446話 三人の魔装士 その2
誰が見ても偽者だとわかるフェラン製魔装具を装備した魔装士がこの圧倒的不利、絶望的な状況からどうやって挽回するのかといえば、何も考えておらず、勢いだけで乗り切れると本気で思っていた。
そんなフェラン製魔装具を装備した魔装士にカルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士がキレた。
「ぐふ!いい加減にしろクズ!!お前のせいで私までクズの仲間だと思われるだろうが!」
「ざけんな!!誰がクズだ!誰が!!」
カルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士はフェラン製魔装具を装備した魔装士が喚くのを無視してもう一人のカルハン製第一世代魔装具を装備した魔装士に叫んだ。
「ぐふ!お前もだ!私の立てた計画を滅茶苦茶にしやがって!!」
「ざっく!ふざけんな!お前らこそ俺の邪魔をするな!!」
「「「「ざけんな!!」」」」
フェラン製魔装具を装備した魔装士と自称通りすがりのパーティが仲良くハモった。
今のやり取りを聞いていたアリスが「あれっ?」と首を傾げる。
「あのっ、ヴィ……『ぐふ』って言う人っ、『計画がどうこう』って言いましたよっ。なんか変ですっ」
アリスはカルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士がヴィヴィだと思っていた。
確かに彼が一番ヴィヴィの装備に似ていたが、所々違いがあった。
アリスは三人の中に本物がいるとの思い込みから、ブラックマーケットで装備を変えたと思っていたのだった。
ちなみにサラとリオは最初から全員偽者だとわかっていた。
「ぐ、ぐふ!?」
「ざっく。どうやら私が本物だとハッキリしたようだな」
カルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士が動揺したのに気づき、カルハン製第一世代魔装具を装備した魔装士がくいっ、と顎を上げた。
「ざけんな!俺がホンモンだ!」
負けるものかとフェラン製魔装具を装備した魔装士も喚く。
「ぐふ!クズは黙ってろ!」
「ざっく!クズは黙ってろ!」
「「「「ざけんな!!」」」」
フェラン製魔装具を装備した魔装士と自称通りすがりのパーティがまたも見事にハモった。
彼らがグルであることは誰の目にも明らかだったが、そんなことはもうどうでもいいだろう。
アリスは三人のヴィヴィの偽者が言い合いをするのを眺めながら首を傾げる。
「本物のヴィヴィさんはどうしたんでしょうっ?まだブラックマーケットにいるんですかねっ?」
その疑問に答えたのはリオだ。
「あれじゃない?」
「えっ?……あっ」
リオが指さした先にある路地からこっそり顔を出し、こちらの様子を覗いている魔装士がいた。
その姿を見てカルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士が「ぐふっ!?」と驚きの声を上げた。
リオ達の視線を受けてその魔装士、ヴィヴィは「ぐふ」と呟き、バツが悪そうな顔をしながら(と言っても顔は仮面で見えないが)リオ達の元へやってきた。
サラが憮然とした表情でヴィヴィに文句を言う。
「何故すぐこちらに来なかったのですか?」
「ぐふ。何か面白そうなことをやっていたのでな。邪魔しては悪いと思ったのだ」
「何が面白いことですか全く」
本物の登場にも拘らず偽者達は諦めが悪かった。
「ぐ、ぐふ!ちょっと待て!何故そいつが本物だと言い切れるんだ!?」
「ざっく!私だぞ!私が本物だ!」
「俺だ俺俺!」
サラは本物のヴィヴィが来たのでこの茶番を終わらせる事にした。
「ではあなた達、仮面をとって素顔を見せてください。それでハッキリします」
「ぐふ!断る!」
「ざっく!断る!」
「ざけんな!」
「では冒険者カードを見せてください」
「ぐふ!だが、断る!」
「ざっく!だが、断る!」
「だが、ざけんな!」
「……ダメだこりゃ」
「ですねっ」
「ぐふぐふ」
サラ達が呆れる中、ヴィヴィだけが楽しそうだった。
この騒ぎの結末だが、
「ぐふ。では力づくで顔を見るとしよう」
「ですねっ」
「大怪我をさせてはダメですよ」
「そうなんだ」
とリサヴィ全員が「実力行使に出るぞ」と脅したら皆逃げていった。
「あの人達っ、あれでわたし達を騙せるなんて本気で思ってたんですかねっ」
