言った。
すかさずイーダが反論する。
「違うよ隊長さん。あたいらじゃない。うちの隊長が外れクズを引いたのよ」
そこでヴェイグがすかさず突っ込む。
「おい、イーダ。クズに当たり外れはないぞ」
イーダはヴェイグに言われてムッとした顔をした。
ちなみにその外れクズ発言を偶然聞いた輸送隊の隊長はショックを受けていた。