アリスは見事に騙されていたのだが、そんなことを思わせない堂々とした態度だった。
「「「……」」」
アリスは皆から向けられた冷めた視線に気づかないフリをする。
しかし、その顔は真っ赤であった。
「ほっ、本人が来ればすぐバレるのにっ」
「ぐふ。その場に本人が来ればな」
「えっ?それって…… あなたっ、偽者……痛いですっ」
アリスはヴィヴィにどつかれて頭を押さえる。
サラが呆れ顔で言った。
「あなたはうっかり偽者について行ってしまいそうですね」
「そっ、そんなことないですよっ」
しかし、そう言った後「あっ」とつぶやいて発言を撤回した。
「そうかも知れませんねっ」
もちろんそれで終わらない。
「ですからっ、わたしは別行動をとるときはリオさんと一緒に行動しますっ」
そう言ったアリスはしてやったりの顔をしていた。
「ぐふ。アリス、どうやらお前はサラのずる賢さを学んだようだな」
「はいっ」
「おいっコラ!」
満面の笑みで答えるアリスにすかさずサラが突っ込んだ。
サラの腕はぴくりと動いたものの鉄拳発動は抑えることができた。
サラは二人に説教をした後(効果はなかったが)、話を元に戻す。
「ヴィヴィ、先ほど『本物が来れば』と気になる言い方をしましたが、もしかして襲われましたか?」
「ぐふ」
「えっ!?大丈夫でしたかっ?」
「ぐふ。見ての通りだ」
そう言ったヴィヴィは顎をくいっと上げて偉そうだったが、その姿は魔装具に覆われているので怪我の有無はわからない。
「詳しく教えてください」
「ぐふ。ブラックマーケットから戻る途中に覆面をしたごろつきの襲撃にあった。返り討ちにしてやったがな。恐らくさっきの偽者の仲間か雇われた者達だろう」
「そう言えばあなたと同じ第二世代の偽者があなたの姿を見て、酷く驚いていましたね」
「計画がどうとかとも言ってましたっ」
「ぐふ。間違いなく奴だろうな」
「そうですね。彼は装備をヴィヴィに似せていたこともありますが、アリスの名前も知っていましたから相当前から私達の事を調べていて、この作戦を決行する機会を狙っていたのかもしれません」
「ぐふ。それがまさか他の偽者に邪魔されるとは夢にも思わなかっただろうがな」
「そうですね。もし、あの場に第二世代の彼だけがいたらすぐには気づかなかった可能性もあります」
「ですねっ。わたしですらっ一瞬、あの人を本物と思ってしまったくらいですからっ」
「「「……」」」
「えっ、えへへっ」
再び冷めた視線を向けられたアリスが強張った笑顔で誤魔化した。
リオがヴィヴィの姿を見ながら尋ねる。
「ヴィヴィ、魔装具はどうだった?見たところ直ってないみたいだけど」
「ぐふ。ダメだった」
「そうなんだ」
「……ぐふ、さっきの奴のを奪えばよかったか」
「やめなさい!」
「ぐふぐふ」
「ざっく!リサヴィ!待ってくれ!」
背後からの声に皆が振り返る。
その声の主は先ほどのカルハン第一世代魔装具を装備した魔装士だった。
「まだ何か?」
「ざっく。騙そうとしたのは悪かった。謝る!だが、俺を、あ、私、いやもうバレてんだからいいか、俺をパーティに加えてくれないか?」
どうやら彼の一人称は”俺“でさっきまではヴィヴィを真似て”私“と言っていたようだ。
ヴィヴィが冷たく言い放つ。
「ぐふ。魔装士は二人もいらん」
カルハン第一世代魔装具を装備した魔装士はヴィヴィの言葉を無視してじっとサラを見つめる。
「何か?私の意見も同じですよ」
「……ざっく、この手だけは使いたくなかったんだがな」
そう呟くとその魔装士は仮面を外した。
若い男の顔が現れる。
美形ではないが、人懐っこい顔をしていた。
「見てわかるだろ。俺、童顔ってよく言われるんだ」
「……それで」
サラのこめかみに怒りマークが浮かぶのに気づかず彼は話を続ける。
「まあ、ショタって歳じゃないけどよ。へへっ、お前の趣味に多少近づいて……ぐへっ!?」
短気克服のためにわざわざヴィヴィの偽者達の相手をして、手を出さないように必死に我慢していたサラであったが、彼の発した言葉が最後の一線を超えてしまった。
サラにぶっ飛ばされたその魔装士はくるくるくると三回転しながら宙を舞い、ぼてっと落ちてアホ面晒して気絶した。
うっかり手が出てしまった事にサラは一瞬ショックを受けるがすぐに立ち直る。
(て、手加減は出来てたし!ギリセーフよ!)
「本当にセーフか?」と突っ込む者はいなかった。
短気克服のためにヴィヴィの偽者達の相手をしていたことなど誰も知らないし、そもそもサラの頭の中の言葉が聞こえる者はいなかったのである。




